若者よ、参議院選挙に行こう。自分の金を誰に使わせるか決める投票は楽しいぞ - 毒蝮三太夫
※この記事は2019年07月17日にBLOGOSで公開されたものです
参院選か・・・俺も昔、参院選を手伝ったことあるよ。親友の立川談志が立候補したときにさ、仲間内でポスター貼りを手伝ったんだ。100枚も渡されてさ、あれは地味で大変な作業なんだよ。掲示板がある住所を頼りにあちこち回ってさ、のりつけて貼ってくんだから。俺なんか面倒だから10枚ずつ重ねて貼ってやったよ(笑)。他のポスターに比べて談志のとこだけ厚くてこんもりしてんの。「こりゃ目立っていいね~」なんてね。作業終わって選挙事務所戻ったら談志が「もう終わったのか、早いな」って言うから「10枚ずつ重ねて貼っといたよ」って。そしたら「バカヤロウ!」だってさ、アハハハハ。懐かしいよ。
今は選挙ポスターも、支援者が汗かきながら各地を回って貼るのは少なくて、作成からポスター貼りまで一括して引き受ける専門業者に任せるんだろ。ポスターが貼られてる候補者は、その経費を支払う金があるって話だな。立候補してもポスター貼りが出来ない候補者もいて、そこで選挙資金の有無という格差があからさまに出るわけだ。
只今、参院選の真っ只中――。政見放送や街頭演説やらチラシやらで、「年金問題をどうする」「消費税をどうする」「介護士不足をどうする」「子育て支援をどうする」「教育の無償化をどうする」「低賃金問題をどうする」・・・まあ、色んな政策や主張が飛び交っている。
政治とは集めた金をどう分配するか決めること
でね、どんな公約であろうと、どれもこれも突き詰めれば、行きつく先は「金」なんだよな。政治っていうのは外交を別にして、内政、国内政治ってことで捉えれば、その仕事は詰まる話がいかにして国民に「金」を分配するかだよ。「金」はもちろん納税者である国民が納めた税金だ。あなた自身が一年間働いてさ、源泉税やら確定申告やらで納めた税金だよ。今は消費税があるから物を買うたびに税金がかかる。それこそ5歳の子どもだってアイスクリームのひとつも買えば税金を払っていることになる。最近は街中で女子高生が正露丸入りのドリンクをチュウチュウ飲んでるだろ? ほら、カエルの卵みたいなやつだよ。タピオカミルクティーって言うの? そうそう、あれだってきっちり消費税とられてるんだ。み~んな立派な納税者だよ。
政党や候補者たちは、政策という方針を掲げて主張しあって、その結果、国の財布を握る権利を選挙で争っているわけだ。だから、政党の主張とか、候補者の発言とか、応援演説とか、政見放送とか、どれもこれもおしまいに次の言葉を付け足すとグッとわかりやすくなるぞ、「・・・ということを実現するために、国民の税金を使わせてください!」。
つまり選挙で投票するってことは、「あの人にならオレが納めた税金を託したいな」とか「あのヤロウにオレが納めた税金を使われるのムカつくな」っていう自分の考えを一票に託すってことだ。投票は税金という「金の使い道」に票を通じて「口を出す」ってことだ。
その一方で現実を見れば、選挙が来ても投票をしない人、投票に行かない人がざっくりと有権者の半数近くいる。「誰を選んだって世の中変わりゃしないよ」なんてね。口を出さない人々だな。
この、投票しないってことを「金」という視点で改めて見てみようか。これ要するに、選挙結果で与党になった側から見たら「投票しなかった皆さん、皆さんの税金ごっつあんです。こちらで自由に使わせて頂きます」ってな話だよ。
おいちょかぶで言えばクッピン、シッピンで親の総取りだ。え、おいちょかぶ知らない? だったらルーレットで言おうか。あなたのチップは赤だの黒だの数字だの、どこかを選んで賭けるわけでもなく賭け枠の外にある。そして、ルーレットが回り終わった時点で結局あなたのチップはディーラーに自動的に没収される・・・って感じかな。
だから、投票しない、投票に行かないってことは、その時点でずいぶんと気前のいいことをしているってことでもあるよ。ちょっと、自分が年間にどれぐらい税金を納めているか思い浮かべてごらんよ。それなりに働いてたらさ、おそらく何万円とか何十万円とかって納めてるはずだよ。もっと納めてる人もいるだろうよ。
でね、世の中には色んな大人がいてさ、「国民は税金だけきっちり納めて、あとは投票に来ないでくれたほうが都合がいい・・・」って考える立場の人もいるんだよ。おいちょかぶの親玉みたいなのが。その人から見たら、選挙に行かない人って、美味しいカモなんじゃないの?
