大野雄大

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 プロ野球の投手にとって最高の栄誉と言われるのが沢村賞だ。伝説の名投手である沢村栄治にちなんで1947年から制定されたものである。ちなみにメジャーリーグでも同様の意味合いでサイ・ヤング賞があるが、こちらは1956年に制定されたもので歴史は沢村賞の方が古い。沢村が巨人に所属していたことから当初はセ・リーグの投手から選ばれていたが、1989年以降は12球団の投手が対象となっている。

 今シーズンの候補となると、両リーグ最多となる14勝をマークした菅野智之(巨人)と両リーグトップの防御率1.82を誇る大野雄大(中日)が頭一つ抜けているという印象だ。野球ファンのなかには「菅野と大野の同時受賞がよいのではないか」という意見もある。最終的には選考委員会の審議によって決定されるが、果たしてどちらが沢村賞の栄誉に相応しいか、検討してみたい。

大野雄大

 沢村賞の最大の特徴は“先発完投型”の投手に贈られるというものだ。その参考となる選考基準は以下の7項目となっている。

登板試合数:25試合以上
完投試合数:10試合以上
勝利数:15勝以上
勝率:6割以上
投球回数:200回以上
奪三振数:150個以上
防御率:2.50以下

 この基準はあくまで参考であり、全てをクリアしないと受賞できないわけではない。さらに、今シーズンは新型コロナウイルスの影響でレギュラーシーズンが120試合に短縮となり、規定投球回数に達した投手の中で登板試合数、勝利数、投球回数、奪三振数の基準をクリアした投手は一人もいない状況となっている。このあたりの数字は、選考委員会でも当然考慮されるだろう。そのうえで菅野と大野の成績をこの基準で比較してみたところ、以下のような結果となった。

菅野智之

登板試合数:菅野20試合 大野20試合
完投試合数:菅野3試合 大野10試合
勝利数:菅野14勝 大野11勝
勝率:菅野.875 大野.647
投球回数:菅野137回1/3 大野148回2/3
奪三振数:菅野131個 大野148個
防御率:菅野1.97 大野1.82

 勝利数と勝率では菅野。完投試合数、投球回数、奪三振数、防御率では大野が上回る結果となった。これを見ると大野が一歩リードしているように見える。特に、ポイントが高いのが完投数だ。投手の分業制が進んだこともあり、2000年以降に沢村賞を受賞した投手でも、10完投をクリアしたのは松坂大輔(西武・2001年・12完投)、ダルビッシュ有(日本ハム・2007年・12完投)、涌井秀章(西武・2009年・11完投)、田中将大(楽天・2011年・14完投)、菅野智之(巨人・2018年・10完投)の5例しかいない。24勝0敗という圧倒的な成績を残した2013年の田中でも、完投数は8と基準に届いていないのだ。大野の10完投の価値がいかに高いかということがよく分かるだろう。

 一方で議論となりそうなのが、大野が劣っている勝利数と勝率についてだ。菅野は今シーズン開幕から無傷の13連勝をマーク。これは開幕投手を務めた選手としてはプロ野球初の大記録であり、シーズン初登板からの連勝記録でも堀内恒夫の球団記録に並ぶものである。その後、2敗は喫したものの、14勝は大野らが並ぶ2位タイの11勝と比べても、3つのリードは非常に大きい。また.875という勝率も2000年以降に受賞した投手の中では、前述した2013年の田中が記録した1.000に次ぐ数字となっている。この二つの基準においては菅野が大きなアドバンテージを持っていると言えそうだ。

 まさに、甲乙つけがたいハイレベルな争いであり、選考委員会でもかなり長時間の議論となることが予想される。過去には1966年の村山実(阪神)と堀内恒夫(巨人)、2003年の井川慶(阪神)と斉藤和巳(ダイエー)と二人の投手が同時に受賞した例もあるが、一人に絞るのであれば、やはり大野になるのではないだろうか。

 10完投ももちろんだが、6完封というのもなかなか見ない数字であり、まさに先発として最後まで投げ抜いて相手打線を圧倒した証明と言える。「先発完投型」という令和の時代には絶滅危惧種を対象とする賞の基準を見直すべきという議論もあるが、そんな時代遅れともいえる価値観を満たすような活躍を見せた大野には最大級の賛辞が送られてしかるべきだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月22日 掲載