「東大文1」の地位が揺らいでいる?

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「文系で日本最難関の大学・学部」というと、ひと昔前までは、東京大学の文1(文科1類)であることは衆目の一致するところでした。文1に入った学生の多くは法学部に進み、東大法学部からは多くの弁護士や検察官といった法曹関係者、官僚、政治家が生まれています。その「文系最難関」の地位が最近は揺らいでいるのです。

官僚の不人気など影響

 東大の一般選抜は学部別ではなく、科類別に行われています。文系は文科1〜3類、理系は理科1〜3類です。前期課程(1〜2年)では原則として科類別にクラスが編成され、外国語や情報処理、基礎講義などの教養教育が中心に行われます。その後、後期課程(3〜4年)で学部・学科に分かれ、本格的に専門分野を学びます。

 この「進学選択」制度(通称「進学振り分け」、略して「進振り」)により、多くの学生は3年時から、キャンパスも駒場から本郷に移ります。かつては、医学部医学科へ進学できるのは理科2〜3類のみといった制限がありましたが、2006年度の新入生が進級した2008年度から、人数の枠はあるものの、全科類から全学部に進学できるようになりました。

 そうした中、文1から法学部への進学者数が2021年度は348人にとどまり、前年度より6人減ったのです。法学部の入学定員は420人ですが、他学類からの進学者を合わせても定員割れを起こしています。なぜ、人気がないのかというと、法学部の人気が下がっているからです。

 法学部人気の低迷は2004年に開学した法科大学院に始まります。これは大きな制度改革で、法曹人材の増加を目指し、従来型の厳しい司法試験を乗り越えるのではなく、法科大学院に進学した後に新しい司法試験を受験し、司法試験の合格率を高くしていこうとの考えでした。

 これによって、法学部の学びから法曹育成に直結する側面が弱くなり、法学部の教育内容が受験生に見えにくくなりました。さらにこの頃から、日本のグローバル化が叫ばれるようになり、日本の法律を学ぶ法学部に受験生が「グローバル」のイメージを持てなかったことも理由です。

 この他に、東大ならではの理由もあります。官僚の地位の衰退です。2009年に政権交代を果たした民主党(当時)が行った事業仕分けが頻繁にテレビ中継されました。官僚が「予算が必要だ」と説明するところを政治家が一刀両断してやり込めるというか、反論できないよう追い込んでいくシーンの連続で、官僚の無力感が伝わるものでした。

 公務員は職業として、今も人気が高いことは確かですが、国家公務員の人気は低迷しています。それより、地方公務員の人気が高いのです。「政治家にあごで使われる国家公務員」のイメージに加え、「ブラック霞が関」ともいわれる長時間労働も今の若者には不評です。民間に就職した方が年収も高いことも、官僚が敬遠される理由でしょう。

 この法学部人気の下落が東大文1人気の陰りにつながり、今、代わって人気なのが文2です。文2は主に経済学部に進学します。

入試、就職での比較

 まずは、この2つの学類を入試で比較してみましょう。

 難易度は10年前の大手4模試では、文1が文2と同じなのが1社で、残り3社は文1が文2を上回っていました。それが今年の入試用の難易度を見ると、文1が文2を上回っているのは1社だけで、残り3社は文1と文2の難易度は同じでした。文2が難化しているのです。さらに、今年の一般選抜の合格最低点を見ても、文1の334.7778点に対し、文2は337.9222点と文2の方が高かったのです。

 就職はというと、昨年の就職者について、官僚は法学部が総務省7人を筆頭に35人で、経済学部は9人ですが、企業別の就職先は文1と文2で変わりはありません。文2が文1より入試で難化しており、就職でも大差なし。「文系日本最難関」が代わりつつあるといえそうです。