※この記事は2021年02月09日にBLOGOSで公開されたものです

通常国会が開会し、国会論戦も本格化しました。今国会も前半戦はコロナ国会の様相を呈していますが、一方で国会議員の不祥事や4月の国政補選などによって、政局も変化しつつあります。菅内閣の支持率が低下の一途を辿る中、内閣支持率低下の理由と今後の見通し、さらに国政補選のみどころについて考えてみます。

内閣支持率の低下を3つのフェーズで考える

菅内閣の支持率低下は、その要因から3つのフェーズに分けられます。

第1に、就任時のご祝儀相場から低下していった昨年9月から11月頃の時期ですが、この時期は菅総理としては内閣総理大臣としての独自色を出したい、オリジナル政策の推進をしたいという考えと、新型コロナ対策をしっかりとやってほしいという国民との思いがミスマッチしていました。携帯電話料金の引き下げやデジタル庁創設といった政策は国民生活に直結する内容で平常時であれば国民の支持を得られた可能性が高いですが、このような非常時において国民に訴求する内容ではなかったことが最初期の支持率低下に繋がったとみています。

第2のフェーズが、いわゆる第3波と呼ばれる感染急増期です。特に昨年末にかけての感染者急増時期に際し、臨時国会を閉会したことや特措法改正を通常国会に持ち越したこと、さらにトップメッセージとしての記者会見が少なかったことなどから、リーダーシップとしての資質が問われることとなりました。特に感染急増期は知事などの首長が日々記者会見などを行いますが、小池東京都知事や吉村大阪府知事と比べて会見の回数も少なく、また棒読みとも評された対応も内閣への評価や期待が下がった要因とみるべきでしょう。

そして第3のフェーズが、一連の不祥事による政治不信が報道された時期です。年末には農林族を中心とした鶏卵業界による贈収賄疑惑で与党議員が辞職する出来事がありました。さらに年が明けて緊急事態宣言下で開かれた通常国会では、与党議員による「銀座会食」や、公設秘書のカラオケ参加によるクラスタ発生などといった報道がなされるなど、国民に我慢を強いている中での不祥事があり、内閣・与党支持率に影響を与えています。

支持率低下「第4のフェーズ」で青木率を下回る可能性

これら3つのフェーズにより内閣支持率は歴代内閣と比べても最悪の部類に入る下がり方をしてきましたが、ここで支持率の低下が止まるでしょうか。実は先に述べたフェーズでも、第2フェーズと第3フェーズの間、1月中旬頃には内閣支持率が下げ止まる動きも見られました。ところが与党議員の不祥事によって再度下降フェーズに入ってしまい、危険水域間近となっています。筆者は、この後第4のフェーズとして3月7日に明ける予定の「緊急事態宣言」が再々延長になるリスクや、3月には決まるはずの「東京五輪の開催可否最終判断」に注目をしています。

まず緊急事態宣言再々延長のシナリオを考えます。すでに緊急事態宣言の延長という事態で国民の中につかれも見えてきていますが、仮に緊急事態宣言解除が3月7日にできなければ、内閣の見通しが甘かったという指摘はもちろん、中小企業をはじめとする事業主の事業継続意欲が削がれる可能性が高まります。また、雇用調整助成金や各種休業補償といった施策こそあるものの、事業主による雇用維持意欲が低下すれば、年度末で雇用契約が終了する失業者が増える可能性も高まり、「失業率が高まれば内閣支持率が下がる」という方程式に基づいてさらに支持率が低下する可能性もあるでしょう。

この点、菅内閣はこの方程式を理解した上で「雇用維持」を景気対策の筆頭に持ってきていますが、事業主の事業継続意欲すら無くなってしまえば、これらの施策も難しくなります。また、再々延長の判断には「ワクチン接種」が順調に始まるかどうかも大きなファクターになるでしょうが、すべてスムーズにいくかどうか、西村大臣や河野大臣の手腕も試されています。

