職場の上司からの同意なき性行為を「セクハラ」と認定 「私である必要なない」 懲戒処分は検討中 奈良県田原本町 - 渋井哲也
※この記事は2019年07月04日にBLOGOSで公開されたものです
奈良県田原本町は、法令遵守推進条例にもとづいて、職場で男性上司がおこなったとされる部下の女性に対するセクシャルハラスメントを認定した。部下の女性による内部通報による訴えについて、法令遵守委員会が審査をしていた。上司の男性は性的関係を認めた上で、「同意」したと主張していたが、女性の意に反するものであった、と認定した。上司は辞表を提出。すでに受理されている。町としては、新たな再発防止策と体制の検討を行うことにしている。
家族ぐるみの付き合いだった上司と部下
町の法令遵守推進条例では、職員が内部公益通報できる。町では、運用状況を発表している。それによると、18年度は内部公益通報が1件あった。概要としては、通報者が、当時直属の上司であった当該職員からセクハラを受けたとの通報があった。調査結果によると、当該職員の行為は少なくとも、セクシャルハラスメントに当たる行為、として認めた。一方で、当該職員が退職届を出したことで、懲戒処分にしなかったことについては、違法・不法とは言えない、とした。町としては、再発防止策の検討を行うことと、懲戒事由があったのか、関係者の対応に問題がなかったのかの検証を行うとした。
こうした事案の場合、二人にしかわからない事実関係もあるだろうが、町人事課は「公益通報者の女性と当事者の男性、第三者の話を聞いた。詳細には言えないが、客観的証拠もあった」として、通報内容を受け入れ、通報者に対しては、ケア体制を整えるとしている。その一方で、当事者の男性に対しては退職をしていることから、町として直接反省を促す行為はしていない。
町の公益通報者通報制度は、18年1月に施行された「町法令遵守推進条例」に基づくもの。職員らが、調整運営上の違法行為などを発見したばい、「要綱」に基づいて通報。その内容を法令遵守委員会で調査。通報通りの事実がある場合は、町長に、是正措置に関する意見をそえて報告することになる。町長は担当部署などに必要な措置を指示することになる。
筆者はその制度を利用し、通報した女性に話を聞くことができた。被害にあったのは2016年8月からの1年間。相手は職場の直属の上司(当時)。被害をうけるまでは2人は単なる上司と部下の関係だった。ただ、家族ぐるみの付き合いをしていた。
女性は、前職が同じであったことが、親近感がわく理由になったと話す。
「自衛隊に入隊していましたが、(一ヶ月前に起きた)東日本大震災の支援では、役に立たず、落ち込んだ末にやめました。その後、被災地のボランティアセンターで、支援物資の仕分けや配布をしていました。衝撃的でした」
今回、セクハラをしたと認定された上司と女性は席が隣でもあった。
「最初は、面倒見がよく、信頼できると思いました。慕ってくれる上司ができて嬉しかったです。被害を受けるまでは、妙に仲が良く、お昼ご飯もおごってくれたことがあります」
合鍵を要求されて…豹変した上司
女性の証言によると、上司が町内に引っ越すことになった。少しずつ荷物を運び出したいとの思いがあったようだ。そのため、女性が借りている部屋に空き部屋があると知った上司は「荷物を置かせてほしい」と言ってきた。その後、「いつでも物を自由に出し入れしたい」と、合鍵を要求した。女性は信頼をして、鍵を渡した。そんな中、上司に迫られた女性は従わざるを得ない心理状況になり、性的関係を結んでしまう。上司は同意があると主張したが、法令遵守委員会が審査の結果、認められなかった。
「最初は本当に荷物を出し入れするだけでした。しかし、家の鍵を渡したことは、なんでもしてもいいと取ったのでしょうか。次第に、『もうちょっといてもいい?』と聞いてきたこともあります。朝5時に来ることもありました。そして、寝ているところを無理矢理にされたこともあります。一緒に出勤したり、退勤したりすることもありました。土日を含めて、ほぼ毎日でした。被害を受けている時の記憶は曖昧です。嫌なことをされて、ボロボロなのに、涙も出ませんでした。明らかに泣くレベルのことなのに。結局、自分が悪いんじゃないかと、自己嫌悪になったりします」
