ダイヤモンド・ブラッシュ・プロジェクトで改修された江別市えみくる少年野球場にて、始球式に登場した日本ハムの稲葉篤紀GM【写真:(C)H.N.F.】

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「ダイヤモンド・ブラッシュ・プロジェクト」とは 北海道日本ハム担当・荒木さんに聞く

 北海道にある少年野球場が、2年間で5球場も改修されている。4月23日には、江別市の「えみくる少年野球場」で完成セレモニーが開催された。老朽化による破損や腐食が顕著だったグラウンドが別の場所で新たに生まれ変わり、子供たちが生き生きとプレーできる環境が整えられた。2022年は、道内でさらに2球場の改修も決まっている。

 いずれもプロ野球・北海道日本ハムファイターズの「ダイヤモンド・ブラッシュ・プロジェクト」によるものだ。管理団体や自治体、地元企業や保護者を主体とし、道内の野球場を安全で快適なプレーができる環境に整備する取組。活動の経緯と込められた願いについて、球団の担当者である荒木龍史さんに聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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 施設が見違えるほど美しく“蘇った”。4月23日、改修が前年に完工していたえみくる少年野球場の完成セレモニーが開かれた。北海道日本ハムのスポーツ・コミュニティ・オフィサー(SCO)を兼務する稲葉篤紀GMも式典に参加。喜ぶ子供たちと記念撮影を行った。

「はやぶさ球場」の愛称で1982年の利用開始から約40年使われてきた旧少年野球場は、老朽化に加えて隣接地に住宅や介護施設が建設され、子供たちが伸び伸びプレーできる環境の確保が課題になっていた。10キロメートル離れた田畑に囲まれる場所に「えみくる少年野球場」を造成するため、江別市は「ダイヤモンド・ブラッシュ・プロジェクト」に応募した。同プロジェクトは北海道内の子供たちが安全で快適にプレーできる環境を整えるため、北海道日本ハムが「ファイターズ基金」から工費の一部を寄付し、自治体や球場管理団体、施設利用者、地元企業などと共同で少年野球場を修繕、整備していく取組だ。

 同プロジェクトは2019年に発足。当時、新たなスポーツ・コミュニティ(SC)活動を求めていたことがきっかけだ。寄付やチャリティーオークションで集まった「ファイターズ基金」を活用した、既存の取り組み以上に大きなプロジェクトが検討されていた。

 事業開発グループでスポンサー開発を担当していた荒木さんは、米国のマイナーリーグがスポンサー企業とのタイアップで行っていた「プロジェクトリフレッシュ」にヒントを得た。地元企業、少年野球チームの保護者らが協力してペンキを塗りなおしたり、フェンスやダグアウトを修繕したりする、まさに地域ぐるみのプロジェクトだった。

「純粋に広告看板や雑誌広告を売るだけでは、企業も面白みを持ってくれないこともあります。(プロジェクトリフレッシュの)映像などを見て、地域の皆で作り上げるという点が凄く良いなと思いました。球団内のSC委員会で提案したのが始まりです」

プロジェクトの主旨は「みんなで作り上げる球場」

 北海道では、音威子府村(おといねっぷむら)で70年近く続いていた中学生の軟式野球大会が、村で球場の維持ができなくなったため大会自体が廃止となってしまった事例があった。

「そういう球場を存続させるためのお手伝いは、地域に支えらえるプロ球団が恩返しの形としてできることではないか」。あくまで主体は自治体や連盟、保護者だが、北海道の子供たちが気持ちよくプレーできる場所をともに守っていくスキームを作り上げた。

 北海道に眠っているダイヤの原石が磨かれ、輝ける場所を作っていく願いを込めて「ダイヤモンド・ブラッシュ」の名称が付けられた。少子化、スポーツの多様化が進む中で、野球人口の下支えへの貢献も期待される。

 初年度の2020年には札幌市厚別区、室蘭市、滝川市の3球場を改修。翌年は札幌市北区の1球場と、前述した江別市えみくる少年野球場が対象となった。今年も札幌市南区と愛別町の2球場を助成対象に選び、3年間で7つの少年野球場を‘’ブラッシュアップ‘’することになる。

 選定については、一定数の利用者がおり、定期的に活動しているチームがある球場を優先している。北海道日本ハムの立場はあくまで“お手伝い”。1球場の改修に上限200万円を支援するが、「みんなで作り上げる球場」がプロジェクトの主旨だと荒木さんは説明する。

