映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』の新公開日が2021年6月25日(金)に決定。第33回東京国際映画祭でのトークショーにイシグロキョウヘイ監督が登壇した。

人とのコミュニケーションが苦手な俳句少年と、コンプレックスを隠すマスク少女。映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』は、何の変哲もない郊外のショッピングモールを舞台に出逢ったふたりが、言葉と音楽で距離を縮めていく、ボーイ・ミーツ・ガールStory。主人公のチェリー役に、初映画・初声優・初主演となる八代目 市川染五郎。ヒロインのスマイル役は、若手随一の確かな表現力で高い評価を受ける杉咲花が担当。山寺宏一、花江夏樹、梅原裕一郎、潘めぐみ、中島愛、諸星すみれらが脇を固める。監督を、「四月は君の嘘」「クジラの子らは砂上に歌う」などを手掛け、繊細で叙情的な演出に定評のあるアニメーション監督・イシグロキョウヘイが務める。

第33回東京国際映画祭ジャパニーズアニメーション部門での上映後、イシグロキョウヘイ監督と本部門のプログラミングアドバイザーである藤津亮太が登壇し、トークショーを行った。藤津から企画の発端を聞かれたイシグロ監督は「2015年の9月くらいにフライングドッグ経由でオリジナルアニメのお話をいただきました。その時から音楽ものというのは変わっていないのですが、元々はSFだったんです。どうしてこうなったかね(笑)」と笑いを誘いながら明かした。

物語の舞台はショッピングモールだが「僕らの世代で言うところの町の駅前の盛場として、今の人たちの幼少期の記憶の根幹にはショッピングモールというのはある気がするんですね。小さな箱庭の中で物語を進めようというのが、脚本の佐藤大さんとのブレストの中から生まれたアイデアです」とコメント。

本作を形作る大きな要素として、ショッピングモール、そして音楽(レコード)と俳句があり、それが非常にうまく噛み合っている、この3大要素をどのように組み合わせていったのかという藤津の問いに対し、イシグロ監督は「インスピレーション元が音楽であるということが大きいんです。俳句っていうのも、初めて日本語ラップを始めたいとうせいこうさんと俳人の金子兜太さんの対談本の中で、俳句と日本語ラップの関係性が語られていて、例えばライミングと韻を踏むとか。佐藤大さんから出たアイデアなんですけども、俳句には音楽的ルーツがあるということで作品に落とし込んでいきました」と明かした。

音楽的ルーツというのは、実は本作の背景美術のスタイルにもつながっている。「山下達郎さんの『FOR YOU』というアルバムジャケット。鈴木英人さんという80年代のポップカルチャーのアイコンのような絵を描かれている人が担当されているのですが、まさにそこが元ネタですね。作品の要素として音楽的なルーツを求めていたので、作品の中の美術のテイストを決める時に、シルエットを重視したイラストが僕自身の趣味嗜好の中にもずっと刺さっていて。ここは僕からの提案で「ヤマタツ、『FOR YOU』、この見た目でいきましょう!」と。まさにここからきていますね」と話す。

藤津は「当時は都会的というかアメリカ西海岸の空気感を描いていた絵で今の日本の郊外を描くというのがミソなのかなと」と語ると、イシグロ監督は「そうですね。要素の組み合わせなんですよね。鈴木英人さん調の絵で美術を描くということだけではなく、今の子にとってショッピングモールというのが幼少期の記憶と紐づいていることとの組み合わせ。地方都市を選んだというのもそういう理由です。田んぼ、巨大なハコ、遠くには山の稜線。これって決して西海岸・東海岸のアメリカの要素はないんですが、インスピレーション元を辿っていって、今の時代にはめるとこうなる。僕は、若者に向かって作っているつもりなので」と語った。

また、声優はチェリーを市川染五郎、スマイルを杉咲花が務めているが、「声優は2人以外のキャスティングも提案させてもらうことが多いんです。チェリー役のキャスティングは難航しました。スマイルがチェリーの声を『かわいい』というシーンがあるのですが、『かわいいってどういう意味だ?』と自分で思ってしまって。変声期と大人の中間くらいのひっくり返ってしまうような声かなと思うんですが、そうなるとその年齢に近い人をキャスティングしないといけない。この作品の配給は松竹さんにお願いすることが決まっていたので、『松竹さんと言えば歌舞伎だよな』と。彼は当時まだ松本金太郎という名跡で中学1年生くらいだったかな。染五郎くんの歌舞伎のお芝居を見にいく機会があって、彼の声を聞いた時に『いたぞ!チェリーいたぞ!』となりました。杉崎さんは逆にシナリオ段階からイメージにあったんですが、僕は深夜アニメ上がりの監督だったので、現実味がなかったんですね。ただ染五郎くんがチェリーをやってくれることになって、彼女にアタックしました。思い通りのキャスティングができましたね」と語った。

観客とのQ&Aでは、「コロナ禍で、映画館ではなく配信となる作品もある。制作において配信は意識していますか?」という質問が。イシグロ監督は「映画の場合は、劇場に足を運んで見ていただくので、音楽も含め大きなスクリーンでいい音で見ていただけることを意識して作っています。配信の場合はスマホやTVなど小さい画面、必ずしもいい音ではない環境だということを念頭において作っていますね」とコメント。

また、本作の新たな公開日が2021年6月25日(金)に決定したことがイシグロ監督の口から発表されると、場内からは拍手が起こった。イシグロ監督は「夏の映画なので、夏に見て欲しいんです」と嬉しそうに語った。

また、「フジヤマさんの掘り下げた裏設定などはあるのか?」と聞かれると、「作中の劇中歌を大貫妙子さんにお願いしたんですが、この歌を歌っているサクラさんが大貫さんとイコールになるんですね。フジヤマさんとサクラさんの関係性がないと書けないんです。なので、前日譚となるプロットを書いているんですが・・・実は僕、公開に向けてYoutuberデビューしまして。『サイコトちゃんねる』(https://www.youtube.com/channel/UCIhfdxWGaK9SDyzS_dLJogg)というのを立ち上げました。ゲストを呼ぶとかはこのコロナ禍なのでできないんですが、企画から撮影、MA、納品まで僕がやってるんですけど(笑)このプロットを朗読する回もあります。なので、皆さんが知りたい情報がアップされるかもしれません!」とYoutuberデビューも発表された。

映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』は2021年6月25日(金)より全国ロードショー

(C)2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

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