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フォトグラファー興村憲彦が、写真集「DRIVE」発行を記念して、銀座「森岡書店」にて同名写真展展覧会を10月5日〜10月10日まで開催中だ。興村憲彦は、ポートレイト撮影を中心に、雑誌、広告へと活動フィールドを広げている。その一方で仕事と並行してスナップや風景の作品を撮り続けてきた。その集大成として発表したのが写真集「DRIVE」だ。ポートレイトとスナップフォト。仕事と作品。その2つに共通するのは、一貫した興村の視点だ。ここでは、2020年5月号コマーシャル・フォトでのフォトグラファー特集・興村憲彦でのインタビューを掲載。

フォトグラファー特集
興村憲彦


「距離感、間合い。それがフォトグラファーの視点ですよね」


ポートレイト撮影のイメージが強い興村だが、写真を始めたきっかけは地元・大阪で不動産物件の広告を撮影する会社へ入社したことだった。軽い気持ちで入った写真の世界。その後上京し、都内撮影スタジオ勤務後独立した。今年で独立11年目となる。

興村 大阪にいた頃は広告写真のことは何も知らず、著名なフォトグラファーのことさえ知らなかったんです。

少しずつ、広告専門誌を見るようになって、作家性のある広告写真に惹かれるようになりました。自分の写真を活かしてもらえるような仕事をしてみたいと思い、東京に出ました。

大阪での勤務先を辞め、全くツテがない状態で一人上京。持ち込みから始めて、フォトグラファーや撮影スタジオから紹介を受け、広告代理店の撮影スタジオアシスタントとして働き始めた。

興村 撮影技術や撮影の現場を学べて、勉強になりました。ただ、技術や知識だけでなく、その中で自分がどんな表現ができるのかを考えるようになりました。まずは身近な人の写真を撮ろうと、親のポートレイトを撮ることから始めました。

親と向き合う気恥ずかしさはあるが、それを通過しておかないと今後、人に伝わる写真は撮れないと考えた。このシリーズをブックにまとめ、あるフォトグラファーに見てもらった時の言葉が、今も印象に残っているという。

興村 “ポートレイトとして成立する写真は見た人の想像力を掻き立てる”と話してくれた方がいました。ブックの中にあった父親の写真を指して、“この写真を見て、僕の父親は今、どんな顔をしているのかな、と思った。見た人にそういうことを考えさせるのがポートレイトなんだよ”と。それまで感覚的に感じていたものが言語化されて、納得したし、自分の写真をそんなふうに分析されて、刺激を受けました。

興村は、これをきっかけにポートレイト撮影をより意識し始める。



自分の写真にはめ込むことやめた

独立後は、仕事を求めてひたすら営業へ回る毎日。それを繰り返すうち、いくつかの雑誌からインタビュー写真を依頼されるようになった。初めはモノクロページの小さなサイズから始まり、徐々にメインのページを任されるようになる。そこで撮影した写真をブックに入れて、さらに営業へ。そのかいあってか、5年ほど前から広告撮影の依頼が増えた。雑誌から広告へ媒体が変化したそのきっかけを自身はどう捉えているのか?

「ポートレイトを撮る時、自分の世界に被写体をはめ込む撮り方をやめたんです」と興村は話す。

興村 独立したばかりの時、役者さんの横顔を撮影する仕事を依頼されたんです。ほんの数分で、会議室の一角で撮るという撮影条件の中で、良い背景になりそうな所をなんとか探して、その役者さんには狭いところに立って横を向いてもらい撮影しました。

そのあがりを見たアートディレクターから“確かに自分は横顔の写真を依頼したけど、目の前が壁だったら、どんな表情をすれば良いかわからないし、気持ちも乗らない。もし使わなかったとしても、例えば目線のある写真をしっかり撮ってから横顔を撮ったりと、方法はたくさんある。相手の気持ちを考えて、どうしたら良い表情を撮れるかを想像しないと良い写真は撮れない”と言われたんです。その時、自分が思い描いた絵を押し付けるだけじゃ伝わらないということに気がつきました。

このアドバイスから撮影方法も変わった。仕事を通して学んだことは大きいという。その中の一つが「留めの写真」と「動きのある写真」の違いだ。

興村 雜誌で同じテーマで数ページの撮影を依頼された時のことです。それまでは、自分のライティングと世界観の中で撮るいわゆる“留め”の写真が多かったんです。しかし数ページの特集となると、それだけで伝えることが難しい。もちろん“留め”の写真は魅力的ですが、そればかりではなく“動き”を意識すれば写真の幅も広がるんじゃないか、と考えるようになりました。



フォトグラファーの個性とは

最近は広告の仕事でも作品に近いテイストを求められる仕事が増えてきた。

興村 トーンが印象的と言われることもありますが、フィルムの色が好きだから自ずとこのトーンになるだけで、好きな光や色を無意識に選んだ結果なんです。自分としては距離感や間合い、視点を意識しています。そこに自分の表現を見つけられたらといいなと思っています。

その“視点”をよりわかりやすい形で見せたいと、6年前からZINE『DRIVE』を発行してきた。撮り続けてきた写真とともに元コピーライターの父の言葉で構成されている。2019年にはvol.10を発行。その集大成として、銀座・森岡書店にて本作をまとめた個展を開催中だ。

興村 写真を始めた頃、僕が撮った写真を父親に見せたことがあって。広告の仕事をしている父親からどんな反応がくるのかと思っていたら、かなりダメ出しを受けたんです。その時に詩集を渡され”これを読んでイメージしたものを写真に撮ってみろ。そうやって想像力を養う練習をしろ”と。そんなことを言われて、悔しかったのもあり、ずっと作品は撮り続けていた。その延長線にあるのが『DRIVE』です。

この個展で『DRIVE』シリーズに区切りをつけ、新しい作品に取り掛かる。2019年には、8×10を購入し、アトリエも借りた。

興村 仕事で写真を撮るだけでは難しい時代だから、作品を撮り続けないと次に進まない。これを区切りに基本に立ち返って、写真を楽しみたいと思っています。




(2020年5月号コマーシャル・フォトより転載・一部改定)



写真集『DRIVE』
著・写真 興村憲彦/言葉 興村俊郎
限定400部・4,800円

興村憲彦(おきむら・のりひこ)
大阪府出身。2009年に独立後、雑誌・広告等で活動。2012年、写真展「PRESENCE」。2015年より冊子「DRIVE」を刊行。
www.okimuranorihiko.com/

興村憲彦 写真展「DRIVE」
2021年10月5日〜10月10日(13:00〜19:00)
森岡書店
東京都中央区銀座1丁目28-15 鈴木ビル1階