15億円調達したバンクシー、旧刑務所を買い取り「芸術の避難所」へ。覆面で隠した2つの顔に迫る
その他にも、2018年にイギリス・ウェールズ地方の溶鉱炉周辺に描かれた『Season's Greetings』では、燃えるゴミ箱から飛散する灰を、雪と勘違いして楽しんでいる子どもの姿を描き、環境汚染について言及するかのような姿勢も見せた。
現代の社会に蔓延っている、「これ、ちょっと変だよね、やばいよね」という、何かしらの問題を指摘し、ゲリラ的な表現によって楯突くことが、バンクシーの仕事に一貫している点かもしれない。
社会に対して皮肉な視点を提供する一方、バンクシーには慈善活動的な側面もある。
例えば、少年がバットマンやスパイダーマンといったヒーロー人形そっちのけに、ナースの人形で遊んでいる姿を描いた作品『Game Changer』(2020年)。
2020年5月、新型コロナウイルスが人間社会に蔓延るなか、その対応に追われるサウサンプトンの病院にこの作品は送られた。作品にはこんなメモがついていたらしい。
「Thanks for all you're doing. I hope this brightens the place up a bit, even if its only black and white.
(あなた方がしてくれていることに感謝します。白黒ですが、少しでも明るくなればと思います)」
医療従事者に対する敬意の表明と解釈できるこの作品は、その後オークションで、1,600万ポンドを超える金額で売却され、医療現場で働く人々への支援金となった。
この他にも2017年にはドローン(無人軍用機)が子どもたちの家を焼き払う様子を描いた『Civilian Drone Strike』をオークションに出品し、20万ポンドを超える落札額のすべてを武器貿易反対運動に寄付するなど、この手の話には枚挙にいとまがない。
今回の旧刑務所買い取りの話を、この反権威そして慈善活動家としてのバンクシーの側面から見ると、何が見えてくるだろうか。
■買い取りを申し出た旧刑務所は、かつて同性愛者を収容していた
じつはバンクシーがこの度買い取りを申し出たレディング旧刑務所は、一つのいわくというか、社会がいまよりも無知であった時代の悲しい物語がある。
1895年、まだ現役だったこの刑務所は、イギリスの劇作家・詩人のオスカー・ワイルド(1854~1900)を猥褻罪によって収容したことがある。「猥褻罪」とはいうものの、実際には同性愛者を逮捕するために当時よく用いられた罪状だったという。
要するに、性的マイノリティーだった一人の芸術家を社会的に殺そうとした施設が、このレディング旧刑務所というわけである。ちなみに、バンクシーによる『Create Escape』で描かれている人物像はオスカー・ワイルドとも囁かれている。
