北朝鮮の米国外交担当が粛清されたか トランプ大統領ツイートで再び動き出した米朝プロセス - 田野幸伸
※この記事は2019年07月11日にBLOGOSで公開されたものです
7月1日に都内で開催された内外ニュース主催の講演会。G20で重視していたことやツイートから始まった前代未聞の米朝首脳会談について、河野太郎外相が興味深い裏側を明かした。前回に引き続き、その発言をまとめた。【取材・撮影:田野幸伸】
河野:おととい(6月29日)までG20をやっておりました。G20とは言いますけども、実際にはG20のメンバー国以外も招待していますので全部で27カ国。それに10の国際機関が来まして、日本の国際会議としては最大規模でした。
中には「こんなG20をやる意味があるのか!?」という評論家の方もいらっしゃるようですけども、世界経済の大半を占める20カ国が集まって、少なくとも色々な議論をし、どこに相違点があるのか共通点があるのかをプレイアップする。こういう場面は大事なんだと思います。
G20で気を配った「プレスセンターの食事」
G20というのは中身も大事ですけどもロジもしっかり考えなければいかんなと。その前に筑波でG20の貿易大臣会合、貿易・デジタル経済担当大臣会合というのがありました。AIについてG20で共同声明を出したり、中身的には成功だったと思うんですけれど、ロジ面でいうと記者さんのプレスセンターを作ったけど、そこにはメシがなんにもない。「メシが食えなかった」というクレームになったりしたので、とにかくG20はいかにプレスセンターのメシをしっかりすることが大事かという哲学がありました。
実は代表団の食堂よりもプレスセンターの食堂の方が中身が充実していたんではないかというクレームが代表団の方から来るといった話もありました。
プレスセンターから食堂へ行く導線に大阪の伝統文化の紹介ですとか、あるいは日本の最先端技術の紹介というのを置いて、そこを通らないとメシが食えないという導線にしました。しかも食堂の前にライブキッチンと称して、お好み焼き屋、たこ焼き屋、串揚げ屋、うどん屋だったかな。目の前で作って食べてもらうというのをやりました。
大阪の食文化というのが27カ国から来たジャーナリストによって色々なところに発信をしてもらえたんではないかなと。やっぱりこれは非常に大事だなというので、来年G20を開催するサウジアラビアの関係者にも「これが大事だからしっかりこういうことをやった方がいいよ」と。頭を抱えていたのかもしれませんけど、やり方は日本の経験をシェアをするからと。そういう話をしてG20、無事に終わりました。
ツイートから始まった米朝首脳会談
G20が無事に終わったかなと思いましたらば、例のトランプ大統領のツイートから色々なことが始まったわけでございます。昨日(6月30日)の板門店の会談を受けて、夜ポンペイオ国務長官から「電話をしたい」と言われたので、夜に電話で話をしました。とにかくトランプ大統領がツイートをしたら、小一時間で北側からレスポンスがあったと。それでアメリカ側も驚いたんだと思います。
そういうレスポンスがある色々な動きがあって。これは本当に北朝鮮は首脳会談をやる気かもしれんというので、アメリカ側も準備をしっかりしなきゃいかんというので、3時過ぎからやるなら首脳会談でいくぞと。「それは確率どんなもんだ?」って言ったら「それはわからん。だけど準備はする」という話でした。
ポンペイオ国務長官に「やるっていう話をいつ確信したの?」って聞いたら「金正恩委員長が来るまで、我々も半信半疑だった。ずっと待ってたら車列が来て金正恩委員長が降りてきたので首脳会談をやるんだと思った」という風にいうので。もう本当に瓢箪から駒と言いますか、ツイッターから首脳会談という。その時にポンペイオ国務長官と私で「やっぱりこれからの政治家はツイッターでやるのが必須だな」と言って2人で笑っておりました。
トランプ大統領にポンペイオ国務長官、金正恩委員長と北朝鮮の李容浩外務大臣と4人で話をして。とにかくチームを立ち上げようじゃないかと。アメリカ側はポンペイオ国務長官をリーダーとする今までのコンビでいく。北朝鮮の方が金正恩委員長が「じゃあこっちもチームを立ち上げる」という話になったそうであります。まだ北朝鮮側は誰が出てくるのか、正直決まっていないようですけど2~3週間のうちにチームが立ち上がって事務方のすり合わせが始まる。また米朝プロセスが動いていく。そういうことになるだろうと思います。
ハノイの失敗で北朝鮮の担当者が粛清されたか
ハノイでの会談の後、合意ができなかった。金正恩委員長からの提案をトランプ大統領が受けずにそのまま席を立ってしまった。恐らく北朝鮮側はあの会談はあまり成果が出なかったという風に認識をしているんだと思います。ポンペイオ、ビーガンのカウンターパートでやった北朝鮮側の人が行方不明になっているケースもあって。どういう状況にあるかっていうのは色々な噂が出ています。確認されたことはありませんけども、ちょうど私が日露の平和条約交渉をやっている時にメモが入って、責任者が粛清されたみたいな話になったので。ロシアのラブロフ外相がこういうニュースが入ってきたって。それを聞いて2人で「ヤバイね、それは」ってそんな話をした覚えがありますが、それで向こう側のチームが無くなってしまったものですから。ハノイの後、米朝プロセス再開といっても何かきっかけがないと北朝鮮側でチームを作ってやろうという雰囲気にならなかったんだと思います。
