Jリーグクライマックス2021

欧州→J復帰組の現在(後編) 前編を読む>>

 ヨーロッパの有力リーグから戻ってきた「欧州帰国組」は、日本人とはいえ、助っ人外国人選手に近い存在だろう。いわゆるスター選手でもあり、平均的なプレーでは及第点を与えられない。それは本人にとってストレスでもあるだろうが、そんなストレスを感じさせず、"日本"のサッカーに適応しなければならないのだ。

 そんな「欧州帰国組」の現状査定は、今回の4人では明暗が分かれた。

長友佑都(マルセイユ/フランス→FC東京)

 横浜FC戦で、背番号50は11年ぶりの復帰戦を戦った。左サイドバックに入った長友は堅実な守備に終始した。見せ場と言えるようなプレーは乏しかったが、声を張り上げ、味方を鼓舞し、好プレーに惜しみなく拍手し、熱気を作っていた。


2008年から4シーズン所属したFC東京に復帰した長友佑都

「ひとりの熱を持った選手のおかげで、ここまで変わるんだなと。チームとして根本のところで熱い気持ちが足りず、安定して力を出しきれていなかったところに、彼がトリガー(引き金)になってくれました。戦う気持ちで周りを奮い立たせ、劣勢も跳ね返すというか......」

 FC東京の長谷川健太監督が説明したように、太陽のような存在感だった。

 長友はインテルでチャンピオンズリーグのベスト8、コッパ・イタリア優勝、ガラタサライでトルコリーグ連覇を経験。3度のワールドカップ出場を含め、トップレベルでのプレーを続けてきた。昨シーズンもマルセイユで定位置をつかみ、年齢的衰えを見せていない。

 そんな経験が味方の戦闘力を高め、プレーに集中させるのだろう。

 試合ごとに周囲との連係も高まりつつある。代表戦による中断前の川崎フロンターレ戦は、1−0で敗れたものの、田川亨介に送った左サイドからのクロスの精度は抜群だった。アダイウトン、高萩洋次郎とも波長が合ってきて、ワンツーからディエゴ・オリヴェイラに入れたパスは"世界"を感じさせた。

 チーム自体は不安定な状況にあり、まだまだすり合わせは必要だろうが、今後に期待が持てるスタートとなった。

〇乾貴士(エイバル/スペイン→セレッソ大阪)

 乾は過去リーガ・エスパニョーラで最も活躍した日本人選手と言える。所属したエイバルではトリッキーなボールタッチが地元ファンに愛された。入団当初は守備が課題とされたが、徐々に改善していった。

 C大阪には、2011年にブンデスリーガのボーフムに完全移籍して以来の「復帰」という形になる。

 個の力には、やはり目覚ましいものがある。ドリブルでディフェンスに向かう時には、相手に怖さを与えられる。単純なスピード、幻惑させるボールタッチ、切り返しの鋭さやキックの重さ。その覇気が伝わって、間合いに入らせない。第30節の鹿島アントラーズ戦では、左サイドから中央へドリブルでボールを運ぶと、相手をあとずさりさせ、スルーパスで原川力の得点をアシストした。

 もっとも、C大阪は監督交代などでチームとしての戦い方が失われ、全体的に、個でどうにかしようとするプレーが目立つ。乾も空回り気味で、復帰後はアジアチャンピオンズリーグを含めて2勝5敗と大きく負け越している。チーム全体の問題が深刻なだけに、立て直しには時間がかかるかもしれない。

 乾個人のトラップ、パス、ドリブルなど、ひとつひとつのプレーはスペクタクルなのだが......。

〇安西幸輝(ポルティモネンセ/ポルトガル→鹿島アントラーズ)

 ポルティモネンセで2シーズンを過ごした後、安西は鹿島に戻ってきた。当初はコンディションの問題で交代出場が多かったが、徐々に本領を発揮しつつある。代表戦による中断前の川崎戦では、左サイドから中に持ち込んで右足で強烈なシュートをお見舞い。その直後には、縦を突っ切って、左足でクロスをファン・アラーノの頭に合わせた。

 スピードとスキルの高さは本物だ。

 ポルティモネンセでは、サイドバックとしてポジションをつかんでおり(カップ戦も含め、60試合に出場)、その実力に疑う余地がない。過去にも日本代表レベルのサイドバックがポルトガルで挑戦したことがあるが、定位置をつかむには至らなかった。ポルトガルではサイドバックに要求されるインテンシティやスキルは高いのだ。

 安西は日本代表でも左サイドバックとして「長友の後継者」と目されていたが、いまだ定着できていない。ポルトガルで培ったプレーを、日本の地で革新させられるか。それは安西本人だけでなく、日本サッカーの運命を左右することになるかもしれないのだ。 

〇宮市亮(ザンクトパウリ/ドイツ→横浜F・マリノス)

 正確に言えば、宮市の場合、復帰組には括れない。なぜなら、彼は一度もJリーグのピッチに立ったことがないからだ。

 高校卒業後、プレミアリーグ・アーセナルと契約。1年目はオランダのフェイエノールトにレンタル移籍し、当時はセンセーションを起こした。トップスピードに入った時の疾走感は極上と、将来が嘱望された。

 だが、たび重なる膝のケガなどに悩まされ、なかなか継続的にプレーすることができなかった。それでも10シーズンにわたって欧州でプレー。昨シーズンはブンデスリーガ2部のザンクトパウリで29試合に出場し、久しぶりに面目躍如だった。

 その経験を糧に日本へ戻り、第29節、敵地の名古屋グランパス戦でデビューを飾っている。この試合で宮市は途中から左FWの位置に入ったが、率直に言って、周囲との呼吸はまだ合っていなかった。リードされた状況で入っただけに、怖さを見せたかったが、ほぼ封じられていた。ファーポストで敵の背後を取ってのヘディングシュートなど、わずかに見せ場を作ったが、ボールを後ろへ戻す場面が多かった。

 優勝争いをするチームで、いきなり定位置を確保するのは厳しいだろう。与えられた短い時間で、いかに状況を打開するプレーを見せることができるか。それだけの天性のものは持っているはずだ。