「アラフォーは待っていても縁談も男も来ない」先輩女子からの痛烈な一言に、婚活を決意したが…
いつの間にかアラフォーになっていた私。
後悔はしていないけど、なにかが違う。
自分とは違う境遇の他人を見て、そう感じることが増えてきた。
キャリアや幸せな結婚を手に入れるために、捨てたのは何だっただろう。
私のこれからって、どうなっていくんだろう。
これは揺れ動き、葛藤するアラフォー女子たちの物語。
▶前回:「アラフォーって傷つくこと多くない?」先輩の言葉に、38歳絶食系女子が激しく同意した理由
「傷つきやすい年頃」【後編】
名前:更科 葵
年齢:38歳
職業:メーカー勤務
趣味:体を鍛えること
私の両肩をガシッと掴んだ千春さんは、どうやら本気のようだ。
「婚活って…。今更?」
私が恐る恐る尋ねると、千春さんは任せておけと言わんばかりにスマホを手繰り、私に画面を向けた。
婚活サイトLOOPと書かれたWEBサイトには、「成婚率ますますアップ!」と書かれている。
幸せそうな妊婦の友人を見て、「私もあっち側に行きたい」と羨む気持ちはある。でも、こうまでして積極的に縁を掴みに行って、仮に結婚できたとして、私は幸せになれるのか?
そして、いきなり降ってきた「婚活」というワードに私は気後れしていた。
「いや、あの、私はそこまでして…」
断ろうとする私を遮って、千春さんは言った。
「何言ってんの?男が向こうからやってくる時代はもう終わったの。これからは積極的に縁を掴む時代よ!」
千春さんの様子に婚活への並々ならぬ意欲を感じるが、ふと私の中に1つの疑問が湧いてきた。
「私なんて、きっと登録しても選ばれませんよ…。しかも、千春さんはご実家が有名だから、お見合いの話とかたくさん来そうじゃないですか」
すると、千春さんはいきなり真顔に戻って、ため息をひとつついた。
「来たわよ。昔はね…」
若く適齢期だった頃は、親が次から次へと見合い話を持ってきたという。だが、当時結婚に全く興味がなかった千春さんは、見合い写真を大して真剣に見ることもしなかったそうだ。
「でもさ、お見合い話がきてた当時は仕事に夢中で。気がついたら、もうこの歳だったのよ」
料理業界で活躍している千春さんの周りは、9割女子。出会いもないのだという。
彼女いわく、「私たちアラフォーは待っていても、縁談はおろか男も来ない」ということなのだ。
「それに…葵はいつまでも独り身でいいの?やっぱり、結婚したいから、陽一の一言に傷ついたんじゃない?」
心の奥底で気にしていたことを千春さんに突かれ、私はハッとした。
「そうですよね…。千春さんが婚活するっていうなら、じゃあお付き合いしようかな…」
気乗りはしないが、断る理由もない。私は、1人で婚活したくないという千春さんに付き合う形で婚活サイトに登録することにしたのだった。
今更男性と付き合えるか不安…38歳独身女子の本心
私たち2人はこっそり同窓会会場を後にし、近くにあったホテルのバーで1杯飲んで帰ることにした。
クラシカルで落ち着きのある静かな空間が広がっていて、そんな空気を楽しみつつ、バーテンダーが丁寧にシェイクしたオリジナルカクテルを1口含む。
「うーん、美味しい!」
翡翠色の美しいカクテルを、千春さんは満足そうに眺めていた。
「うちの親なんてさ、若い頃は次から次へと見合い話を持ってきたくせに、私が自分で選んで付き合う相手は片っ端から反対してたのよ」
私の記憶では、スタイル抜群で料理のプロである千春さんは、いつだって彼氏がいた。でも結婚するという話は今まで1度も聞いたことがなかった。
「なのによ。娘がこの歳になって結婚もせず仕事ばかりしていると“誰でもいいから結婚してくれ“って言うのよ」
そして、ある時。父親が「行き遅れた娘をどうにかしたい」と電話で誰かと話しているのを聞き、無性に腹が立ったのだそうだ。
「だったら何がなんでも自分で見つけてやるってね。で、今度こそ文句言わせないんだから!」
そう意気込む千春さんは、婚活に真剣に取り組もうとしていることがよくわかった。
「葵は陽平の後、浮いた話のひとつもなかったわけ?何年彼氏いないの?」
千春さんはナッツを1つ、2つ口に放りこみ、カクテルをもう1杯オーダーした。
「私は…たぶん10数年いないですよ。正直今誰かと付き合うことになっても、恋愛の仕方すら思い出せないというか…」
我が身のことを話ながら、気分がどんよりと沈んでくる。
「今更、男の人とできるか不安なんですけど…」
私は思わず一番の不安材料を口にした。
「できるかどうかって…!葵、ひょっとして陽平としか経験がないってこと??」
酔いが回った千春さんの甲高い声がバーに響き、私は恥ずかしさで熱くなった。
「やめてください!本当に恥ずかしいですから!」
すると千春さんはおかしそうに笑って言った。
「だったら尚更、婚活したほうがいいわ。葵には経験が必要よ。38歳なんだからもう後がないと思ってどーんといっちゃいなさいよ。ワンナイトラブもOKっていうノリで」
お酒の勢いも借りて、私たちは婚活サイトLOOPに登録した。プロフの写真はバーのカウンターに腰掛け、大人のいい女風の写真を撮り合った。
婚活をすると決めたもののアプリで知り合う男に幻滅。その共通の特徴とは?
