撮影:稲澤朝博

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8月20日より全国公開される映画『子供はわかってあげない』。

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高校2年生で水泳部の朔田美波(上白石萌歌)は、ある夏の日、同じアニメが好き、という共通点から、書道部のもじくん(細田佳央太)と仲良くなる。さらに、もじくんの家で見つけたとあるお札から、幼い頃に別れた父親を探すことになるが、新興宗教の教祖になっているのでは?という疑惑が沸き……。

実の父親が教祖!?という、そうそう日常にはあり得ない出来事が起こるのだが、その中に流れる日々の出来事は、誰にでもあるようなありふれた日常の一コマばかり。そこでのやり取りがときに笑えて、泣けて、とにかく優しく温かい。

そんな物語の中で、細田佳央太が演じるのは、主演の上白石演じる“朔田さん”と仲良くなる“もじくん”という男の子。今も昔も、そしてどこにでもいそうな優しい男の子だが、よく考えると、今どきこんな子いないのかも?と思えてくるようなキャラクターでもある。

沖田修一監督からは常に「細田くん自身でいてほしい」と言われながら演じた“もじくん”とどう向き合ったのか。自身の恋愛観なども明かしながら、たっぷり語ってもらった。

もじくんは憧れの存在

――本作に出演したい、と思ったポイントを教えてください。

オーディションを受けるに当たって、(本作同様、沖田修一が監督・脚本を務める映画)『南極料理人』を観させていただいて、すごく心が温かくなるような世界観に惹かれて、「絶対にやりたい」と思いました。

オーディションでは、(上白石萌歌演じる)朔田さんと(細田が演じる)もじくんが屋上で出会うシーンを演じたんですけど、そのときもすごく楽しかった記憶があります。

――脚本を読んだときはどう思いましたか?

やはり(『南極料理人』と同様の)温かさを感じました。ただそれと同時に、原作のもじくんの雰囲気を、この台本に自分が落とし込めるのか、ちょっと不安になりました。僕としては、(もじくんと)自分との共通点みたいなものがなかったので、どうしていこうかな、と。

――原作と映画のもじくんでは少し雰囲気が違っていて、映画のもじくんには細田さんの雰囲気と近いものを感じたのですが、ご自身ではそうではなかったのですね。

もじくんの性格の柔らかさや温かさは、僕にとっては羨ましいもので、自分にはないものだと思っています。

ただ撮影前のリハーサル期間のときに、沖田さんから「もじくんらしさは台本の中にセリフとして散りばめているから、あとは細田くんが演じてくれればそれでいいです」と言っていただけて。

だから、自分ではわからなくても、監督や他の人から見ると、僕ともじくんがリンクしているところはあるんだろうな、とは思います。

――実際の細田さんはもじくんと比べるとどんな人なのですか?

僕にはもじくんのように周りにいるすべての人の想いを受け止めてあげられるような優しさはたぶんないですね(苦笑)。もじくんって、誰かが何か意見を言っても、それを否定するよりも、受け止めることをする人で。それは僕には備わっていないので、一種の憧れでもあります。

人を好きになるときは、「気づいたら好きになっていた」ということが多い

――細田さんは、もじくんはいつから朔田さんに好意を持ったと思っていましたか?

どの辺なんでしょうね? 台本に書かれていなかったので、どこって言われると難しいです。ただ、(水泳部の)朔田さんが耳に入ってしまった水が取れなくて、2人で一緒にトントントンって(水を出す動きを)やる場面があって、たぶん、あの水はすぐには取れなくて、しばらくは気になっていて。

沖田さんからは、そこが朔田さんともじくんがお互いを想い始めた最初だったんじゃないか、と言われました。けど、そこからの気持ちの変化は、特にここがきっかけとかは決めていなくて、自然と2人での時間を過ごしていくなかで、最終的な流れになったのだと思います。

僕自身が人を好きになるときのことも考えたんですけど、最初は異性だとしても友人関係から入って、気付いたら好きになっていた、ということが多くて。あとから「じゃあ、いつから好きになっていたんだろう?」って考えても、いつも見つからないんです。

何かキュンとする仕草をされたとか、相手からの好意を感じたとか、特別なものを感じたことが一回もなくて。そう考えると朔田さんともじくんの関係は、リアルなのかな、って。逆に“ここから”というものがなかったからこそ、ナチュラルにやれたのかな、とも思います。

――監督からの演出で印象に残っていることはありますか?

