真心ブラザーズ

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真心ブラザーズが17枚目のオリジナル作品となるニューアルバム『Cheer』を10月14日にリリースする。

ここ数年は『FLOW ON THE CLOUD』、『INNER VOICE』とルーツロックへの探求心を感じさせる作品が続き、2019年には豪華ゲストを迎えたセルフカバーアルバム『トランタン』で結成30周年を祝った彼ら。マイペースで活動を続けるナイスミドルなベテラン・ミュージシャン…… になっていくのかと思いきや! 新作では、初登場で心の大ヒットナンバー第1位獲得まちがいなしの「炎」、真心マナーで2020年の世の中にメッセージする「不良」、「こんぷろマインズ」等々、これぞ真心節という珠玉の名曲たちがキラキラ、生き生きと並んでいる。YO-KINGが大きな声で歌い、桜井秀俊はギターを弾きまくる。もやもやした日常を晴れやかに、ご機嫌にしてくれる今作について、お2人に話を訊いた。

ー最新アルバム『Cheer』を何度も聴かせてもらいました。デビュー32年目にしてまた1つ名盤が生まれた! という感じじゃないですか。

桜井:はい、手前ながら実際そう思います。

YO-KING:僕はいつも通りかなあ(笑)。いつも通り良いものができたっていう感じで。ちょっと数年経たないと自己評価はわからないというか。

ー毎回アルバムが完成する度に感じる達成感と一緒?

YO-KING:一緒です。でも、そんなに達成感とかもなくて。なんでだろうって考えると、努力とか苦労をしてないから、達成感があんまりないんですよ。

桜井:ははははは(笑)。

YO-KING:「楽しかったなあ」というのはあるけど、「やっとできた〜!」みたいな感じはあんまりなくて。

ー”生みの苦しみ”みたいなものは……。

YO-KING:ないんですよねえ、17枚全部(笑)。1枚目とかあったのかなあ、いま思うと?

桜井:ないでしょ? だってスタジオでスーツ着て卒論書いてたもん。

YO-KING:いや、それよく言うけどさ、俺スーツ着たの1回だけだからね。

桜井:ああ、そう? よっぽど強烈だったのかも(笑)。

ーもともと就職するつもりだったんですか?

YO-KING:僕は就職するつもりはなかったです。してもすぐに辞めてたんじゃないかなあ。あの調子で就職しても失礼というか。遊んで暮らしたいと思っていたので。大学4年の4月に真心がテレビに出始めて(フジテレビ「パラダイスGoGo!!」のコーナー「勝抜きフォーク合戦」に出場)、9月にデビューしちゃったので、「これは親と世間に対して良い口実ができたぞ」ぐらいの感じで。だって、大学4年の9月の時点で就職も何も決まってないんだもん(笑)。

ーなるほど(笑)。かといって、「俺はミュージシャンになるぞ」みたいな感じでもなかったんですか?

YO-KING:う〜ん、「遊んで暮らしたい」とは思っていたんだけど、音楽ぐらいしかないかなあとは思ってた。でもなんか抜け道はあるんじゃないかと思っていて。村上春樹のエッセイで、「ベルトコンベアの社会が真ん中にあってその横にいろんな抜け道があるのが、よりよい社会なんじゃないか」っていうのを読んで、「そうだよなあ」と思って、どこかにその抜け道がないかなって探してたんだと思う。

ーつまり、その抜け道の先にこの『Cheer』もあるわけですか。

YO-KING:そうですね(笑)。

ー本当ですか(笑)。桜井さんは『Cheer』が完成した手応えってどんな感じでしょうか。


真心ブラザーズの最新アルバム『Cheer』のジャケット写真

桜井:もう、「きたきたきた〜」っていう感じですね。生みの苦しみとかっていうとまた別なんですけど、ソロ・アーティストじゃなくてバンドだからということもあって、1人が煮詰まろうが頑張ろうが調子良かろうが、全体的にはたいして関係がなくて。良い具合に、メンバー同士はもちろんのこと、関わっているミュージシャン、録音している録音技師や、ひいては制作に関わるスタッフのみなさんとの、なんか良いバイブスというか波長があって、「軽く振ったらホームラン」みたいな感じというか(笑)。力じゃなくて、重いバットを振ったから偉いとかそういうことでもなくて、上手い具合に振れてバーンと当たって「あ、これは入ったな」っていう感触が、マスタリングで通して聴いて良い音だなっていうのと、大きい音で聴いて全然疲れないところ、「ああ、全然もう一周いける」っていう感じで。そういう感触はたま〜にあるんですけど、それがきたっていう感じです。

ー何作かに1回巡ってくるような感じなんですか?

