男女19人が寮生活 首相も輩出した松下政経塾の二日間に密着 - BLOGOS編集部
※この記事は2019年06月24日にBLOGOSで公開されたものです
松下電器産業(現・パナソニック)の創業者・松下幸之助(故人)が私財70億円を投じて設立した松下政経塾(神奈川県茅ケ崎市)が、今年で設立40周年を迎えた。「地盤・看板・カバン」がなくとも志ある若者を国会や地方議会などへと送り込み、その数は112人を数える。
「政経塾」と聞くと、堅苦しく厳しい印象は否めない。どこかベールに包まれた感もある。ところが、22~36歳の塾生計19人の生活に寝食を共にしながら1泊2日で密着すると、意外なほど和気あいあいとした雰囲気の中で、知識より人間性を備えたリーダーを養おうとする塾の教育を体感できた。それぞれの思いをカタチにしようと、若者が切磋琢磨する“学び”の現場を伝える。【岸慶太】
「寄席を見に行け」 塾を支える経験豊かなOB
「寄席を見に行ったらいいですよ。世間話から始まって、いつの間にか本題に入っている」。講師を囲むように10人の塾生が円卓に座っていた。「2分と言われたら1分半。つまらない政治家の話なんて誰も聞いていません。話が短くてスパッとしてる方が印象に残る」。講師が効果的なコミュニケーションについてアドバイスを続けると、塾生の表情は真剣さを増した。
講師は、2014年3月まで茨城県高萩市長を2期務めた草間吉夫さん(現・東北福祉大特任教授)。家庭の事情から生後3日目から高校卒業まで乳児院と児童養護施設で育った。市の財政を立て直した“改革派市長”として知られる。第16期OBで、政治の現場を知るOBの存在は塾の教育に大きく貢献している。
人材育成が方針の柱 受け継がれる松下幸之助イズム
「地方自治講座」と銘打った講義は、市町村の行政について現場感あふれる逸話が盛りだくさんで、元政治家らしい巧みな話術が心地よい。任期8年を振り返り、話が東日本大震災の対応に及んだ時だった。
資料を手にしていない私を見て、「あっ、この資料を渡してあげて」。すかさず男性塾生が私の元に駆け寄る。そして、こう続けた。「首長を目指す人は、周りの目を気にする感覚を持たないと。雨の日に掃除のおばちゃんに『大変ですね』と声をかけられますか」。松下政経塾では、身の回りに起きた出来事すべてがリーダーになるためのテキストだ。
人材育成の話になると、特に熱がこもった。在任中、茨城県や大手広告代理店・電通に市職員を派遣し、隣接自治体との人事交流、大学院留学、海外派遣も進めた。「収益は仕事が生み出す。その仕事を生み出すのが人です」。さらに言葉をつないだ。「人を育てるのは難しいが、それができない指導者は初心者マークです」。人材育成を重視した松下幸之助イズムを塾生に伝え続けた。
天下国家より身近な問題 変わる塾生の意識
現在、在籍している若者は37~40期。それまでの経歴は多種多様だ。
荒玉賢佑さん(26)=第38期=は、ジブリ映画『崖の上のポニョ』の舞台とされ、風光明媚な広島県福山市・鞆の浦で生まれ育った。架橋計画や地域の高齢化を通じ地方自治に興味を抱いた。札幌市出身で、ホクレン農業協同組合連合会で勤務した波田大専さん(30)=第39期=は、ロボットやICT技術を使ったスマート農業の普及を研究テーマに選び、将来は首長を目指す。
須藤博文さん(36)=第39期=は、弁護士の資格を持つ。刑事弁護に力を入れる中で、加害者の再犯防止や刑務所改革などの現状に疑問を抱き、その解決には政治の力が不可欠と感じるようになった。弁護士活動を昨年夏に中断させ、門をたたいたのが松下政経塾だった。
「自分は経済や経営、肝心の政治には素人。弁護士業務の傍らでは素養が身につくとは思えなかった」。司法にまつわる改革を進めたい思いを叶えるため、研修に忙しい日々を送る。将来の目標は、国政、地方自治ともに視野に入れている。「松下政経塾は自分の思いをとことん議論し合い切磋琢磨できる環境が、他の政治塾とは違う点なのかもしれない。しっかりと自らの志を磨き上げて、政治家としての力を養いたい」と前を向く。
政治以外の分野を目指す塾生も少なくない。高橋菜里さん(28)=第38期=は管理栄養士の資格を持つ。東日本大震災を契機に食べ物に制限を抱えている人の多さや、不安定な食環境に危機感を抱いた。進路を政治に限ることなく、テーマに掲げた“食のバリアフリー”の実現について模索している。