リハーサル期間から一貫して「細田くん自身でいてほしい」とは言われていました。

クランクインのとき、緊張もあってすごく力んでしまったカットがあって。そのときに沖田さんから「もう1回やろう」と言われて、僕が力んでしまうと、それが全部もじくんとして出てしまうんだな、と気づいて。

「ナチュラルに、力まず、細田くん自身でいてほしい」とも言われたので、ナチュラルの言葉の意味を考えたりもしました。

――でも“細田くん自身”って難しそうですよね。自分のことが自分でわかっていないといけない、というか。

そうなんです。だから難しかったです。「俺っぽくやるって何なんだろう」って。だって、もじくんはもじくんであって、僕ではないので。だからそこがわからなくなってしまったときもありました。

――それはどのように解消したのですか?

具体的にこれをしたから、というものはなくて。撮影をしてく中でシーンを重ねて、もじくんとして朔田さんと話をしていくことで、その空気感から自然とできていったのかな、と思います。

萌歌ちゃんは、本当に“朔田さん”って感じ

――書道教室で朔田さんが書道をしているのを、もじくんが見ながら会話をする2人だけのシーンが、何気ないやり取りなのですが、とても印象に残りました。

あそこは2人のシーンの中では、一番リハーサルをしないでやったシーンだったと思います。わりと掴めていたというか。ただ、親子丼のセリフのところはめちゃくちゃ苦戦しました。自分でも何を言っているのかわからなくなって、ひねり出してました。

あのシーンの他にもワンカットで撮っているシーンはいくつかあって、「自分が失敗したらどうしよう」という雑念もあるので、緊張はしましたけど、僕自身があの雰囲気とか、ああいうやり取りがすごく好きなので、割と考えすぎずにはできました。やっていてつい笑ってしまいました。

――上白石萌歌さんとの共演はどうでしたか?

萌歌ちゃんは、本当に“朔田さん”って感じでした。今回、現場では2人でお芝居や役について話すことはほとんどしていなくて、何気ない普通の会話をしていただけなんですけど、そこから彼女自身に引っ張ってもらったものがすごく大きかったな、と思っていて。

朔田さんともじくんの雰囲気とかは、そういう会話から生まれてきたものだな、と。だから、萌歌ちゃんが朔田さんだったからこそ、僕はずっと救われていたと思います。

――もじくんの兄・明ちゃんを演じた千葉雄大さんの印象も聞かせてください。

千葉さんとご一緒した最初のシーンが、朔田さんが通帳を見せるシーンだったんですけど、撮影の前から(上白石も含めた)3人でおしゃべりをしていて。だから、その時点からか、一緒にお芝居をしてみて感じ取ったのか、僕の中で明確にはわからないのですが、千葉さんがいるだけで、何か安心する感覚がありました。

(千葉は)お兄ちゃんというか、お姉ちゃんというか、どちらとも言えない役で、ジェンダーレスな役の方とお芝居をするのが僕は初めてだったんですけど、自然と受け入れられて、兄弟としてのつながりのようなものも感じられたんです。それは千葉さん自身が持っているその安心感みたいなものが大きかったのかな、と。

当時僕が高校生だったので、「大学に行こうと思っていて〜」みたいな話とか、千葉さんの経験談とかも教えてもらいました。

――現在、細田さんは19歳で、10代最後の夏を過ごしていますが、撮影時、上白石さんが10代最後の夏を、この作品とともに過ごしていたんですよね。

今、言われて「そうだ」と思いました(笑)。ただ間違いなく、今の僕よりも(当時の上白石の方が)背負っているものも、覚悟も含めて、どっしりされていた感じがします。

あのときに萌歌ちゃんから感じ取れたものを、今の自分が持てているか、と言われると、わからないですね。自分の方が子供に見えてしまうので、あまり照らし合わせたくはないです(苦笑)。

もうすぐ二十歳。10代に心残りはない

――細田さんは常に自分に足りないものについて考えているそうですが、本作を通して、自分に足りなかったもので、何か得たものはありますか?

萌歌ちゃんを見ていて、役に対する向き合い方や責任みたいなものが、自分には足りていなかったのかな、と思いました。当時の自分としては100%でやっていたつもりなんですけど、今、振り返ると本当にちゃんとできていたのかな? 向き合えていたのかな?という疑問が残るんです。

だから、しっかり役に対して向き合わなくてはいけない、ということを、この作品があったからこそ吸収できたと思います。

撮影中は、(上白石が)体を張って、ちゃんと役と向き合っていることを、頭で理解するというより、肌で感じていたんですけど、それが、完成作を観たときに、ようやく頭でも理解できた感じがしました。

僕、自分が出ている作品を観るときは、作品自体に集中しようと思っても、どうしても自分に視線が行ってしまって、反省ばかりになってしまうんです。でも今回は、そんな中でも(上白石の本作に対する)スタンスのようなものに気づきました。

――ことしの12月で二十歳を迎えますが、子供のうちにやっておきたいことはありますか?

