改革に完成形なし。AI、DX時代のリーダーの責任とは?【私の雑記帳】

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日立がジョブ型雇用…
 日立製作所が『ジョブ型雇用』に踏み切るとのニュースに産業界ではさまざまな反応が聞かれる。

 ジョブ型とは欧米で一般的な働き方で、職務(ジョブ)の内容を明確にし、それに沿って人材を起用する雇用の仕方。職務記述書(ジョブディスクリプション)があって、職務ごとに必要なスキルを明記する。

 賃金も職務に応じて決まる。今よりもっと高い報酬を望む人は、さらに上の職務を目指し、自分のスキルを磨かねばならない。

 言ってみれば、ステージがいくつもあり、そのステージに見合った賃金形態が構築されていて、努力をしてスキルを修得し、自分の仕事の生産性を上げていけば、より高い賃金が得られる仕組み。その意味では、ヤル気を掘り起こす雇用形態と言っていい。

 日本では、『メンバーシップ型』が浸透している。終身雇用、年功序列ということで長らくやってきたが、これも日本国内だけで通用する雇用形態。グローバル経営を進めている大企業の中には、「海外と国内の雇用形態が違い過ぎて、人材の採用などで、齟齬が出てきて困る」といった声も出ていた。

ライバルに負けられない
 日立製作所はなぜ、この時期にジョブ型に踏み切ったのか?

「グローバル経営を進めている日立の従業員数は世界で37万人。うち15万人が日本人という内わけ。世界各国で働く21万人はすでにジョブ型の雇用でやってきたということ。グローバルに生きていく以上、海外でやっているジョブ型を日本国内でやれないものか。国際競争力を付けるためにも、本拠の日本もそうしていく必要があるのではないか、という所から議論は出発した」と関係者は語る。

 海外はジョブ型、日本はメンバーシップ型という二本立てを一本化させようという取り組みが数年前から始まった。

 職務の定義や、賃金形態をどう構築していくか、大変な作業だったと聞くが、最後は労働組合も合意しての日立のジョブ型雇用採用である。

「日立を取り巻く環境も随分と変わった。ひと昔前まで、ライバルは東芝や三菱重工業、三菱電機だった。それが今や、GE、アルストム、シーメンスといった世界で存在感のあるプレーヤーがライバル。そうした有力企業との激戦の中を生き抜くという覚悟があっての今回の措置」という指摘。

厳しい時こそ、正直に…… 日立のかつてのライバル・東芝、三菱重工業は今、苦境にある。ことに東芝は会社3分割案で揺れている。市場は両社をどう評価しているのか?

 1月12日(水)現在の時価総額は日立が6兆6779億円、東芝は2兆1173億円と3倍の開きがある。かつてライバル同士だったわけだが、この差はどこから生まれたのか?

 リーマン・ショック(08年)時に日立は7873億円の大赤字を出した。当時、製造業として史上最悪の赤字とされ、そこから子会社の削減を含む日立の大改革が始まった。裸になっての再出発だ。

 一方、東芝は損失計上の実態を隠蔽し、首脳陣の責任のなすり合いもあり、結局は苦境に立たされることとなる。その東芝は今、懸命の再生が続く。

 改革に完成形はない。AI(人工知能)やデジタル・トランスフォーメーションが進行する中で、「人」の可能性を掘り起こす作業が続く。リーダーの責任は重い。

各企業の選択に……
「ジョブ型をやらなければいけないということでは決してない。その企業の置かれた環境や人材の構成などで事情は違うのだから」という声も聞かれる。

 あるグローバル企業の経営者は、「うちは、海外はジョブ型、日本国内はメンバーシップ型をベースに独自にやっていく」と語る。