AIMの構造(画像: 東京大学の発表資料より)

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 多くの高齢の猫がかかる「慢性腎臓病」の治療法の開発によって、猫の寿命が2倍になるかもしれない。時事通信の報道によれば、東京大学の宮崎徹教授が発見したAIMというタンパク質が、その鍵を握っているという。東大の基金には多くの人々から寄付があったこという。猫を愛するたくさんの人々から期待されていることの現れだろう。人間の治療にも役立つ可能性があるというAIMについて、紹介したい。

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 腎臓は、体の老廃物と必要な栄養などを選別し、不要なものは尿と一緒に排出、必要なものは血液に戻す働きをしている。太い血管で腎臓へ運ばれた血液は非常に細い毛細血管の塊の部分で濾過される。腎臓にはその他にも、血圧を安定させたり、赤血球を作ったりするという大切な働きも持っている。

 この腎臓の毛細血管の部分が何らかの理由で壊れてしまうと、その部分はもう再生できない。それでも残りの腎臓がその働きをカバーする。だがダメージを受けた部分が増えていき、残りの腎臓だけでは十分に働けなくなった状態を、慢性腎臓病という。

 腎臓が壊れる原因は様々だ。ウイルス感染や薬、腎臓の中にできた結石、人間の場合は糖尿病によるダメージが腎臓病を引き起こすことは珍しくない。1度壊れてしまった腎臓を元に戻すことができないため治療法は「できるだけ今の状態を維持する」ことだ。そして腎臓の働きである老廃物を体外に捨てる手伝いを、薬や透析などで行なって生命を維持する。

 宮崎教授は最初、人の血液中からAIMを見つけたという。血液中にあるAIMは免疫グロブリン5量体という大きなタンパク質に結合している。そのままの状態では腎臓の中には入り込めないサイズだ。

 だが腎臓にゴミ詰まりなどの問題が起こると、AIMは免疫グロブリンから解き放たれ小さな分子として腎臓に入り込む。そして尿細管で詰まりを起こす原因となるゴミにAIMがくっつく。AIMは血液中の掃除屋であるマクロファージの目印となり、不要なゴミを食べて綺麗にしてくれる。このようにして通常腎臓はその機能を保っている。

 AIMについて犬や猫についても調べたところ、猫だけがAIMを持っていなかったという。猫は生まれつき腎臓の掃除ができないため腎臓が壊れやすく、腎臓病になりやすい生き物なのだ。そのため高齢になると慢性腎臓病にかかってしまうと考えられた。

 そこで猫にAIMを投与したところ、腎臓病の進行が抑えられた。今後、治験を経て実際の薬として AIM製剤を開発していくことが期待されるが、コロナの影響などもあり現在まだ目処が立っていないのだという。

 このような状況を知った人々から冒頭のように多くの寄付が行なわれた。治験のためにはお金以外にもクリアすべき多くのステップがあるのだろうが、猫を愛する人々からの後押しによって実現へ前進したことは間違い無いだろう。

 さらにこのAIMについては、人間の急性腎不全の治療に効果があるという研究結果が既に発表されている。腎臓病が悪化するかどうかは、人により持っているAIMの量が違うことも影響するという。またAIMが中性脂肪の蓄積を抑えてメタボリックシンドロームの進行を抑制したり、肝臓癌のがん細胞を掃除してくれるという研究結果も得られている。AIMは今後人の治療にも貢献していくことが期待できるだろう。

 ペットは今、家族と変わりない大切な存在だ。現在ペットの治療に使われる薬は人間に使われているものから利用されていることが多い。我が家のうさぎがお腹を壊した時に処方されたのも、人の胃腸薬であるプリンペランだった。当然人と動物で共通の効果を持つ薬は多い。だが近年、犬の抗がん剤が開発されたりしており、これからは動物のために治療薬が開発され、彼らの寿命やQOLが向上していくことに期待したい。

 さて、猫にはAIMがなかったと言ったが、実際は免疫グロブリン5量体からに結合した状態で存在していることがわかっている。だが他の動物のように離れることができない。そのため遊離したAIMが存在せず、腎臓の掃除ができないのだ。ところがドリアンから抽出した分子が猫のAIMを免疫グロブリン5量体から遊離させ、活性化することがわかってきた。現在この成分を猫のおやつなどとして開発中だという。

 猫が慢性腎臓病にかからなくなると、現在15年ほど寿命の猫たちが、2倍のおよそ30年ほど生きられるようになるという。これからの展開が楽しみだ。