米朝プロセスは再開しますけども条件的にとくに変わったことはない。つまり朝鮮半島の非核化。非核化という時には生物兵器、化学兵器、核兵器。これをCVID(完全:Completeかつ検証可能:Verifiableで、不可逆的:Irreversibleな非核化:Denuclearization)する。それから全ての射程のミサイルもCVIDする。そういうことで制裁を解除する。
制裁が解除されれば外国からの投資も入るし、経済支援も入ってくる。こういうことに繋がっていくわけです。それの前提には何の変更もない。チームが立ち上がって、もう1回きちんと交渉が始まる。今まではいきなりトップが会って話をする。それも昨日の会談を見れば大いに意味のあることだと思いますが、やっぱり具体的に非核化をどうするんだというのは下からきっちり積み上げていって、「こういうことだよね」っていうことで合意をしてやっていかないと実際の物事は動かないよねと。
次はかなり下から積み上げていってある程度合意ができたところで首脳会談というプロセスに恐らくなっていくんだろうと思いますし、そうしていかないとなかなか進展というのは難しいのかもしれません。北朝鮮に対する安保理決議に基づいた制裁というのはかなりしっかり行われていて。「中国の安保理決議の分はちゃんとやるよ」っていうのが今の中国の立場です。ロシアも安保理決議に基づいているところはちゃんとやるよということになってます。
北朝鮮制裁の抜け穴をふさぐ
ただいくつか抜け穴があって。一番大きいのはよく瀬取りと言われています。東シナ海の海上で北朝鮮側に油を、船と船を並べてホースを渡して油を手渡す。あるいは北朝鮮の石炭を海上で移し替えて買っていく。そういう瀬取りと呼ばれる行為が頻繁に行われていると。安保理で定めた北朝鮮の原油輸入の上限を超える量が瀬取りで北朝鮮に入っている。これをなんとか止めるというのが今我々がやらなければいけない一番大きなことだろうと思っています。そのために沖縄の嘉手納基地を利用してアメリカ、カナダ、日本、オーストラリア。あるいはイギリス、フランスといったところが参加をしてくれて飛行機や船を出してくれています。それで東シナ海を見て。そうすると段々と瀬取りの位置が中国沿岸寄りに移って来るんですよね。私も王毅さん(中国外相)に「中国の沿岸寄りで瀬取りが行われているようだから、そこは中国側も厳しく取り締まってもらわなければ困ります」と申し上げ、必要な情報は共有していきましょうということにしています。ですからここは中国にきちんとやってもらわないといかんです。
2つ目は仮想通貨。暗号資産という風に変わったかと思いますが、ビットコインのようなものが日本でもかなり巨額に盗まれたという話がありました。かなりの部分を北朝鮮のサイバー部隊が暗号資産を盗んでいる。これに対するセキュリティをきちんとやっていかなければいけないということで、サイバー攻撃の防御が必要なところの人材育成とか能力構築支援というものは日米を始め色々なところからしっかりやっていかなきゃダメだなと思っております。
3つ目、かつては北朝鮮からかなりの数の労働者が色々な国に送り出されていました。極端なことをいうと、数百人、あるいは数千人単位で北朝鮮の労働者が送り出されていて、その賃金が北朝鮮政府の外貨収入になっていた。安保理決議で今年の12月までに北朝鮮の労働者はきちんと北朝鮮に送り返すということになっていますので、いまだに北朝鮮の労働者が残っている国については安保理決議の期限をしっかり守って、そこまでに解消してくださいねということをお願いしているところでございます。
そうやって安保理決議に基づいた制裁の抜け穴をきちんと埋めながら、北朝鮮が非核化に向けてしっかりと踏み出せる。そういう環境を作っていかなければいけないと思います。北朝鮮の非核化といった時に、1つは核兵器。もうすでに北朝鮮は核兵器を作っているということですが、核兵器をどうやって分解するかというのはNPT(核兵器不拡散条約)でいう五カ国。アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国でやらなければならない。つまり他の国が核兵器の分解なんかをやると、核兵器をどうやって作るかというノウハウが出てしまう恐れがありますから。核兵器に関してはこの五カ国が責任を持ってやります。
それ以外の再処理施設とか濃縮施設、あるいは原子炉の解体というのはIAEA(国際原子力機関)を始め、それ以外の国の技術も使ってやろうということで。日本はもしIAEAが査察に入るということならば、その支援はきちんと人の面でも財政面でもやりますよと。日本にも解体のノウハウがあるものですから。それについて求められれば人的貢献をするのはやぶさかではありません。ということを日本は申し上げていいと思っています。そうやってきっちりと北朝鮮問題を動かしていきたいと思っております。
そうして核ミサイルの問題が動いている一方で拉致問題については日本が直接最後は北朝鮮と話し合いをしなければならないと思います。トランプ大統領あるいはポンペイオ国務長官、金正恩委員長を始め北朝鮮側と会うたびに日本の拉致問題を提起して、触れていて。北朝鮮側もそこはしっかり認識をしている状況だろうと思います。
どういう段階であってもきちんと話し合いをスタートできるように我々の側としてはしっかり準備をしておきたいという風に思っています。