なにしろ選挙ってのは昔から、投票率が低ければ低いほど与党が有利になるからね。だから投票しない人が多いと世の中は変わらない。その結果、与党に政治を一任することになる。そうなるとあとは与党首相の良心に頼るしかないんだな。
若者を選挙に参加させるためには
選挙があっても、投票しない、投票に行かない世代の代表が若者だ。2015年に改正公職選挙法が成立して、選挙権が20歳から18歳に引き下げられた。そして最初にあった国政選挙がちょうど3年前、2016年夏の参院選だ。その、投票率が以下だ。どうだい、中高年層に比べて若年層の投票率は何だか低いよな。とりわけ20代の投票率が低いね。20代は100人いたら35人が投票して65人が棄権ってことだもんな。これね、その翌年(2017年)の衆院選もほぼ同じなの。20代の投票率は「33.85%」と低かった。
原因は幾つかあると思う。その一つは、若者の心に響く候補者がいない、魅力ある人物がいないってことだろうな。サッカーの日本代表にはお気に入りの選手がいるけど、政治の日本代表には贔屓がいない。サッカーで誰が代表選手に選ばれたってことには関心があっても、政治で誰が国会議員に選ばれたってことには無関心・・・。
サッカーぐらい政治が20代の関心を惹きつけるにはどうしたらいいか。やはり、オッサンやオバサンばかりでなく、若い候補者がもっと名乗りあげてくれたらいいと思う。同世代が第一線に出てこないと。被選挙権は衆議院なら25歳以上、参議院なら30歳以上だ。でも、参院選に出馬するための供託金は選挙区で300万円、比例区で600万円。この高さはネックだよな。若者の立候補は供託金を割引いてやったらどうかな。
20代30代の立候補は供託金10分の1とかさ。そしたら若い候補者が増えるだろ、そうなれば若者の選挙への関心も高まるんじゃないの? 選挙のたびに「投票へ行きましょう」ってキャンペーンをアイドルとかタレントとか使ってやるだろ。あれは総務省が大手広告代理店に高い金を払ってやってるのかな。あれよりも、若者の立候補の供託金を下げてやるほうが、ちっともお金かけずに若者の投票率を上げる妙案だと思うよ。
若い人を掘り起こしてさ、政治の場に新しい世代が新しい風を吹かせればいいんだよ。あのね、若者だからって国政に力不足だなんてことないよ。年齢は関係ない。だって国会を見てごらんよ、いくら年を重ねててもさ、大人げない連中多いだろ(笑)。
20代の投票離れ、投票に行く時間がもったいないって人も多いみたいだな。期日前投票もあるけど基本的に投票日は日曜だ。せっかくの休みに投票に行くぐらいなら家で寝てたい、友達と会いたい、買い物に行きたい、スマホいじってたい、色んな理由があるだろう。
いずれ遠くない将来、スマホでも投票できるようになるかもな。そうなれば若者の投票率はグッと増えるだろう。令和の時代はスマホ投票が日本を変えるかもなぁ。そんな時代を見てみたいね。ちなみにオレはスマホを持っていないから、ぷらぷらと投票所に行くけどね。
あらためて20代に言いたいけど、選挙ってのは面白いぞ。もしかすると、まだその面白さを知らないだけかもしれないぞ。候補者をざっと見渡したらさ、信用できそうな顔もあれば胡散臭そうな顔もあるよ。
でも、その中から自分が納めた税金をこの人になら託したい、この人にだけは託したくない、自分の「金」の行方をイメージしながら誰に投票するか選んでみるといいよ。自分の一票が、自分が納めた消費税、所得税、住民税、国民健康保険料、国民年金につながっている・・・そう思いながら候補者を選ぶんだ。そうするとさ、選挙が他人事でなく自分事になってくるよ。
