新型コロナウイルス感染と血液型との関係とは?(イラスト:あんころもち /PIXTA)

新型コロナウイルス感染と、血液型との関係が注目されています。国内100以上の医療機関などが参加する「コロナ制圧タスクフォース」の発表によれば、日本人患者の血液型と重症化の関連について調べたところ、「O型の人は、他の血液型と比べて、重症化リスクが約0.8倍と低い」「AB型の人は、他の血液型と比べて、重症化リスクが約1.4倍と高い」との結果が出たそうです。現在、新型コロナ感染と血液型との関係を示す大規模な研究が、世界で急速に進められています。なぜ、血液型によって新型コロナの感染率や重症化率が違ってくるのでしょうか。

感染免疫学者である藤田紘一郎氏の最新刊『血液型と免疫力』を一部抜粋、再構成し、お届けします。

血液型によって新型コロナの感染率が違う

「血液型」というと、「性格判断」に結びつける人は多いでしょう。日本人は血液型による性格判断を好む人が多く、「O型はおおらか」「A型はまじめで几帳面」「B型はマイペース」「AB型は変わり者」など、まるで天気の話をするように、会話の中に血液型判断が出てきます。

ところが、多くの科学者や知識人は血液型判断に否定的です。「ABO式血液型による性格診断は、科学的に何も実証されていない。血液型という生まれつきのもので人を判断するのは不当」と批判してきました。

しかし現在、血液型の科学的研究がまったく異なる視点から急速に進められています。世界中で感染を広げ、変異株を次々に発生させている新型コロナウイルス。その感染率や重症化率が、血液型で異なることがわかってきたのです。

たとえば、アメリカの消費者向け遺伝子検査会社の「23andMe」が75万人以上のビッグデータを解析した結果によれば、O型の人は他の血液型より新型コロナに10〜20%感染しにくいと報告されています。

カナダで実施された調査では、新型コロナの重症患者95人の血液型を調べた結果、A型とAB型の患者は84%が人工呼吸器を使ったのに対し、O型は61%だったと報告されました。とくに注目したいのは、集中治療室に滞在した日数です。A型とAB型の患者は平均13.5日間だったのに対し、O型の平均は9日間であり、4日間も短かったのです。

世界で権威ある週刊総合医学雑誌とされる『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』の電子版(2020年6月17)にも、血液型と感染率を遺伝子レベルで研究した論文が掲載されています。新型コロナ感染・重症化と遺伝子との関係を調べたところ、O型の遺伝子を持つ人の重症化リスクは他の血液型より低く、A型の人は重症化リスクが高くなる可能性が見られたとのことでした。

同様の報告は他にもされています。それらをまとめてみれば、「O型は他の血液型と比べて感染率も重症化率も低く、反対に、A型とAB型は高い傾向がある」とわかります。

なぜ、血液型によって違いが見られるのでしょうか。理由については、まだ明らかになっておらず、さらなる調査が待たれるところです。

1つ可能性として考えらえているのが、「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」という、人の体内にあるたんぱく質の関与です。新型コロナは、ACE2という受容体を足がかりにして、人の細胞内に入り込み、増殖します。新型コロナ感染で肺炎が起こりやすいのは、ACE2が肺の細胞に多くあるためです。

つまり、新型コロナとACE2が結合しなければ、感染は成立しないことになります。O型とB型の人は、「抗A抗体」というたんぱく質を血液中に持ちます。この抗A抗体が、新型コロナとACE2の結合をある程度邪魔する働きがあるのではないか、とわかってきました。

O型は「血栓」ができにくい

もう1つ、O型の人の重症化率が低い理由として考えられるのは、O型は他の血液型より血栓(血の塊)ができにくいことです。

O型の人は「フォン・ヴィレブランド因子」が他の血液型より3割ほど少ないと知られています。フォン・ヴィレブランド因子とは、血液を固めて止める血液凝固因子のこと。これが少ないということは、血栓(血の塊)が血液中にできにくいことを示します。血栓は脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓などを引き起こします。

新型コロナ感染症では、これらの血栓症が起こる頻度が高くなっています。O型は、フォン・ヴィレブランド因子が少ないことで、他の血液型よりも血栓症を起こしにくい。それがO型の重症化率をある程度抑えているのではないか、と考えられるのです。

生まれ持った免疫力も、血液型によって違ってくると考えられます。

免疫とは、ご存じのとおり、感染症などの病気を防ぎ、治す働きのこと。
その力が強ければ、新型コロナ感染を防ぐ力も高まります。感染しても重症化を抑えるのも免疫の働きです。よって、感染と重症化の予防には、免疫力を日頃から高めておくことが、何よりも大切です。