「天下国家の前に、身近な社会問題の解決を」。そんな志を抱いて入塾する若者が多い点が、近年の特徴だ。
理念は“国家ビジョンの実践者” 人間性の育成に重点
社会を背負うリーダーを養う松下政経塾の研修目的は、大きく二つに分かれる。
国家の未来を拓く長期的ビジョンを創造する「国家百年の大計をつくる」。もう一つが、信念や責任感、実行力を備えビジョンを具現化できる「実践者になる」。国家を背負って立つ人材の養成機関だけに理念は大きく、思わず圧倒されそうになる。
ところが、「国家ビジョンを描くのはとても大事ですが、その前に人間とは何か、物事の道理、日本の伝統精神などビジョンの素となるものを把握しようとする姿勢が大切です」。取材時、案内してくれた日下部晃志・社会連携部長(第25期OB)がそう付け加えた。あくまでも人間や世の中の本質をつかみ、人間性を養うことが塾の方針の柱だ。
知識だけではなく現場意識を 求められる「自修自得」の精神
それぞれの目標や思いを抱えた塾生。彼らを座学ばかりが待ち受けているかというと、そんなことはない。「現地現場主義」、「徳知体三位一体」と並んで、方針の一つに掲げられる「自修自得」の言葉にもうかがえる。
塾 の研修期間は4年間。狭き門を潜り抜けて入塾すると、初年度は新卒社員の給料にも近い約300万円が支給される。3、4年目は約500万円。研修や研究のための資金として役立てるのだ。
塾では最初の2年間は、憲法や政治思想史、地方自治を学ぶ講座が用意されている。それでも、社会課題の現場に自ら赴き、研究テーマを深堀して研究することなど、自主性が前提だ。常勤の講師もいない。「何も指示されない中で、自ら課題を見つけて解決に動くことは意外と大変です」と日下部さんは経験を振り返る。
湘南の海に近い塾の敷地は約2万平方メートル。松下幸之助が寝室としても使った茶室「松心庵」や、政治を中心に幅広い種類の書物が並ぶ書庫、剣道を身に付けるための体育館などが備わる。
ほかにも、パナソニックの販売店や製造部門に赴いて商いの現場を体感する研修があるほか、24時間以内を目標に三浦半島を約100キロ歩く「100km行軍」は塾の名物だ。リーダーとしての資質を高めるためには、知識だけではなく心技体で臨むことが必要なのだという。
夕食後には酒席も 国政や社会問題テーマに議論
これまで40年間で279人のOBを輩出した松下政経塾。寮生活を送る塾生には朝昼晩の3食が用意され、食事を共にする。夕食後、同期や先輩、後輩が集まって語らう時間も欠かせない時間だ。場所はOBや講師の著作が並ぶリビングが多い。
訪れた日も、草間さんを交えて議論が交わされた。「観光を通じてアイヌ文化を伝え守りたい」「再犯防止のためにはどんな政策が必要なのか」――。語り合うテーマはいずれも重要な社会課題だ。ビールやチューハイを手に、互いに問題点を指摘し合い、草間さんがアドバイスを授ける。話は尽きない様子で、午後11時ごろまで明かりが灯っていた。
入塾1年目への厳しい指導 切磋琢磨する環境づくり
塾の朝は早い。集合時間は午前5時55分。私は珍しくアルコールもほどほどに床に就いたせいか、目覚めは良い。一番乗りのつもりで集合場所に向かうと、すでに男女3人が落ち着かない様子で話し込んでいた。早朝のラジオ体操と清掃活動が伝統だ。3人はいずれも入塾1年目のいわば“新入社員”。円滑に活動が進むようプランを立てる大役を任されている。
塾生が竹ぼうきを手に、敷地内外までくまなくゴミを掃き集めていく。30分後、塾生が集まり、フィードバックの時間が始まった。「今日もラジオが出しっぱなしだった」「外が散らかっているのは前回も言ったのに改善されない」――。相次ぐ厳しい言葉。昨晩の酒席とは打って変わった雰囲気で、1年目の塾生にズバズバと問題点を指摘していく。明確にオンとオフを切り替えることが、互いに切磋琢磨し合える環境に役立っている。
松下幸之助が選んだ茅ヶ崎 早朝の海岸から望む富士山
清掃を終えると、塾生たちが入り口のゲートをくぐって、早朝の街に駆け出して行った。海を目指して、ジョギングをする学生もいれば、歩いて向かう学生もいる。晴れたこの日は、雪化粧した富士山が遠目にはっきりと浮かんだ。松下幸之助は富士山を拝んで日本の行方に思いを馳せられるよう、この地をあえて選んだそうだ。