「全ての改修を賄うのに、200万円では足りません。ただ、潤沢すぎるとサポートを受ける側の自治体、団体も『お金をもらって、できる限りの修繕をして終了』となりがちです。足りない部分は連盟などに動いていただくことも大事だと考えていますので、周辺の企業さんにいろんな支援を募ってくださいと最初の段階でお話しています。

 サポートが何もない状態で改修の協力を地元企業にお願いするのと、『ファイターズも協力するからやってくれませんか?』というのでは、企業の受け止め方も違ってくる。今までなかなか協力が得られなかった球場でも、今回のプロジェクトを活用することで協力する企業が増えたというのは、昨年までの5つの球場全てで言ってもらえました」

活動の意義に共鳴した株式会社カナテックは、プロジェクトサプライヤーとして建設現場で使ったユニットハウスを本部席やダグアウト用に提供。資源リサイクル事業を手掛ける株式会社鈴木商会は昨年8月にメインスポンサーとなり、改修時に排出される廃棄物の回収、リサイクル樹脂から製作したベンチやごみ箱の設置などで協力し、SDGs(持続可能な開発目標)の意識や知識を高める点においても企業間連携が図られている。

子供たちも球場づくりをお手伝い「大事に使ってくれると期待」

 数年間放置されて雑草が生い茂ったグラウンド、強風で飛ばされたダグアウトなど、対象となった球場はいずれも老朽化が進んでいたが、保護者や企業関係者、子供たちに球団の職員も集まり、一から作り変えていった。

 草むしり、土の入れ替え、借りた工具を使っての外野フェンス設置、マウンド作り……スポンサー企業から寄付されたベンチの組み立てを、子供たちが手伝うこともあった。ともに汗を流した荒木さんは「そういう活動ができてよかった」と目を細める。

「(子供たちが)自分たちで組み立てたベンチに足をかけるような人がいれば、組み立てた本人は嫌な気分になるでしょうし、手をかけて修繕した球場は大事に使ってくれるんじゃないかなと期待しています」

 初年度に改修した滝川市の球場では、まだ野球をやったことのない子供たちを集めたイベントを開催。小学生女子の野球チーム発足にも繋がり、プロジェクトの効果を実感している。今後は改修した球場を、競技の裾野拡大に活用したい思いもある。「解決すべき問題は、少年野球人口の下支え。球場でアカデミーのコーチが野球をやったことがない子、やってみたい子を集めたクリニックなどをやっていければ」。新型コロナの状況が落ち着けば、そうした施策の展開も可能になるだろう。

 北海道日本ハムは2023年、本拠地を北広島市で開業する新球場「ES CON FIELD HOKKAIDO (エスコン フィールド HOKKAIDO)」に移す。BIGBOSSこと新庄剛志監督が就任し、新たなフェーズを迎えている今季は、スローガンに「ファンは宝物」を掲げた。

 職員も思いは同じ。「ダイヤモンド・ブラッシュ・プロジェクト」には、ファイターズの将来的なファンを作るという意味合いも込められてある。荒木さんは「改修した少年野球場に子供たちが沢山集まり、ファンになってくれて、我々は喜んでもらえるような試合を新球場で見せられたらいい」と力を込めた。

【ダイヤモンド・ブラッシュ・プロジェクト】
 北海道内の少年野球場をより安全で快適なコンディションに整えるためファイターズ基金を活用して修繕、整備していく取組。年間数か所の球場を、ファイターズが自治体や球場管理団体、球場を利用する方、地元企業などと手を携え実施していくプロジェクト。メインスポンサー:(株)鈴木商会、プロジェクトサプライヤー:(株)カナテック。

◆第4期改修希望球場を公募開始◆
 日本ハムは30日、ダイヤモンド・ブラッシュ・プロジェクトの第4期申込受付を開始した。応募期間は2022年5月30日から同10月7日まで(必着)。修繕実施予定期間は2023年の4月から9月頃を予定している。

 応募は球団ホームページより申請書のフォームをダウンロードし、修繕・整備を必要とする箇所の画像と合わせて郵送もしくはメールにて送付すること。応募条件など、その他詳細に関しては球団ホームページ(ニュース→コミュニティ→5月)にて要確認。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)