免疫の働きは、複数の免疫細胞や組織の連携によって形成されていて、その一つに「抗体」があります。抗体は、体内に起こった「異物」に特異的にくっついて破壊するたんぱく質のことです。

私たちは、血液型によって異なる抗体を持っています。

血液型は、赤血球のまわりにとげのようにたくさんある「糖鎖」で決まります。血液型で異なる糖鎖を「血液型物質」と呼びます。A型の人はA型物質を、B型の人はB型物質を持ちます。AB型はA型とB型の血液型物質を持っていますが、O型の人はどちらも持ちません。ちなみに、血液型物質は、赤血球だけにあるのではなく、全身に広く分布しています。

そして、ここが重要です。免疫は、「自分の血液型物質とは反対の抗体」をつくり出します。これによって、以下のような現象が起こります。

●A型は抗B抗体を持つ
●B型は抗A抗体を持つ
●AB型はどちらも持たない
●O型はどちらも持っている

抗体は、異物を排除するためのいわば「武器」。その量の差は、免疫力の差を生み出す一因にもなってきます。つまり、抗A抗体も抗B抗体も持つO型は免疫力がもっとも強く、どちらも持たないAB型は免疫力が弱くなりやすいのです。

なお、A型の人が抗A抗体を持たないのも免疫の重要な働きの一つです。万が一にも、全身に分布する血液型物質に抗体がつくられたら、抗体が自分の血液型物質に攻撃を仕掛け、激しい炎症が全身で起こってしまいます。そんなことが起こらないよう、免疫には、自分に有益と判断したものには抗体をつくらず、受け入れるしくみが備わっています。これを「免疫寛容の法則」といいます。

微生物との闘いのなかで強固な免疫力を築いた

人類が誕生したとされるのは、およそ700万年前。地球上で人類は、細菌や寄生虫、ウイルスなど病原性の強い微生物にさらされながら進化してきました。人類は微生物との闘いのなかで強固な免疫力を築き、それをうまく働かせることで、今日まで命をつないできました。

そうした微生物との闘いのなかで、人間は抗A抗体も抗B抗体も持つようになったと考えられます。実は、血液型物質は、人間だけが持つのではなく、細菌や寄生虫、動物など、地球上のあらゆる生命体に共有される遺伝物質なのです。病原菌が体内に侵入してきたとしても、その血液型物質に対抗する抗体を持っていれば、ただちに排除できます。

以前、私たちが行った実験です。鶏卵などで増殖し、食中毒を頻繁に起こすサルモネラ菌にはいくつかの種類があり、B型の血液型物質を持つ細菌が多くいます。そのB型の細菌を、O型とA型の血清中で培養したところ、数を増やしませんでした。抗B抗体が増殖を邪魔するからです。一方、B型とAB型の血清中では増殖しました。抗B抗体がないためです。

このように、血液型によって、感染しやすい微生物や免疫力が違ってきます。その違いをまとめてみます。

●A型の人は抗B抗体を持っている。このため、B型の血液型物質を持った微生物には感染しにくい
●B型の人は抗A抗体を持っている。このため、A型物質を持った微生物には感染しにくい
●O型の人は、抗A抗体も抗B抗体も持っている。このため、A型とB型の微生物には感染しにくい。また、両方の抗体を持つことで、免疫力が4つの血液型でいちばん強い
●AB型の人は、抗A抗体も抗B抗体も持っていない。このため、感染症全般に弱い。抗体の量も生まれつき少ないので、免疫力がもっとも弱い

微生物はA型のほうがB型より数が多いため、抗A抗体を持たないA型の人はB型よりも感染症に罹患する可能性が高くなります。

以上のことから、免疫力を強い順に並べると、

「O型 → B型 → A型 → AB型」

となります。

免疫力は食事や生活環境に影響される

ただし注意してほしいのは、O型は新型コロナに感染せず、A型やAB型は感染する、といっているのではないことです。


「他の血液型と比較したとき、O型は免疫力が高く生まれついている」という話です。「O型の人は、他の血液型に比べて、新型コロナに感染・重症化の確率が低い」ということで、「感染しない」とはいっていません。

私たちの免疫力は、食事や生活環境、生活サイクル、睡眠の状態、運動、ものの考え方、ストレスの度合いなど、さまざまな要因で違ってきます。その一つとして、血液型がある、と考えるとわかりやすいでしょう。

人の免疫力とは、食事や生活、睡眠、ストレスの状態に大きく影響されます。食事や生活の状態がおろそかになっていれば、O型とはいえたちまち低下しますし、A型やAB型の人も免疫力を強化する生活を心がけていれば感染を防ぐことができます。

こうした血液型による違いと免疫の性質を知って健康増進に活かしていくことが、コロナ禍ではなおのこと重要となってくるのです。