改正された刑法の強制性交等罪となるには、暴行や脅迫が要件となる。改正前の「強姦罪」とほぼ同じだが、強姦罪の場合は「姦淫」に限定されていたが、強制性交等罪の場合は、姦淫以外の性行為も対象になっている。今回の場合は、暴行や脅迫は、法令遵守委員会が審査では明らかではない。しかし、女性の「意に反すること」として認められた。
「人間の体を使ったオナニー」避妊もしてもらえず
女性は「なぜ、性的関係が嫌なのか?」を説明もしたという。「上司のことは嫌いではない。信頼している。しかし、そうした行為が好きじゃない」と何度も言ったという。しかも、避妊もしなかったという。「せめてゴムをつけてほしい」との思いから、女性からコンドームを買ってお願いをしても、つけることはなかった。女性はこう振り返る。
「きっと、人間の体を使ったオナニーなんだと思います。私である必要はない」
内部公益通報前、まず体に異変が起きる。急性胃腸炎になり入院した。10キロ以上、痩せることになる。その後、精神科にも入院することになった。翌年度になって職場に復帰するが、職場には、セクハラの加害者である上司がいる。そのため、もう一回入院する。こうしているうちに、父親に「死にたい」と打ち明けるようになる。
課長にも相談をするが、「表沙汰にはできない」と言われる。その上、口外しないよう言われたと女性は話す(ただし、法令遵守委員会では、口外しないことを強制する趣旨だったとは認められない、として、違法性は認めなかった)。一ヶ月後、職場に再復帰をしたが、上司との関係は続くことになる。
「自分でも思慮が浅いとは思います。でも、自分では線引きはしていました。“そうした行為が好きじゃない”と何度も言っていました。線を引いてないのは上司のほうです。仕事の面では尊敬していましたが、上司と部下の関係を乗り越えてきたのは、上司の方。でも、なかなか第三者には言えませんでした。我慢すればいいの?と思ったり、毎日、職場で会う恐怖、周囲に知られることへの躊躇がありました」
被害女性「懲戒処分にしてほしい」
こうした職場内の男女関係の場合、密室での出来事のため、その時に同意だったかどうかは判断しにくい。しかし、そもそも被害を受けた女性は性的なことを遠ざける傾向があった。
「性的なことは苦手です。そのため、せっかくできた恋人とも、性的なことができないことを原因に別れたことがあります。その時は、相手に悪いから、自分から別れを切り出したんです。大切な相手ほど性的なことをしたくない。こういう気持ち、わかりますか?女性であること、女性として見られることに嫌悪感があるのかもしれません。それに発達障害だからか、非言語のコミュニケーションは苦手です。性的な行為は、非言語の最たるものじゃないですか」
この問題は町議会でも取り上げられた。
議員 私はこの件について10月31 日、町長と面談して聞かせていただいているんですよ、セクハラはありましたかと。ありませんでしたというのが町長の答えたんですね。ところがきょうは1件ありましたということですから、その点は、私は町長と個別にしゃべっても、議員にはちゃんとしたことを話していただけないのかなという心配を今しています
町長公室長 今回、相談のあったセクハラ申告につきましては、所属部課での対応中で、この流れの階段におけます人事課との連絡調整が始める前の状況と認識しております。ですので、ハラスメント対策委員会等のところまで、まだ及んでおりません。
女性は「できれば懲戒処分にしてほしい。議員が質問をしてくれたのは第一歩です」と話している。町としては「懲戒に値するかどうかを検討はした」としながらも、内容は非公開、としている。