でね、投票したあとは、自分が投票したあの人は何票集めるだろうか? 自分と同じ選択をした人が世間には何人いるんだろうか? 果たして当選するのかしないのか、投票数で誰に勝って誰に負けるのか・・・。そんなことを帰り道に考えたらいいよ。
そうそう、コンビニに寄って缶ビールとポテトチップでも買ってね、風呂でも入って、テレビの選挙特番が始まるのを待つの。そうすると夜8時になるだろ、そこから一斉に全国津々浦々の当落が飛び交うよ。気になる与野党の議席数も出てくる。そこで、自分が一票を投じた候補者がどうなったかをしかと見届けるんだ。ビール片手でいいよ(笑)。
自分が投票した候補者に、もし当選確実が出ればバンザイ三唱の祝杯だ。もし落選が決まったら涙酒のヤケ酒だ。そうして、一票を投じることで選挙を自分事にしてさ、開票を楽しめばいいんだ。
アイツだけは落としたい
「誰を選んでいいかわからない時は消去法でもいいから選ぼう」なんて意見も昔からあるよな。そうは言っても誰も彼もピンと来ないってなると、これまた投票離れにつながっちゃう。そこでひとつの考え方だけどね「マイナス投票」って方法もあるよ。この人に一票入れたいっていう票じゃなく、こいつだけは受からせたくないって人にマイナスの票を投票できるようにするの。つまり自分の一票をプラス・マイナスどっちに投票してもOKにするんだ。「好きなタレント嫌いなタレント」なんてのと似たようなもんだよ。
マイナスに入った票はマイナスでカウントされるから、もし1万票集めてもマイナスが9999票だったら、その人の最終得票は1票になる。れっきとした民意だろ。中にはマイナスしか入らない人も出てくるよ。そういうのは結果を発表するのがいたたまれないけどな。
でも、候補者を見比べた時に、いいのは選べないけど、イヤなのだったら選べるってパターンは絶対あるよ。立川談志がよく言ってたもん、「あいつだけは落としたい」って。マイナス投票も、選挙離れしている若者の掘り起こしになるんじゃないか?
まあ、実際に実施したら世の中かなり殺伐とするだろうな(苦笑)。だから、まずは投票に行って支持する候補者に投票して、そのあと自分の心の中でマイナスの投票を1人選んでみる。あくまで架空の投票としてね。そうするとさ、開票特番を見る楽しみがひとつ増えるよな。
投票すれば自分とビールの味が変わる
そうそう、最近、香港の大規模デモがあったよね、あれはすごかったな。若者が中心になって社会を動かそうとしてね。あそこまで行ったらすごい影響力になるよ。世界中にも報道されるし、政府はデモを鎮める為に動かざるをえない。あのね、日本の若者もああなればいい、許せない不満にはデモをすればいい・・・なんて話をしようとは思わないよ。だって日本の若者――20代はさ、約65%が選挙で投票してないんだから。危険な思いをして路上をデモで占拠しなくたっていいんだ。この65%の若者が投票に動いたら、デモ以上に多くのことが変えられるよ。
最後に繰り返すけど、選挙は自分が納めた税金、「金」の行方を誰に託すか決める場だ。もし周りに、「選挙行かない、興味ない、投票日知らない」なんて言ってる20代の若者がいたらさ、このコラムの話でもしてみてくれよ。「毒蝮がおいちょかぶで例えてたけど・・・」ってな(苦笑)。
でね、「選挙行ったって世の中変わらないでしょ」なんて言ってる20代の若者がいたら、こう話してあげるといい、「いっぺん投票してみな、世の中が変わるかどうかは置いといて、投票すると自分自身が変わるよ」って。「なにしろ、開票特番を見ながら飲むビールの味がどうなるか、ドキドキするよ」って。
(取材構成:松田健次)