N-WGNにはあるのに…新型N-ONEがテレスコピック機構を採用できなかった理由

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販売は絶好調だけど…指摘されるのは「テレスコピックの不採用」
ボディパネルとガラスの形状がすべて先代から流用された新型N-ONE。その狙いはコストダウンも当然あるだろうが、最大の目的はN-ONEをオンリーワンの存在にする外形デザインにある。


●新型N-ONE オリジナル

1967年にホンダが初めて発売した軽乗用車「N360」をモチーフにし、時代を超えて幅広いユーザー層に愛され続ける「タイムレスデザイン」の確実な継承だ。


●N360(1967年)

まさに前代未聞のフルモデルチェンジ。だが、フタを開ければ、2020年11月20日の発売から1カ月の受注台数は、販売計画の4倍以上となる8000台超に達した。SNSの反応などを見ても、流用に対する否定的な意見はあまり見られない。まだデビュー間もないが、新型N-ONEの異次元キープコンセプトは市場でも好意的に受け止められ、好調なスタートをきったかたちだ。

【画像ギャラリー】新型N-ONEの内外装

一方、目立った指摘といえば、ステアリングを前後調整できるテレスコピック機構を採用しなかったこと。といっても、軽自動車でテレスコピックを設定する車種は皆無に近い。N-ONEでなぜクローズアップされるかといえば、前年にフルモデルチェンジしたN-WGNが、上下調整のチルト機構とともにテレスコピック(調整幅30mm)を全車標準装備しているからだ。


●N-WGN


●N-WGNはチルト/テレスコピック機構が全車標準装備だ

ドライビングポジションがしっくりくれば、ステアリング調整は別になくてもかまわない。しかし、身長175cmの筆者もポジションをとるとステアリングの位置が遠めで、テレスコピックが欲しくなる。新型はほかに欠点らしい欠点がないため、これが余計残念に感じられる。


●新型N-ONEでドライビングポジションを取ると、ステアリングが少し遠目になる

テレスコピック不採用には…外板パネル流用が関係していた!

N-WGNにはテレスコピックを付けて、N-ONEにはナゼ付けなかったのか!? 開発担当者を直撃すると、そのワケは意外なところにあった。

ボディの衝突安全性だ。

テレスコピックを搭載すると、衝突安全要件をクリアするために必要なボディの構造変更は、ボディパネル形状の刷新にまで及ぶことになるという。新型は先代のタイムレスデザインを守りきるため、テレスコピックの採用が見送られたのだ。

さらに具体的な説明は機密上の理由で受けられなかったが、ボディサイズに制約のある軽自動車では、もともと側面衝突の安全性確保がもっとも難しい。



しかも衝突試験は、平成30(2018)年度から車両に55km/hで衝突させる台車が質量アップ(950kg→1300kg)。2018年6月15日以降の新型車からは、電柱を模したポール側面衝突試験(普通車32km/h、軽自動車26km/h)が新たに適用されるなど、先代N-ONEが登場した2012年以降も厳しくなっている。

テレスコピックを付けると、外板が先代とまったく同じボディデザインでは、現行の衝突安全基準をクリアできなかったというわけ。側面衝突がおもな理由だとしたら、キーポイントになったのはセンターピラーの位置や形状だろうか。

ちなみに、現行の側面衝突基準を軽自動車で満たすには、さらにサイドエアバッグやカーテンエアバッグの装備も必須と言われるほど、ハードルが高い。実際、ホンダ車に限らず設計の比較的新しい軽自動車は、今やほとんどのグレードがその両方を標準装備している。

テレスコピックの非採用は、先代のボディパネルを流用した唯一のデメリットと言えるだろう。それを少しでも補うために、運転席・助手席は完全なセパレートタイプに一新。また運転席のスライド軌跡や角度を見直すなど、シート側の入念な改良でさまざまな体格に合うよう、ポジションの適応性が拡大されている。

新型N-ONEがテレスコピックを装備しなかったのは、コストダウンのためではない。その陰には、タイムレスデザインの継承とドライビングポジション改善のはざまで揺れる、開発陣の苦悩があったのだ。

〈文=戸田治宏〉