また、東京五輪の開催可否についても大きな焦点となるでしょう。1月のIOC理事会では、東京五輪開催の方向性でまとまっていますが、3月に予定されている次回のIOC理事会ではより具体的な開催方法について決める必要が出てきます。国内世論では東京五輪開催に否定的な声も大きく、開催主体と世論との乖離が大きくなる中で政府が開催を強行するような構図になれば、これが第4のフェーズとして支持率低下に繋がる可能性もあります。

いずれにせよ、第4のフェーズに入ってしまえば、いわゆる「青木率」(元内閣官房長官でもある青木幹雄氏が提唱した、内閣支持率と与党第一党支持率の和が50%を切ると与党は次の選挙で下野するという方程式)を下回ることが視野に入り、与党にとって選挙戦は相当厳しくなるでしょう。

国政補選「与党の1勝2敗」が永田町のコンセンサスか

前段で「与党にとって選挙戦は相当厳しくなる」とまで書きましたが、実際のところどうでしょうか。衆院解散総選挙は今年春か秋のほぼ二択、実際は秋の可能性が非常に高いとは思いますが、一方で衆参補選は法律に基づいて4月25日投開票で行われます。

衆院は北海道2区ですが、与党が擁立を断念したために、野党が不戦勝をすることがほぼ決まっている情勢です。参院は故羽田雄一郎議員の死去による長野県選挙区と、河井案里参院議員の辞職による広島県選挙区ですが、長野県選挙区は以前から改選定数1のため、与党は元衆院議員の小松裕氏、野党は故羽田雄一郎議員の弟にあたる羽田次郎氏で一本化する動きで、与野党が直接対決となることがほぼ確定しています。ただし、直接対決とは言うものの、前回参院選では得票率で15%もの大差が開くほどの選挙でもあり、選挙に強いことで有名な後援会「千曲会」による弔い合戦ということからも、野党に相当有利に働くことが想定されます。

一方、広島県選挙区は改選定数2であり、すでにもう1議席は野党が獲得しています。仮に野党候補が勝利すれば定数2を野党で独占できる一方、次の通常選挙では野党議員同士が競合してしまうことを考えれば、野党がどこまでこの補選を真剣に戦うのか、またリソースを割くかはまだわかりません。選挙違反があったとはいえ、与党の強い選挙区であり、通常であれば定数1の選挙で野党が勝つ可能性は低いようにも思えます。

よって、今のままの流れでいけば、「与党の1勝2敗」が永田町のコンセンサスと言えるでしょう。仮に広島県選挙区で野党が勝ち、補選を与党が全敗することがあれば、内閣支持率や政党支持率は総崩れになることが想定されます。一方、長野県選挙区で与党が勝利することがあれば、「与党の2勝1敗」となり、支持率低下の底打ち効果も期待できます。

衆院選の展望 シナリオ次第ではさらに厳しい結果も

今秋とも言われている衆院選ですが、ここまで述べた補選の影響のほか、東京五輪の開催成否などにも大きな影響を受けるでしょう。衆院総選挙が視野に入るにつれて、特に昨年秋から立憲民主党の支持率が上昇し、日本維新の会の支持率が低下しています。これは、小選挙区制度である衆院選を意識して有権者の政党支持が自民党・立憲民主党に二極化する動きが始まったとも言えます。

また、連立与党の公明党は、大阪都構想住民投票で公明党支持者が二分したことや、党若返りの期待を込めて小選挙区に転出させた遠山清彦議員の不祥事による議員辞職が党勢拡大に水を差す事態となっており、次の総選挙で比例ブロックを中心に議席を守り切れなければ今後の党勢にも影響を与える、まさに分水嶺の選挙となります。

細かい政党ごとの分析や小選挙区ごとの分析はさておき、本稿執筆現在で衆院解散であれば与党の議席減は10~15議席程度と思われますが、ここまで述べてきた「第4フェーズ」や「国政補選与党全敗」といったシナリオによっては、さらに厳しい結果が待っていると思われます。与党が下野するような事態まではまだ考えられませんが、まずは3月のコロナ感染状況や東京五輪を巡る動き、さらに参院補選広島県選挙区の動きを注視したいと思います。