アメニティーグッズの取り扱いはどうなる?

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 多くのビジネスホテルでは、歯ブラシやカミソリなどのいわゆる「アメニティーグッズ」が無料で提供されています。荷物が減るため、宿泊時に活用する人も多いのではないでしょうか。ところで、プラスチックごみの削減などを目的とした「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラスチック資源循環促進法)」が4月1日から施行されます。この法律では、宿泊事業者らに対して、プラスチック製品(歯ブラシ、カミソリ、ヘアブラシ、くし、シャワーキャップなど)の提供量の削減を求めていますが、ネット上では、「ホテルからアメニティーが消える?」「荷物が増える」といった意見があります。

新法施行に伴い、ビジネスホテルはアメニティーグッズをどのように取り扱うのでしょうか。運営会社に聞きました。

全廃目指す動きも

 まずは、「アパホテル」を運営する、アパグループ(東京都港区)東京本社代表室秘書課の担当者に聞きました。

Q.4月1日からプラスチック資源循環促進法が施行され、プラスチック製品の提供量の削減が求められます。現在、宿泊客に無料で提供しているアメニティーグッズについて、今後どのような対応を行っていくのでしょうか。

担当者「客室のアメニティーについては、2021年度より包材の改良から取り組んでいます。ビニール(OPP)包材の使用量を削減するため、ビニールの厚さを50ミクロンから40ミクロンに変更し、同時に包材サイズの縮小化を実施しています。

また、プラスチック資源循環促進法に関わる特定のプラスチック製品(歯ブラシやカミソリ、ヘアブラシ、シャワーキャップ)については、バイオマス(エネルギーや物質に再生が可能な、動植物から生まれた有機性の資源)をはじめ、再生プラスチックを原料に取り入れた環境対策品を考案し、導入に努めていきます。同時に、アメニティー自体の品質を高めることで、利用者の『使い捨て意識』を『持ち帰り意識』に変え、ごみの削減につなげていきます」

Q.アメニティーグッズの設置をやめるのは難しいのでしょうか。

担当者「海外では、すでに多くのホテルでアメニティーを客室に設置せず、必要に応じて購入してもらうケースが多いですが、国内の宿泊業界の常識は、『ホテルでは歯ブラシなどのアメニティーがあって当たり前』であり、設置しなければ『サービスが悪い』というレッテルを貼られてしまいます。また、アメニティーの品質についても、ホテルの評価を大きく左右します。

究極の環境対策は、『ホテルアメニティーの全廃』であり、お客さまに歯ブラシなどを持参していただくことが理想的だと考えていますが、お客さまのニーズが変わるのには時間がかかるため、当面は環境負荷の低いアメニティーに切り替えて対応していきます。

なお、当社では、ホテルアメニティーの全廃に向けた取り組みとして、4月から連泊利用者さまを対象とした『エコ連泊清掃プラン』を導入する予定です。このプランの内容は、『2泊目以降、アメニティーを使用せず、また客室清掃もしない』というもので、当社の環境への取り組みに賛同した対価として、利用者さまにポイントを付与します。

まずは、環境に対する意識の高いお客さまから当社のサービスをご理解いただき、徐々にその割合を伸ばしていくことで、最終的には客室にアメニティーがなくても選ばれるホテルを目指していきます」

 続いて、東横イン(東京都大田区)の広報担当者に聞きました。

Q.現在、宿泊客に無料で提供しているアメニティーグッズについて、4月以降どのような対応を行っていくのでしょうか。

担当者「『歯ブラシセット』(歯ブラシと歯磨き粉)の提供方法を変更します。3月31日までは全客室に設置しますが、4月1日からはフロント周辺のアメニティーコーナーに設置し、必要なお客さまに対してのみ提供します。なお、カミソリやくしなどは以前から客室ではなく、アメニティーコーナーに設置しています。

お客さまに対しては、4月1日以降に宿泊する際は歯ブラシを持参するよう、ご協力をお願いしています。プラスチックごみの削減に向けて、お客さまとともに取り組んでいきます」

 また、別の大手ビジネスホテルの運営会社は取材に対し、「現時点で、アメニティーグッズの提供をやめる予定はありません。しかし、プラスチック資源循環促進法の施行にのっとって、プラスチック製品の提供量の削減を検討、実施するにあたり、プラスチックを100%使用したアメニティー製品のうち、一部をバイオマス配合製品に切り替えることがほぼ決定しています。現在の在庫についても考慮しなければならないことから、完全移行までには少し時間がかかりそうです」(広報担当者)と回答しています。

削減に取り組まなかったらどうなる?

 事業者がプラスチック製品の提供量の削減に取り組まなかった場合、どうなるのでしょうか。環境省に聞きました。

Q.4月1日に施行されるプラスチック資源循環促進法の狙いについて、教えてください。

担当者「使い捨てプラスチックの使用規制、削減は、欧州をはじめ各国に広がっており、世界全体としてプラスチックごみ問題に取り組む上で、欠かせない対策となっています。政府が2019年に策定した『プラスチック資源循環戦略』では、2030年までに、使い捨てプラスチックを累積で25%削減する目標を掲げています。

そこで、プラスチック資源循環促進法では、歯ブラシやカミソリ、ヘアブラシなど、商品の販売やサービスの際に消費者に無料で提供される12品目の製品を『特定プラスチック使用製品』として指定し、この製品を提供する事業者に対して、提供量の削減を求めます。

また、前年度において提供した特定プラスチック使用製品の量が5トン以上だった事業者を『特定プラスチック使用製品多量提供事業者』と定め、より積極的な取り組みを求めています」

Q.対象事業者が短期間で提供量を大幅に減らすことは難しいと思います。無理なく削減するには、どのような取り組みが有効なのでしょうか。

担当者「例えば、『プラスチック製品が必要かどうか、客に声掛けをする』『プラスチック製品を有料で提供する』『プラスチック製品の提供を辞退した客に対して、ポイントを付与』『再利用可能なプラスチック製品を提供する』『プラスチック以外の素材を使った製品を提供する』などが挙げられます」

Q.ネット上では「4月から、ホテルではアメニティーグッズを置くことができなくなる」といった情報も流れています。プラスチック資源循環促進法では、プラスチック製品の提供禁止や有料提供が義務化されるのでしょうか。

担当者「プラスチック資源循環促進法は、あくまでプラスチック製品の提供量の削減を求めるものであり、提供禁止や有料提供が義務化されるわけではありません」

Q.プラスチック製品の提供量などを国に報告する義務はあるのでしょうか。また、提供削減に関する取り組みをしなかった場合、どうなるのでしょうか。

担当者「目標や提供量、取り組んだ内容といったことを自社のホームページや環境報告書(事業者の環境問題への取り組み状況を記載した資料)などで公表するようお願いしていますが、国への報告義務はありません。

施行状況調査(法の施行状況を的確に把握するために行われる調査)などを通じて、削減に関する取り組みを実施していない企業があれば指導や助言を行います。それでも応じず、また特定プラスチック使用製品多量提供事業者に該当する場合、勧告や事業者名の公表、命令、罰則(50万円以下の罰金)の対象になります」