― あ、まただ。
プロフの写真がよかったのか、たまたまタイミングがよかったのか、私に「いいね」を押してくれる人は結構いた。
その間私が「いいね返し」をしたのは2人。両方とメッセージのやりとりを続け、それぞれとランチに出かけてみたが、なんだかピンとこなかった。
1人は2つ歳上と年齢は変わらないのに、ビール腹を突き出した姿はみっともないと思ったし、もう1人は仕事柄、家でもどこでも株の値動きを気にしているらしく、ひょろっともやしのような体つきと猫背が気になった。
その容姿に対して、彼らの結婚したい、彼女が欲しいという欲がなんともアンバランスに感じ、その後は誘われても応じることはなかった。
― 恋愛ってしようと思っても簡単にはできないな…。
38歳にもなって恋愛とはなんぞやという、そもそも論にぶち当たるとは、思ってもみなかった。
千春さんは、いいねの数は少ないものの、「優しそうだったらよしとする」としていいね返しをしては、いろんな男性と食事に出かけていた。
そして、何度か会ってダメだったら「おことわり」をし、次の「いいね返し」に気持ちを切り替えていた。
「みんな本気だから、なんとなく会ってても時間の無駄。でも数はこなさないとね」
千春さんみたいにこういう合理的な考え方ができる人に、きっとアプリは向いているんだと思う。
「葵はね、恋愛を難しく考えすぎなんだってば。とりあえず、何回か会ってみて決めればいいのに」
千春さんはあっという間に、婚活が趣味と言ってもいいくらい、アプリにのめり込んでいた。
「何回か会いたいとも思えなかったんです。私、これといって趣味もないし、会っても話すことないです」
これは本当のことだ。大学の同級生でも、同僚でもない初めて話す男性。若い頃だったら「◯◯さん素敵ですね!」「葵ちゃんだって可愛いって言われるでしょ」みたいなありがちな展開から、とりあえずの恋に発展していったかもしれない。
でも、アラフォーにいいねをしてくれる男性は、みんな「本気」なのだ。
「結婚したいっていう本気度が、私には重いんです」
そう言うと、千春さんは大笑いして言った。
「ワンナイトもできない葵が、重くて嫌だなんて!」
確かに矛盾しているとは思うけれど。
「結婚って何のためにするのかわかんなくなっちゃったんです」
千春さんはちょっと考えてから言った。
「うーん、やっぱ1人で老後を過ごしたくないからかなぁ。あと20年先、1人でいたくないな、って私は思ったよ」
― 20年先も、1人かぁ…。
それを考えた時、私は別に嫌じゃやないかもって思った。結婚はできたらいいけれど、マッチングアプリは、やっぱり私には向いていない。
「葵が1人でも大丈夫って思うなら、今から増やしておくといいものを3つ教えてあげる」
「なんですか?」と聞くと千春さんはふふんと笑って言った。
「筋肉と、友達とお金」
1人で生きていくには健康でいる必要があるし、いざとなったら頼るべきは友達とお金ってことらしい。
「私、体は鍛えてますよ。週3ジム行ってるし!」
◆
3ヶ月後。
結局、千春さんはそのまま1人でマッチングアプリを続け、私は結婚とはまったく無縁の以前の生活に戻った。
仕事を頑張り、時間があればジムに行く。少し変わったのは、通うジム個別トレーニングのトータルワークアウトに変えたこと。
料金はだいぶ高いけど、体を鍛えるくらいしか趣味もないから、これは自分へのご褒美的な意味もある。
それから、渋谷区か港区内にマンションを買おうと週末は物件を見に出かけるようになったこと。
1人で生活し続ける覚悟と安心を得るために、両方とも必要な出費だ。
そして、今日も私はジムに来ている。土曜日の昼下がり。1時間後の予約の時間までプロテインバーで休憩したり、軽くランニングしたりする。
毎週決まった時間に来るようにしているため、なんとなく同じ顔ぶれに会う。会釈をし、タオルを受け取って、プロテインをオーダーする。
「葵さん、今日のウェア素敵ですね」
背後から自分の名前を呼ぶ声に私は振り返る。今日の私も着ている、ルルレモンのウエアを着て汗をぬぐいながら近寄ってくる彼に、にっこりと微笑む。
このジムに来てから、土曜日のこの時間に必ず会う彼、タカシくん。彼が何者かはまだわからないけど、少しずつ距離が縮まり、先週はジムが運営しているカフェで一緒にランチをとった。
そう、彼のことは乃木坂に住んでいて、仕事は金融系としかわからないけど、なんだか気になっている。
1人で生きていけるように生活を整えよう。そう決意し行動していく中で、私の中に久しぶりに芽生えたときめき。うまくいくかどうかは別にしても、大きな前進だと思っている。
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年下彼と結婚した女医。幸せなはずの結婚生活に潜むアラフォーならではの悩み