東海地方の主要都市である名古屋市や自動車産業が集積する豊田市など、大都市を複数抱える愛知県。そのぶん人口も多そうなイメージですが、待機児童数はどのような状況なのでしょうか。愛知県の保育所事情について調べてみました。

愛知県の待機児童数の状況

過去5年間の愛知県の待機児童数を見てみると、2019年まで増加傾向にあります。これを受けて、愛知県では2019年に「愛知県待機児童対策協議会」が設置され、2024年度末までに県全体で20万人分の保育の受け皿を整備し、3万人分の保育士等を確保する目標を掲げました。

その後の待機児童数は、2020年に155人まで減少したものの、2021年4月1日時点では174人と増加しています。一体何があったのでしょうか。

出典:愛知県「あいち はぐみんプラン2020-2024」、厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(令和2年、令和3年)」

愛知県内で待機児童数が多い市町村は?

市町村別の待機児童数を見ると、その要因が見えてきます。

出典:厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(令和3年4月1日)」

2位の長久手市から5位の高浜市までは、2020年のワースト5にもランクインしていましたが、いずれも2021年は待機児童数が減少しています。

長久手市については、保育所等の利用定員数が102人分増やされ、受け皿が順調に拡大しているようです。また瀬戸市では、2024年度末までに待機児童0という目標に向けて保育所の整備や休日保育の実施が進められており、待機児童は前年から約20人減少しました。その一方で、岡崎市だけは待機児童数が大幅に増加していました。これが、減少傾向にあった愛知県の待機児童数が2021年に増加した一因と考えられそうです。

岡崎市では特に低年齢児の待機児童が増加

岡崎市は、名古屋市、豊田市に続いて、愛知県で3番目に人口が多い自治体です。過去5年間の待機児童を見てみると、2017年から2020年まではゼロを維持していました。しかし、2021年は新規入所申込み数が前年より131人増えたため、その増加に対応しきれず72人の待機児童が発生したようです。

ただし、すべての子どもが保育所に入りづらいという訳ではなく、年齢によって大きな偏りが見られました。岡崎市の「保育所等利用待機児童数について(令和3年4月1日現在)」によると、待機児童72人のうち71人は1歳児、残り1人が0歳児となっているのです。圧倒的に1歳児が入園しづらい状況です。

出典:岡崎市「保育所等利用待機児童数について(令和3年4月1日現在)」

愛知県は低年齢児の割合が高い!? 保育環境を強化中

愛知県の待機児童に占める低年齢児の割合は、全国平均よりも高め(画像素材:Adobe Stock)

「平成28年度国の施策・取組に対する愛知県からの要請」によると、愛知県は待機児童に占める低年齢児(0~2歳児)の割合が多い傾向が明らかになっています。2014年4月1日時点での待機児童に占める低年齢児の全国平均は84.5%なのに対し、愛知県では96.3%でした。

この状況を受け、愛知県では1歳児の保育環境整備の強化が進められています。1歳児保育にあたる保育士の配置を改善するほか、人員確保のために予算も増設されました。しかし、一部のエリアでは、まだ低年齢児が入園しづらい可能性も残っているようです。

名古屋市は8年連続待機児童ゼロ! ただし「隠れ待機児童」には要注意

保護者が育児休業中だったり、求職活動を停止したりしている場合、待機児童とはみなされません(画像素材:Adobe Stock)

一方で、人口の多い名古屋市や豊田市では待機児童ゼロを達成しており、特に名古屋市は8年連続で待機児童ゼロを維持しています。ただ、待機児童としてはカウントされない「隠れ待機児童」が潜んでいる可能性もあるので注意しましょう。

そもそも待機児童とは、申請をしたのに保育施設へ入所できていない児童のことを指します。しかし行政の基準では、入所できていないにもかかわらず、待機児童として扱われないケースもあるのです。例えば、特定の園のみを希望して空いているほかの園へ入所しなかったり、保護者が育児休業中もしくは求職活動の休止中だったりするケースでは、待機児童とみなされません。そうした潜在的な待機児童が「隠れ待機児童(未利用児童)」と呼ばれています。

名古屋市で保育所等に申込をしたのに利用に至っていない未利用児童数の推移を見てみると、2019年をピークに減少傾向にはあるものの、依然として多いことが分かります。この多くは、自宅の近所や兄弟と一緒の園など、特定の保育所を希望していて入園できない隠れ待機児童の可能性が考えられるのです。

出典:名古屋市「令和3年4月1日現在の保育所等利用状況について」

愛知県内で子育てしやすいエリアは?

長久手市内を走る「リニモ」も、利便性のアップにつながっています(画像素材:Photo AC)

それでは、子育てがしやすいエリアはどこなのでしょうか。今回は、愛知県で子育て世帯にぴったりな市を2つ紹介します。

刈谷市
自動車関連企業の本社が多く、通勤に便利なファミリー層からも人気のエリアです。市内にはJR東海道本線が通っており、快速を利用すれば名古屋まで約20分とアクセス良好。待機児童については、2019年、2020年は11人でしたが2021年に4人まで減少しました。

子育て支援制度としては、週1回・2時間を基本に2ヶ月(8回)まで無料で利用できる「育児ママ訪問サポート事業」や、ファミリーサポートセンターの利用料の一部助成などが設けられています。

長久手市
名古屋市や豊田市と隣接しており、2005年には万博が開催された長久手市。住民の平均年齢が全国で最も若い街としても有名で、若い子育て世帯の流入も盛んです。大型ショッピング施設が複数存在しているほか、市内には磁気浮上式鉄道「リニモ」が走っているので利便性も良いでしょう。

2021年の待機児童数は28人と愛知県内では多いほうですが、利用定員数の増加も積極的に進められています。2021年は県内で3番目に多い102人分の利用定員数が拡大されました。

子育て支援制度としては、18歳未満の子どもとその保護者、妊娠中の人が優待ショップで割引・特典を受けられる「はぐみんカード」が実施されています。

まとめ

愛知県では、自治体や子どもの年齢によって保育所への入りやすさに大きな差があるようです。また、都市部では「隠れ待機児童」が潜んでいる可能性もあるので、転居を検討する前にはしっかり確認しておきましょう。