老後2000万円問題で野党は「自民の失策」をいかせるか~田原総一朗インタビュー - 田原総一朗
※この記事は2019年06月27日にBLOGOSで公開されたものです
参議院選挙を7月に控え、国政が揺れ動いている。金融庁が作成した「老後の資産」に関する報告書をめぐり、野党が「年金だけで生活できないというのは、政府に責任があるのではないか」と与党を追及しているのだ。今回の一連の騒動をどう見ているのか、田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】「報告書を受け取らない」という麻生大臣はとんでもない
今回、大きな問題だといえるのは、「老後のために約2000万円の資産が必要」とした金融庁の報告書そのものではなく、野党の追及を受けた後の麻生・財務大臣兼金融担当大臣の発言だ。金融庁は「人生100年」といわれる今の時代における老後の生活のために、国民の個人資産をどう考えればいいかという報告書を作った。これは、金融庁の金融審議会のワーキンググループが作成したものであり、諮問したのは、ほかならぬ麻生金融担当大臣ということになる。
この報告書によれば、現在の年金制度のもとで、65歳以上の男性、60歳以上の女性が90歳以上まで生きるとすると、2000万円ぐらい不足する。だから、それぞれの家庭で老後に備えて、2000万円ぐらいの資産を自助努力で作らなければいけないのではないかと、報告書は指摘した。
これについて、野党が「政府はこれまで『年金は100年安心だと言ってきたのに、それは嘘だったのか」と追及したことから、政府は対応に追われることになった。安倍首相は国会で「政府の言っていることは間違っていない」と答弁したが、野党は追及の手をゆるめていない。
驚いたのは、麻生金融担当大臣が「報告書は受け取らない」と言ったことだ。その発言を受けて、自民党の森山国対委員長が「報告書はもうなくなった」と記者たちに話したのも、とんでもない話だ。
報告書を作ってくれと審議会に求めておきながら、報告書の内容が意に沿わないものだからなかったことにしてくれ、と。まさに、臭いものにふた。こんなにわかりやすい失言はない。これで、安倍内閣に対する国民の不信感が一気に高まったはずだ。
野党は「与党は嘘つきだ」というだけではダメだ
ただ、実際のところ、現在の年金制度は大きな問題がある。いまの制度は、年金を支払う世代の人数が減らないことを前提としていた。ところが、人口減少、少子高齢化で、年金を支払う人数はどんどん減っている。一方で、年金をもらう側は高齢化で逆に増えている。この年金制度は改革せざるをえない。僕は、与党幹部の政治家たちに「年金制度は改革が必要ではないか」と問いただしてきた。彼らは「その通りだ」と答える。では、どう改革するのかと聞くと、「本当は積立方式が一番いいんだ」という。自分が支払った分を老後にもらう方式だ。
いまの制度は、現役世代が老後世代の年金を負担する賦課方式をとっている。これを積立方式に切り替えるのは、相当時間がかかる。その間、どうやってしのいでいくかが問題だ。厚労省の幹部や政治家たちも、年金制度は改革しなければいけないとわかっていて、どうしたらいいかを考えている。
それなのに、安倍首相は「100年安心で問題ない」と言い、麻生大臣に至っては、報告書の内容が気に入らないから受け取らないと、むちゃくちゃだ。立憲民主や国民民主などの野党は、安倍内閣を攻撃する材料がなくて困っていた。そこに絶好の材料があらわれた。野党はこのチャンスをどういかせるか。
重要なのは、ただ与党を批判するだけではなくて、年金制度をどう改革すればいいかをしっかり示すことだ。野党は与党のことを「嘘つき」というだけではダメだ。年金制度をどうすればいいか、与野党問わず、考えないといけない。
73歳で大学に入った萩本欽一さんが示す「新しい生き方」
これまでの日本は、生まれてからだいたい20年が教育で、40年働き、その後、15年~20年は年金で暮らすというのが「人生のレール」だった。ところが、人生100年時代になると、それが通用しなくなる。このレールを打ち壊して、新しいレールを作らないといけない。どうすればいいか。若い世代の落合陽一や堀江貴文が言っているのは、仕事に限らず、好きなことをやるべきだということだ。自分の好きなことを見つけて、好きなことをやるのが大事だ、と。
先日、BS朝日の番組でタレントの萩本欽一さんと会って話した。
彼は73歳で、駒澤大学を受験して入学した。なぜ入ったか。「人間は70歳を過ぎると、物忘れが激しくなって、みんな困っている。だったら、新しい知識を入れればいい。そして、新しい知識を入れるためには大学に行ったらいい」と萩本さんは話していた。
彼は大学に行かずに、芸人の世界に進んだ。「ほかのみなさんは大学に行っているが、たぶん学ぶために行っていない。大学卒業という資格を取りたいから行っている人が多いだろう。大学も学びの面白みを教えていない」
そんな萩本さんは駒澤大学に入って「学ぶというのは、こんなに面白いことか」と知った。授業のたびに一番前の席で聞いていたそうだ。
しかも大学に行くと、友達がたくさんできるのも面白かった。いま定年になった人が孤独になって、ひきこもってしまうことが問題になっているが、それとは対照的だ。大学では、新しい発見がいっぱいあった。
結局、萩本さんは大学に4年通った。最後の年は単位をあえて取らずに自主留年したが、今年5月に自主退学した。「お笑いでもう一度、新しいことをやってみたい」という気持ちが湧き上がってきたからだそうだ。
60歳、70歳をすぎてから、再び学び直し、新しい好きなことを見つけて、人生100年の時代を生きていく。萩本さんの生き方は、いまの時代の象徴だと思う。