さらには江の島や伊豆大島まで望め、海岸沿いの景観は圧巻だ。大島までは直線距離で約60キロ。「僕のころは大島まで遠泳訓練があって、そりゃきつかったですよ」。大島を眺めていると、草間さんが声をかけてくれた。昔は塾も厳しかったのだなと思っていると、草間さんはすかさず「冗談ですよ」。10年ぶりというジョギングを懐かしそうに楽しんでいた。
塾生が時事問題への意見を表明 議論重ねて養う問題意識
朝食を終えると、本館1階に塾生や職員が集まった。朝会の時間だ。「真に国家と国民を愛し」から始まる塾是に始まり、塾訓、さらには素志貫徹の事▽自主自立の事▽万事研修の事▽先駆開拓の事▽感謝協力の事――がうたわれた五誓を全員で唱和する。政経塾の一日の中で、規律を最も感じた時間だった。
朝会では、時事問題やニュースをテーマに、意見や考えを表明する「所感」の時間が恒例だ。この日の担当は荒玉さん。川崎市の殺傷事件をきっかけとする「一人で死ぬべき」論争を題材に、傍観者やただの批判者でいることを避け、思考をめぐらし続ける決意を語った。毎朝の所感は塾生の間で夜の議論のテーマになりやすいのだという。
入塾志望者をどう確保するか 松下政経塾が進める改革
“若者の政治離れ”が叫ばれて久しい。こうした厳しい状況に対し、塾は応募年齢上限を35歳から38歳まで引き上げるなどの改革を進めている。
果たして、国家や社会のリーダーを養成する松下政経塾の役割は低下しているのか――。取材を通じて浮かんだのは、そんな疑問だった。
大阪市出身の中山真珠さん(24)=第40期=は、今年4月に新卒で松下政経塾の門をたたいた。子供の貧困や男女格差の解消をテーマに政治家を志す。レポート作成や研究テーマの調査に追われ、一日の睡眠時間は4時間ほど。成長はまだ実感できていないという。
しかし、そんな彼女の言葉が先ほどの疑問を考える上でのヒントとなった。
「塾では、思いもしなかった課題に気づかされることが多く、今はどんな社会問題も自らのこととして捉えて何ができるかを考えている。無関心でいることが許せなくなった」
松下政経塾に対する当初の印象は、“エリートの養成機関”。ところが、2日間の取材を通じて触れたのは、人の痛みや苦しみを知ろうと努め、何らかの形で社会に貢献しようともがく塾生の確かな志だった。
塾生は4年間を過ごした後、選挙への出馬や代議士秘書など政治分野のほか、企業やNPO法人などの進路を目指す。しかし、松下政経塾を卒塾することは、仕事や身分の保証を決して意味しない。路頭に迷うケースも可能性も皆無ではなく、広く若者が抱いている不安と大差はない。
「他人事こそ自分事に」――。不平や不満、さらには不安が漂い、政治に関心が集まらない今こそ、そんな意識を持った人材のニーズは高まるのだろう。政治の世界を眺めても、身の回りを見渡してもまだまだ足りないから。
松下政経塾はどう人材を育成をしていくのか 塾頭に聞いた
松下政経塾OBのうち、政治分野に進んだのは約4割の112人。2009年の民主党政権誕生をきっかけに、塾OBでは初めて野田佳彦氏が総理大臣になったほか、多くの閣僚が生まれ、国会議員の数は最多の39人を数えた。ところが、民主党政権の崩壊とともに、政権を支えた塾に対しても厳しい眼差しが向けられるようになった感はある。
開設から40年を迎えた松下政経塾は今後、どのような人材を育成し、どう政治や経営などの分野で社会に貢献していくのか。金子一也塾頭(第12期OB)に考えを聞いた。
「志ある若者を政界に送り込むことができた」
――松下政経塾の理念を教えてください。
日本に国家経営のビジョンがあれば、もっと繁栄した平和な国家になるとの松下幸之助塾主の信念がスタートです。経営者として戦後を見てきた中で、日本は力を結束すれば素晴らしい国家になるのにそのビションがないと感じた。国家の経営理念を作り、それを実践する人を育てる。いわば憂国の情からスタートしています。
――40年間で、政治分野を中心に多彩な人材を輩出しています。
現在、279人のOBがいます。量で言えば、まだ少ない。というのも、いろんな課題が山積して複雑化している中で、「経営」という概念をもって困難に向き合える人材はまだまだ少ないからです。
