非議員で代表を務める松井一郎・大阪市長(写真:Issei Kato/Bloomberg)

先の衆院選で大躍進した日本維新の会が、自民・公明による巨大与党と野党第1党の立憲民主に割って入る形で、国会運営を揺さぶっている。全国規模の国政政党への脱皮をアピールする狙いからで、自民、立憲両党も戦々恐々の対応だ。

ただ、国会第3党となった維新のトップについては、11月末の臨時党大会で、すでに2023年4月の大阪市長任期満了での政界引退を表明している松井一郎代表の続投が決まった。「後継者不在」が理由だが、本家は地域政党「大阪維新の会」という特殊な構造で「全国的国政政党への限界を露呈した」(自民幹部)と揶揄されている。

そもそも中央政界で「維新」と呼ばれる政党は、松井氏と大阪維新代表の吉村洋文大阪府知事の「非議員の大阪コンビ」が2枚看板だ。国会議員のトップは馬場伸幸共同代表だが、国会運営も含めて松井代表が最高指揮官となっている。

先の衆院選での各種党首討論でも松井氏が各党党首と対峙し、各小選挙区での公認候補の選挙応援も松井、吉村両氏が党の顔として全国を駆け巡った。その結果、公認候補は大阪では完勝したが、ほかの都道府県では比例復活が精一杯で、全国制覇への足掛かりはつかめなかった。

大差での「代表選見送り」に松井氏も苦笑い

松井代表は続投決定を受けて、いわゆる「東京組」も重用した新体制を決めたが、松井、吉村両氏を中心とした大阪主導での党運営は維持する方針。衆院選前後に急上昇して立憲民主を上回った政党支持率も、ここにきて頭打ちとなり、次期参院選での党勢拡大にも暗雲が垂れ込める。

松井氏は参院選後に改めて代表選実施を提起する構えだが、現状では後継者不在は解消されそうもない。参院選を自民・公明の連立与党が制すれば、次期衆院選は3年以上先と見込まれるだけに、それまでに本格的国政政党に脱皮することは極めて困難とみられている。

日本維新の会が臨時党大会で松井代表の続投を圧倒的多数で決めたのは11月27日。立憲民主代表選の最終盤だっただけに、各メディアも多くが短信での報道にとどめた。

期限付きでの政界引退を表明している松井氏は、臨時党大会で新たな代表を決めるための代表選実施決定を提起していたが、後継者の本命だった吉村氏が代表就任を固辞し、「やむをえない続投」となったのが実態だ。

臨時党大会では国会議員や地方議員ら「特別党員」514人による電子投票が実施されたが、結果はダブルスコア以上の大差で「代表選見送り」が決まった。じっと目をつぶって投票を見守った松井氏は、続投が決まると首をかしげて苦笑していた。

そもそも同党は、2010年に当時大阪府知事だった橋下徹氏が自民党から独立して旗揚げした大阪維新の会の国政政党版。初代代表の橋下氏が大阪市長時代の大阪都構想の住民投票否決で政界を引退した後は、橋下氏と組んで党創立を主導した松井氏が、非議員ながら国政政党の代表として党運営を担ってきた。

創業者としてなお影響力を残す橋下氏は、今回の臨時党大会に先立ち、後任代表に吉村氏を推す発言を連発したが、吉村氏は大阪府知事としてコロナ対策などに専念するとして固辞。その際、吉村氏は「橋下さんはいつも僕に押し付ける。そこまで言うなら、橋下さんが戻ってきて、やったらいい」と言い返した。

たしかに、後継者の不在は深刻で、とりわけ地方議員を数多く抱える「大阪維新の会」と全国政党の「日本維新の会」の双方をまとめる人物は吉村氏以外には見当たらない。今回衆院選で当選した新人議員の中には代表選実施論者もいたが、吉村氏の固辞で沈黙せざるをえなかった。

そうした中、かねて橋下氏と対立してきた大阪9区選出の足立康史衆院議員(当選4回)は、代表選への出馬に意欲を示して党内の同調を求めたが、橋下氏らが相手にせず、不発に終わった。衆院選を大躍進に導いた松井氏の参院選までの続投は政治的にみても当然で、「変な代表にしたら参院選で敗北しかねない」(党幹部)からだ。

政調会長に東京選出の音喜多氏を起用

続投が決まった松井氏は直ちに新たな執行部人事に着手。幹事長に衆院当選2回の藤田文武氏(40)=大阪12区、政調会長に音喜多(おときた)駿参院議員(38)=東京、総務会長に柳ヶ瀬(やながせ)裕文参院議員(47)=比例代表=の起用を決めた。

大阪出身の国会議員ばかりだったこれまでの党3役に、東京を地盤とする若手議員を抜擢したのは、党幹部の世代交代も含めて「全国政党」としてのイメージアップが狙いだ。松井氏は「次の10年に向けて気概をもってチャレンジしてもらいたい」と発破をかけた。

ただ、松井氏の代表任期は来夏の参院選から90日後までだが、同氏は任期後の対応についても「参院選後に決める」と口を濁し、さらなる続投の可能性も否定しなかった。

その場合は2023年4月の大阪市長退任による政界引退時に誰を後継者にするかで、「維新の将来が決まる」(党幹部)ことになる。

新体制での初舞台となった12月6日召集の臨時国会では、いわゆる文通費と呼ばれる「文書通信交通滞在費」の抜本的見直しで立憲民主や国民民主と連携し、与党を追い詰めているが、司令塔は松井、吉村両氏で、新執行部は「伝達役」にしかみえない。

もちろん、13日からの衆参予算員会での補正予算案の審議で、藤田幹事長ら新3役が大活躍すれば「次の代表候補」に向けてのアピールにはなる。しかし、憲法改正も含めて自民寄りの路線が目立つ維新だけに、「派手に活動すればするだけ、国民からは自民の補完勢力とみなされる」(党幹部)ことにもなりかねない。

政治資金でのほら貝購入、長時間の反省会…

かねて「中央、地方を問わず維新は問題議員が多い」(自民幹部)との指摘も多い。今回衆院選で4期目の当選(比例復活)を果たした杉本和巳氏(61)は、政治資金での4万円あまりのほら貝購入がネットでも大炎上している。

橋下氏は「とんでもない勘違い」と厳しく批判。党幹部も「松井、吉村両氏におんぶにだっこで当選したのだから、不適切な言動は許されないのに」と肩をすくめる。

しかも、リーダーの松井氏も、12月になって党所属の国会・地方議員、市長ら約30人と「反省会」の名目で長時間会食していたことが発覚した。大阪府がコロナ対策のため、会食のテーブル別人数を4人以内とし、約2時間以内にとどめるよう要請している中での多人数の会食だけに、松井氏も記者団からの追及にしどろもどろとなった。

これらは「大躍進した維新への風当たりの強さの表れ」(党幹部)でもあるが、「党全体のイメージダウン」(同)は避けられない。国民的不満が渦巻く18歳以下への10万円給付で、政府と厳しく対峙してみせる松井、吉村両氏だが、「寄せ集めの国会議員の不祥事に足をすくわれる」(同)と、全国政党への脱皮は絵空事にもなりかねない。