10代のうちにやっておきたいことで、車の免許を取るというのがあったんですけど、それもこの間できたので、今は特に心残りはないです。逆に10代だからこそできることって何だろう?って考えます。でも、それに気付くのって、きっと30、40歳と年齢を重ねてからだとも思うんですよね。

――細田さん自身は、大人と子供の境界線はどこにあると思いますか?

正しいわがままが言えるか、普通のわがままになるか、というところですかね。大人になると、自分の思っていることが言えないとか、思っていても堪えなくてはいけない瞬間って、間違いなく子供のときよりも多くなると思うんです。

子供は何でも素直な反応をするからケンカになりやすいけど、大人になるとそういうことを知っていくから衝突を避けられるようにもなる。ただ、だからと言って、全部堪えることが良いことだ、とは、僕は思っていなくて。絶対に自分が正しい、と思うことは、言うべきだと思うんです。たとえそれが周囲からはわがままと捉えられることがあっても、そこに一本軸があれば。

だから、理由があるわがままを言えるのが大人で、駄々をこねるとか、理由のないわがままを言うのが子供なのかな、と思います。

――自分が大人だな、とか、逆に子供だな、と思うのはどんな瞬間ですか?

子供だなって思うところしかないですけど(笑)。それこそ、感情が顔に出やすいし、思ったことはすぐに口にしてしまうし。

周りからはわりと「大人だね」と言われることは多いんですけど、自分では実感できていないです。どこを見て「大人だね」って、言ってくださっているんだろう?と。まだまだ中身は全然子供です。

役者の仕事は自己満足。他人の意見や反響は気にし過ぎない

――先日、放送が終了したドラマ『ドラゴン桜』(TBS系)では、体重を増量して、髪型も坊主にして挑んだ健太役で、これまで以上に注目を集めることになりましたが、それを実感することはありますか?

僕個人に対してというより、作品に対する注目度がどんどん上がっていくのは感じていました。正直、最初にキャストが発表になったとき、生徒役に知らない子が多いからあまり惹かれないとか、否定的なコメントもあったんです。

でも、終わってみたらどうだろうか、って(笑)。前作もすごく面白かったけど、今作も面白かったでしょう、って。みんなで最初の評価をひっくり返すことができたのは、すごく嬉しかったです。

――とはいえ、細田さん自身に対する注目度も上がりましたよね。反響があれば、発信できることも増えるので、改めて、もっとこういうことや、こういう役もやってみたい、というようなことはないですか?

やってみたい役はわりと映画『町田くんの世界』(2019年公開)の頃から固まっていて、サイコパスな役をやってみたい、とは言い続けていますし、映画もドラマも舞台もなんでもやりたい、というスタンスも変わっていないので、特に変わったことはないです。

ただイベントとか、インスタライブとか、そういう場面での発言が、これまで以上に多くの人に見られているな、とは思うので、そこでの責任はあるとは思っています。

――周りの環境が変わっても、それで何か自分のスタンスが変わることはない、と。

はい。役者という仕事は、誰かの支えになりたい、とか、そういう想いを持ってやっている方も多いし、僕にもそういう想いもありますけど、結局は自己満足だな、とも思っているんです。

正直、エンタメや芸術って衣食住に必要ではないじゃないですか。だから、それでも(エンタメや芸術が)存在するのは、そこに理由があって、求める人にも理由あるというのも理解しつつ、他人の意見や反響は気にし過ぎないようにしています。


ご本人は演じたもじくんを「自分との共通点みたいなものがなかった」と言いますが、映画を観ていると「細田さん自身もこんな人なんじゃないか?」と感じる自然な演技で、ときにクスっと、ときにキュンと、そしてホロっとさせてくれます。高校生が主人公ではありますが、どんな世代の人の心にも届く物語となっているので、ぜひ劇場で。

スタイリスト/ 岡本健太郎、ヘアメイク/ 菅野綾香(ENISHI)

作品紹介

映画『子供はわかってあげない』
2021年8月20日(金)全国ロードショー