質で言うと、松下政経塾が政治を変えてきた部分はあると思います。塾の設立当時、地盤・看板・カバンのうち少なくとも一つないと、政治家になるのが難しい現状が確かにありました。そうしたものを持たずに徒手空拳で政治に飛び込んだ若者が壁をぶっ壊してきた。その点は評価できると思います。
世襲議員はまだまだ多い。その中で、各政党は公募制を進めるなど変革を遂げました。松下政経塾が徒手空拳の若者を世に出してきたからだ、という定説ができても不思議ではないと思います。
「すべては自分のせいだ」 養成すべきはそんなリーダー
――松下政経塾はどのように社会に貢献してきたと考えますか。
塾の生産物は、「人」。金ではなく、人に尽きます。塾の役割は何か問題があった時に「誰かがいつかやってくれる」という姿勢ではなく、「自分が率先して良い方に向けます」という覚悟を養うこと。そうした思いを抱くOBを輩出してきたことは塾の宝物です。
ネット社会になり1億総評論家、1億総批判者という様相になっている。簡単に批判はするけれども、ある問題が自分とどうつながっているかに思慮が及ばず、他人事で終わらせてしまう。ネット上にたくさん情報があるのに、社会や問題とつながっていない若者が増えている気がします。
国、地域、さらには会社単位でも、何か悪いことが起きたら自分がどうつながっているかの視座を失わない若者をたくさん育てることで、情報化社会が進んだ時にますます塾の価値は高まります。野田佳彦氏が首相当時を振り返って、うまいことを言っていました。車からふと外を見ると、信号機で止まっている人がすごく困った顔をしていた。「総理である自分のせいだ」と考えたそうです。誰か分からない国民でも困った顔をしていたら、自分の責任と考える。そんなリーダーを作れるかどうかだと思います。
――現場の教育の特徴はどういったものでしょうか。
「自修自得」「現地現場主義」「徳知体三位一体」の三つが柱です。特に最近意識しているのが、「徳」の部分です。海外では、リーダーシップというのは、自己主張を強くするという面が大きい。一方の松下政経塾では、「衆知を集める」と表現しますが、みんなの意見を聞ける力に重点を置いています。
松下塾主は1期生に対し、「君たちは大学に行って知識があるからもういい。知識を使う知恵を磨くべきだ」と伝えました。知恵を磨くには、現地現場感覚が必要です。外国語の習得を志す塾生が多かったそうですが、松下塾主は「日本人である自分たちも日本のことをよく知らない。日本のことを知ってから海外に行ってほしい」と言ったそうです。小中高校、大学、専門学校を含めて日本の良さを教える教育は十分ではなく、それを松下政経塾でやるというのも塾主の考えでした。
もう一点は、人間を知る力です。松下塾主は「人間を勉強してきましたか。心理学は心、医学は人体、人間を人間として勉強したことあるか」と常々塾生に尋ねました。みんなぐうの音も出なかった。だから、実際に電化製品の販売店に行かせて、実際に物を売ってお客さんの喜ぶ顔を見る。人と人とのつながりの中からしか、人間というものは学べないのというのが信念でした。
求められる自立の力 自分で課題を発見し解決を
――塾生にとって、寮生活を送る4年間はどういったものでしょうか。
ある一点では厳しいと思います。自分で自分の基準を決めて、行動を律する。今までは、家では親、学校では先生に指示されて基準を作ってきたから、詳細な計画表というのを自分で描いたことがない。今まで指示されて生活してきた人からすると面食らうわけです。
ネット社会でものすごい情報が集まる。綺麗にパワポを作ったり写真を入れたりもできる。でも、「その匂いを嗅いだことはあるのか」と尋ねるとそれはなくて、頭でっかちになっただけ。現場で血と汗と涙を、例えば農業研修では土の匂いを感じてもらう。現場感を強く打ち出しているのは、血が通っていて現場に精通したリーダーが求められているからです。
――OBの政治家には、いわゆる保守の方が多いように思います。
教育方針で行くと、塾是も「真に国家と国民を愛し」から始まりますし、その言葉自体が保守だという時代がありました。でも、すごいなと思うのは、松下塾主は「どの政党でもいい」と言っていました。昔は日本社会党にもOBがいました。どこの政党でも政治家として役に立ったら良いという考えで、逆に言えば縛りがなかったのです。
