スマホの「対応バンド」問題、総務省は強硬措置を取れるのか(佐野正弘)
去る2022年3月14日、総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」の第26回会合が実施されました。事業者間の公正競争促進に向け実施されているこの会議、2019年の電気通信事業法改正と菅義偉前首相の影響などによって携帯電話業界のルールが劇的に変化したことから、ここ最近の会議の内容はその振り返りや、“2年縛り”などの影響を受けない新しい料金プランへの促進など、変更したルールを消費者に広めるための措置に重点が置かれていた印象です。
ですが今回の会合においては、久しぶりに新しい議論のテーマが浮上しています。それはスマートフォンの対応周波数(バンド)に関する問題です。
スマートフォンで通信をするためには、スマートフォンと、契約している携帯電話会社が免許を保有し、使用しているバンドが一致している必要があるというのは、多くの人が認識していることかと思います。ですが電波は有限なので、携帯各社に割り当てられているバンドは必ずしも同じ訳ではありませんし、どのバンドをどの場所で使っているかは携帯各社によって違いがあります。
それゆえ、例えばNTTドコモのSIMで利用していたスマートフォンを、KDDIのauブランドに乗り換えてauのSIMを挿入した場合、スマートフォンが対応するバンドとauが免許を持つバンドが一致していなければそもそも通信ができません。また一部のバンドが一致していたとしても、KDDIがメインで使用しているバンドと一致していなければ通信速度が低下したり、利用できるエリアが狭くなったりしてしまうなどの問題が起きます。

以前は携帯各社から購入したスマートフォンにはSIMロックがかかっていたことから、携帯電話会社を変えるなら端末も変える必要があったため、消費者がバンドの違いを意識する必要はあまりありませんでした。ですが2021年10月に総務省がSIMロックを原則禁止するガイドラインを打ち出したことで、現在携帯各社から販売されるスマートフォンは基本的にそのまま他社のSIMを挿入して利用できるようになったことから、改めて対応バンドの問題がクローズアップされた訳です。
そしてこのバンド問題でよく挙がってくるのが、携帯大手3社が自社で販売するスマートフォンに対し、他社で利用できないようバンドに制限をかけているのでは? という声です。確かに携帯3社から販売されるスマートフォンのうち一部機種で他社のバンドに対応していないものが見られ、それが不満要素となっていることは確かでしょう。

ですがそれを携帯各社が意図的にやっているのかというと、必ずしもそうではないことも理解しておく必要があるでしょう。実際、公正取引委員会が2021年6月10日に後悔した「携帯電話市場における競争政策上の課題について(令和3年度調査)」によりますと、MNO(携帯電話会社)3社が販売する端末が、新規参入のMNOの周波数帯等に対応していないという意見が出ていたことからMNO3社にヒアリングしたところ「他の通信事業者の周波数帯への対応については、端末メーカーに一任している」、端末メーカー側からも「新たに MNO として参入した通信事業者の周波数帯にも対応している」との回答があったとされています。
つまりどのバンドにどこまで対応させるかはメーカー側の判断に委ねられているというのが現状のようです。ではなぜ、同じ端末でも携帯電話会社によって対応するバンドに違いがあり、他社バンドに対応しない端末が出てきてしまうのか?といいますと、ひとえにコストの問題といえるでしょう。
携帯各社が販売する端末は、各社のネットワークのバンドに対応し、最高品質の通信ができるようアンテナなどのカスタマイズをする必要がありますし、確実にネットワークに接続し、高品質での通信ができるかどうかを試験・検証する必要もあります。当然そのためには手間とコストがかかりますし、それに加えて競合他社でも快適に利用できるよう接続試験をするとなれば一層コストが跳ね上がってしまいます。
当然それは端末価格に跳ね返ってくる訳ですから、販売数を増やすにはむやみに対応バンドを増やす訳にはいかないのです。仮にもし、携帯4社全ての周波数に対応することを義務化するといった事態になれば、現在増えている2~3万円台の低価格スマートフォンは姿を消してしまう可能性さえ考えられます。
それはオープン市場向け(かつての「SIMフリー」)端末でも同様で、携帯各社のネットワークで快適に通信できることを確認するには本来IOT(相互接続性試験)を実施する必要があります。ですがIOTを通すにもコストがかかるため、最近は低価格を重視するメーカーや端末を中心に、各社の周波数には対応するがIOTを通さずに販売するケースも増えており、そうした端末では携帯各社のネットワーク性能をフルに発揮できない場合もあるのです。
そしてもう1つ、バンドに関しては日本でしか利用されていない、あるいは日本以外での利用がまだ少ないバンドに対応しない端末が多いという問題もあり、最近であればNTTドコモの5G向け4.5GHz帯(バンドn79)がその代表例となっています。その理由はやはり、ローカル市場向けバンドへの対応を増やすとその分コストが上がってしまうためで、とりわけコスト競争力が求められるオープン市場向けに主軸を置く海外メーカーは、ローカル市場向けバンドへの対応に消極的な傾向が強いようです。

「だったらほぼ全てのバンドに対応しているiPhoneはどうなんだ」という声も出てくるでしょうが、iPhoneは少数のモデルを世界各国に、しかも比較的高い値段で大量に販売するという独自のビジネスモデルを構築しているため、あらかじめ多くの周波数帯に対応させておいた方がビジネス上効率がよいのです。アップルより販売数が少なく、しかも低価格のモデルを扱っている他のAndroidスマートフォンメーカーがこの手法を真似したら、大赤字になってしまう可能性があるのです。

SIMロック解除がなされなくなった現状、手持ちのスマートフォンがより多くのバンドに対応している方が消費者のメリットとなることは確かです。ですがそのトレードオフとして、スマートフォンの値段が一層高くなることを本当に消費者が受け入れられるのか? という点には大いに疑問が残ります。
この議論は今後、携帯各社やメーカーなどから意見を聞いた上で、夏以降に一定の結論が出されるようです。ただSIMロック解除義務化の時の議論とは違って、総務省が一律に全ての携帯電話会社のバンドに対応させるという強硬策を取ってしまえば、携帯各社だけでなくメーカーにも非常に大きな負担がかかる上、消費者利益を損なうことにも繋がりかねない危惧があります。それだけに総務省が最終的に、この問題の落としどころをどこに見い出すのかが注目される所です。
