中央快速線に導入予定の2階建てグリーン車のイメージ(画像:JR東日本提供)

JR東日本は4月27日、2022年度の設備投資計画を発表した。その中に、気になる記述があった。「中央快速線グリーン車の導入に向けた工事や車両の新造を進める」とする一方、「グリーン車両の新造計画が世界的な半導体不足の影響を受け、2023年度末を予定していたサービス開始が少なくとも1年程度遅れる見込み」であるというのだ。

新型コロナウイルスの影響で世界的に半導体不足が深刻化し、自動車業界を中心に、さまざまな業界で製造の遅れなどが出ている。あらゆる分野の機器が電子制御される現在、半導体を使用した工業製品は多数ある。鉄道車両も例外ではないが、中央快速線グリーン車の導入遅れと半導体不足、いったいどのような関係があるのだろうか。

すでに出ている半導体不足の影響

半導体不足による鉄道車両への影響はすでに出ている。横浜市営地下鉄グリーンラインは、現在の車両17本のうち10本を4両編成から6両編成に増車する計画で、2022年度には3本を6両編成化する予定だ。だが、うち1本は9月下旬の運行開始が決まったものの、残る2本は増結用の車両に必要な半導体の入手が困難で、運行開始時期が確定していないという。

4両編成2本を6両化するということは、新造するのは計4両である。同線は都営地下鉄大江戸線などと同様の鉄輪式リニアモーター駆動方式であり、特殊な方式ゆえに部品も特別という可能性もあるが、この程度の両数を製造するにも半導体不足が響いていることになる。

中央快速線のグリーン車は2020年度にサービスを開始する予定だったが、「バリアフリー等の他施策との工程調整や関係箇所との協議等」(JR東日本の2018年4月発表より)を理由として2023年度末に延期となっていた。今回の発表では少なくとも1年程度遅れる見込みであるとしており、もっとも早くて2024年度末、またはそれ以上後ということになる。


中央快速線のE233系電車。2両の2階建てグリーン車を組み込む計画だ(写真:HAYABUSA/PIXTA)

グリーン車は2階建てで、編成1本当たり2両、計116両(58編成分)製造される予定である。両数は多いが、基本的に2階建てグリーン車はモーターなしの付随車で、それほど多くの電子機器類が必要なのかという疑問も湧く。車内ディスプレーやグリーン車Suicaシステムの半導体にそれほど特殊なものを使用しているということも考えにくい。また、これまでJR東日本では、半導体不足が原因で車両の導入が遅れたケースはない。

ブレーキ制御などの機器類向けが不足

JR東日本に聞くと、中央快速線のグリーン車導入にあたって不足しているのは、車両の各種制御を行うために必要な機器で使用している半導体とのことだ。具体的にはドアの開閉やブレーキを制御する機器ということであり、運転操縦を行うために必要な車両の基本的性能を満足できない状況にあるという。

ブレーキの制御などは安全の根幹にかかわる部分だ。それらの機器に使う半導体が不足しているとなれば、車両製造に影響が出るのもやむをえないだろう。

そうなると、今後のほかの新車導入に影響することも考えられそうだ。今回発表した設備投資計画には、2024年春に営業開始予定の山形新幹線E8系新造についても触れている。在来線車両の新造にはとくに触れていないが、国鉄時代末期からJR初期に製造された車両を使用している路線はまだあり、そういったエリアへの新車導入は今後必要になってくる。

今回の中央快速線グリーン車のように、今後のほかの車両導入計画にも半導体不足の影響は出るのだろうか。JR東日本はこの点について、「影響が出る可能性はあり、精査を進めております」としている。現在の半導体不足がしばらく続く限り、車両の新製は計画しにくい状況となるかもしれない。

中央快速線グリーン車の導入はこれまでも延期されてきただけに、半導体不足のほかにも遅れる理由があるのではないかと考える人もいそうだが、JR東日本は「現時点では、半導体不足以外は(理由は)ありません」と回答している。地上設備の工事は予定通り進める計画であるとのことだ。


中央快速線を走る元常磐線地下鉄乗り入れ用車両の209系1000番台。グリーン車連結に向けた車両改造中の編成不足を補う助っ人として転入した(写真:村上暁彦/PIXTA)

しかし、グリーン車の導入が遅れることで、中央快速線そのものの改良計画に影響が及ぶことは十分にありうる。その1つがホームドアの整備だ。以前から、同線の地元ではなるべく早く設置を進めてほしいという要望が出ている。しかし、同線の場合はグリーン車を導入して12両化してからでないと整備が難しい。

ホームドアの設置に影響は?

JR東日本は今年4月、バリアフリー化の費用を運賃に上乗せできる制度を活用し、東京圏在来線のホームドア整備計画を拡大するとともに時期も前倒しして、2031年度末頃までに244駅(複数路線が乗り入れている駅で路線ごとに数えた場合=線区単位では330駅)の758番線に整備する計画を発表した。この中には中央快速線の24駅も含まれている。

計画では、2025年度までに線区単位で101駅に整備するとしている。ただ、グリーン車導入が早くても2023年度末(2024年春)となると、2025年度までに中央快速線のホームドア設置は難しいかもしれない。


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なお、2022年度は京浜東北線や南武線、中央・総武線各駅停車の7駅でホームドアを使用開始する予定だが、「世界的な半導体不足の影響により、使用開始予定は変更となる場合があります」としており、ここにも半導体不足の影響が見られる。

中央快速線のグリーン車導入遅れは、世界的な半導体不足が鉄道にも影響を及ぼしている事例だ。さらに、車両の新造だけではなく、駅など各種設備の整備にもドミノ倒しのように響いてくるおそれもある。半導体不足が今後も続けば、JR東日本や同線に限らず、さまざまな鉄道の計画に遅れが出る可能性があるだろう。

(小林 拓矢 : フリーライター)