意見表明が苦手な若者が増加 ネットで強まった
――近年は“若者の政治離れ”が叫ばれています。
これは、あくまでも私個人の見方です。内閣府のデータでは公のために働きたいという人は増えているけれども、本当なのでしょうか。ボランティア活動とかNPO、NGO、震災復興支援とか社会のために役立ちたいという若者は増えたのでしょうが、職業にまで結び付けようという人は減っているのではないでしょうか。
例えば塾生の募集活動で東大や早稲田大を回ります。官僚を養成するのがそもそもの目的である東大法学部でも、企業や外資系企業など官僚以外を志望する人が増えている。早稲田は政治家養成が設立の趣旨です。でも、政治経済学部や法学部を回っても、政治家を育てたいという先生は少ない。
――「公のため」が格好悪く、政治を考えることはダサいという意識もあるのでしょうか。
ありますね。公僕という言葉も死語になりましたし、「政治家を目指す」って言ったら、なんとなく「ダサい」、「前時代的」、「何か悪いこと考えている」と言われるかもしれません。政治家のイメージが悪くなったのも大きいです。
松下政経塾という敷地内に入ったら、公人です。しかし、最近は塾に関心を持った人からも「休みはあるのか」「給料いくらか」などの質問も増えていて、就職、転職の候補の一つみたいな感じになった。それはそれでいいのですが、公人という責務の重たさに若者が目を背けている面はあるかもしれません。
また、叩かれることに弱い若者が増えているとも感じます。政治家も役人もそもそも叩かれる存在です。特に今は、ネットで叩かれたくないという若者が増えました。「その発言をどんどん発信して、世に問うたら」って勧めるんですが、「叩かれたくない」って言うんです。
これは、ネット社会で強まった一つの傾向だと感じます。政治なんて特に意見表明が求められるにも関わらず、意見表明を求められることにすごく弱い。この悪循環が政治家志望者を減らしているようにも思います。
魅力ある人材を養成 政治離れの糸口に
――天下国家よりも身近な社会問題に関心を抱く人が増えているそうですが。
私を含め前半の20期ぐらいまでは、国政志望の人が多かった。けれども、後半になると地域課題や身近な社会課題へと関心が移っていきました。慎重な人が増えているという風にも感じます。
「なんとしても国政に行くんだ」という、あえて乱暴者という表現でも使いましょうか。後先を考えない人が多いのは20期まで。それ以降は、あるテーマが決まっていて、「国政の前にまずは地方議会行くぞ」といった道筋を立てる慎重な人が増えました。
――松下政経塾は今後、社会や国家にどう貢献していくのでしょうか。
政治離れという話があります。でも、政治から離れて離れて、いくべきところまで行ったら、また政治に戻ってくると思います。その時に、松下政経塾が国家の救いになる人材をどれだけ輩出できているのかが勝負だと思っています。
さらに言うと、政治離れイコール政治家離れだと感じます。失言や、問題を起こしたり、政治献金の話だったり、政治家はよく叩かれます。その状況下で、魅力的な政治家像を示すことも、塾の重要な役割です。社会がリーダーにふさわしい人材を探し求めた時に、「人格を備え魅力ある人材が松下政経塾にいた」と言わせたいのです。
政治に対し「怨念」とか「おじさん」、「利権」といったネガティブな言葉がひっついてくる現状ですが、政治はやはり未来とか夢とかに結び付くべきものです。そのためにも魅力ある「人物」を育て、彼らが政治に打って出ることが松下政経塾の挑戦であり、塾頭としての使命でもあります。
塾生を9月30日まで募集
松下政経塾は秋季選考の応募者を9月30日(月)まで募っている。
対象は22~38歳で、性別や学歴、国籍は不問。来年度からは2年課程と4年課程に分かれる。 全寮制で兼職はできないが、2年課程、4年課程の前半に年間約300万円、4年課程の後半で約500万円が、研修・研究資金として提供される。
選考は、新卒者を対象とした「新卒選考」と、社会人を対象とした「社会人選考」に分けて募集し、1次選考はエントリーシートで書類選考を行う。2次選考は、塾に泊まって実際の生活を体験する合宿選考で、3次選考は有識者や役員の面接を行う。