※この記事は2021年02月24日にBLOGOSで公開されたものです

3月にかけて本格化するスギ花粉の飛散。花粉症の人にはつらいこの時期ですが、いましか撮影できない幻想的な写真もあるんです。

日々、空や雲など気象に関する美しい写真をSNSにアップしている気象庁の気象研究所研究官の荒木健太郎さんに花粉症シーズンに撮影できる写真や、激レアな気象写真を教えてもらいました。

【聞き手＝清水駿貴、写真・イラスト＝荒木健太郎さん提供】

※本記事では太陽付近に現れる気象現象などに関する情報を掲載しています。写真撮影や観察の際は、太陽光を直接、そして長時間見ないように十分注意をしてください。

花粉の中で撮れる幻想的な「光環」

この季節にチェックしておいてもらえるといいなと思うのが、「花粉光環」というもの。これはもともと「光環」という現象です。

「いわし雲」や「うろこ雲」、「ひつじ雲」と呼ばれているような、水でできた雲があるときに、雲が太陽にかかると、太陽の周りに虹色の光ができる現象なんです。

2～3月の花粉シーズンになってくると飛散するスギ花粉は球形に近い形をしてるので、雲の粒と同じように光を回折するんです。

特に雨上がりの風が強い晴れた日は花粉がたくさん飛ぶので、虹色の光の環がすごく鮮やかに出たりすることがあります。

どうやって撮るの？

建物や街灯など、何かで太陽を隠すと撮りやすく、肉眼でもはっきり見えます。

ただ、撮影の際は太陽を肉眼で直接見ないように十分注意してください。

比較的観測がしやすく、指などで太陽を隠すなど割と手軽に撮影できます。

でも、これが見えているということは上空に花粉がたくさん飛んでいるということなので、花粉症の人にはつらいところではありますね。つらい中でもこういう綺麗な虹色と出会えるんだと知っていただければと思います。

荒木さんが写真をSNSにアップするワケ

私はいろいろな空や雲の写真を撮って、ほとんど毎日、SNSに投稿しています。

これは、空や雲に興味を持ってもらうことが、気象情報をきちんと確認するということなどにつながると感じているからです。

研究もSNSでの発信も、防災につなげたいという思いで行っています。

きれいな空や雲を探して、写真を撮影することが気象に興味を持ってもらうきっかけになればと。

1分ほどで消える激レア雲「フラクタス」

では、撮影することができたら珍しい雲を紹介していきたいと思います。

まずは、波打っているような雲で、「フラクタス」と呼ばれてる雲です。

フラクタスというのはラテン語で「波」という意味なので、そのままですね。結構、時間変化が大きく、この雲を見かけても1分ぐらいですぐなくなってしまいました。

いろんな場所で出現していると思うのですが、注意して空を見ていないとすぐに消えてしまうという雲なので、フラクタスを見かけた方はぜひ写真を撮ってほしいです。

「馬蹄渦」のシャッターチャンスを逃さないで

また、今の時期だと、綿雲みたいな積雲ができてはすぐに消えることがよくあります。そういうときは馬蹄渦（ばていうず）と呼ばれてる雲がよく出ます。

綿雲みたいな積雲が消えるタイミングなどで、空気の乱れにともなう上昇流と下降流の間で渦巻いてる部分が可視化されたものです。

これも本当にすぐ消えてしまうので、見つけた方はシャッターチャンスを逃さないようにしてください。

太陽の周りに虹色 テンション上がる「アーク」

春にかけては、「大気光学現象」という現象によく出会えます。

空に薄雲がかかって氷の雲が広がると、太陽の周りにいろんな虹色ができるんです。

例えば「逆さ虹」と呼ばれている太陽の上のほうにできる「環天頂アーク」。あとは「幻日」などいろんな現象があります。

どこで起こるかという、場所さえ把握しておくと、割と見つけやすいです。

「環天頂アーク」は太陽に手を伸ばしたとき、その真上、手の平2個分ほどの場所にできます。

意識的に空を見ていないとなかなか見つけられませんが、薄雲が広がってるときには見られる可能性が高まります。

朝や夕方など、太陽高度が低いときは環天頂アークだけでなく、太陽の左右に現れる「幻日」にも出会いやすくなります。

一度にいろんなアークが見えることもたまにあり、それを写真に収めることができると、テンションが上がるはずです。

日の出と日の入りを知っておけば楽しめる「マジックアワー」

今の時期の太平洋側は、結構晴れている日が多いですが、そういうときは「薄明」と言って、日の出前と日の入り後に、きれいなグラデーションがよく見えることがあります。

だから、日の出の時間と日の入りの時間をチェックしておいて、そのタイミングに合わせて空を見てみるというだけでも、割ときれいな空には出会えます。

特にこの薄明の時間は空の色の変化が大きく、短時間で色合いも変わっていきます。これが1日2回も楽しめるので、タイミングを逃さないようにしていただけると。

薄明の時間は、「マジックアワー」とか「ゴールデンアワー」というふうにも呼ばれていて、簡単にきれいな写真が撮れるいい時間帯なので、その辺を狙って撮ってもらえるといいですね。


『雲を愛する技術』（荒木健太郎、光文社新書）

語り手プロフィール：荒木健太郎
雲研究者．気象庁気象研究所研究官．博士（学術）．
1984年生まれ．茨城県出身．慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業．地方気象台で予報・観測業務に従事した後，現職に至る．専門は雲科学・気象学．防災・減災のために，豪雨・豪雪・竜巻などによる気象災害をもたらす雲の仕組み，雲の物理学の研究に取り組んでいる．著書に『雲を愛する技術』，『世界でいちばん素敵な雲の教室』，『雲の中では何が起こっているのか』，『せきらんうんのいっしょう』，『ろっかのきせつ』など，監修に映画『天気の子』（新海誠監督），『天気と気象の教科書』（Newton別冊），『気象のきほん』（Newtonライト）などがある．