桜井:もちろん、どの作品も同じようにそのときできるベストを尽くして楽しくやってるんですけど、「俺の与り知らない何かが働いとるぞ!?」っていうのがありました(笑)。

ー2017年の『FLOW ON THE CLOUD』、2018年の『INNER VOICE』の雰囲気とはまったく変わりましたよね。前作までは、今はこういうルーツ・ミュージックが好きなんだなっていうのが伝わってきたんですけど、今回は真心ブラザーズとしか言いようのない曲、音になっている印象でした。昨年のセルフカバーアルバム『トランタン』で過去の曲をアレンジし直したことの影響もあるのでしょうか。

YO-KING:制作に入るときの気分がすごく大事で。今年の2月ぐらいから曲作りを開始したと思うんですけど、そのときにこういう音楽をやりたいなって思っていたんですよね。コロコロ変わるから(笑)。あの2作は、ルーツ系がずっと持続していた時期で、今はね、またスライ(スライ&ザ・ファミリー・ストーン)みたいなのをやりたいなと思ってますね。この前、細野(晴臣)さんのラジオを聴いてたら、『Fresh』(スライの1973年のアルバム)を新譜の時に聴いて現世に戻ってこれたって言ってて(笑)。それまで、高田繁さんと1920年代、30年代のレコード棚でバッタリ会うことがあって、「俺たち、このままでいいのか?」って言ってたんだって。

桜井:ははははは! 確かにそうだよね(笑)。

YO-KING:それで、『Fresh』を新譜で聴いてガーンときて、現世に戻ってこれたって言ってて。「ああ〜、『Fresh』かっこいいよね」って聴いたらやっぱりかっこよくて。今何度目かのスライブームが来てますね。

ーそうなると、ライブでも「STONE」が出てきそうな予感がしますね(笑)。

YO-KING:そうですね(笑)。「STONE」の間奏でスライのカバーやってるもんね。「Running Away」とか、ああいう乾いたファンクみたいなものが好きですね。

ー『Cheer』にも、ソウルフルでファンキーな「妄想力」という曲がありますね。

YO-KING:「妄想力」は、レッチリの初期みたいなイメージですね。ベースのフレージングはJB(JAMES BROWN)だけど、仕上げはもっとLAにいる白人の若造のファンクみたいな感じ。

ーそういうモードは、桜井さんも共有されていて制作に入ったわけですか。

桜井:じつはそういう提案はされていて、「歌もので明るいイメージなんだな」というのは受け取っていました。去年のツアー(『トランタン』リリースツアー)で、いつものLow Down Roulettes(伊藤大地(Dr)岡部晴彦(B))を含めて4つのバンドを組んでライブをやったときに、ものすごく楽しくて。やっぱり、それぞれサウンドが全然違うんですよね。サウンドが違うと、行きたくなる目的も違ってくる感じがとても楽しくて、それを全部遊びきれる真心ブラザーズも節操ないけどすげえなと思って(笑)。でもそこの楽しみもあるなって。ひょっとしたら、『KING OF ROCK』(1995年)の後の『I will Survive』(1998年)の方に行ったのも、そういう気持ちだったのかもしれないけど、気持ちの流れがあの頃と似ていたとしても、もっと上手に、それこそ軽く振ってもホームランを打てる腕はさすがについているので。そういう風に、去年のツアーでお世話になったミュージシャンたちと、あのときは自分たちのセルフカバーでやったけど、ツアーの完結として彼らと新曲をまたやりたいという思いはありました。それでYO-KINGさんの歌ものをやりたいという提案は渡りに船で、「OK、OK」っていう感じでした。

ーそうした中から「炎」も生まれたんですね。これはもう、リリースされる前から”ヒット曲”みたいなイメージなんじゃないでしょうか。

桜井:そうそう(笑)。”ヒット曲”っていうものがほぼ世の中にないっていうのが悲しいんですけど。70年代のディレクターとかが喜んでくれそうな。

ーコーラスにうつみようこさんを加えてレコーディングされたのもそういうイメージがあったからですか。

桜井:そうですね、はい。キーボードが奥野真哉だからね。ソウル・フラワー・ユニオンが2人いますから、濃いですよ(笑)。

ーいろんなミュージシャンと楽しそうにやっているという意味で、これだけキャリアを重ねても真心ブラザーズって本当に「永遠の軽音楽部」みたいな感じでいいなあって思います。

YO-KING:そうだねえ、確かに。

桜井:アマチュアですね、本当に(笑)。

YO-KING:新しい人と一緒にやるのも、自然に知り合うならいいんだけど、無理やり知り合おうとは思わないですね。今までやってきた中でかっこいい人たちをたくさん知っているので。でも新しい出会いも自然にあるのはあるし、そこはもちろんドアは開けていて。ただ、その新しい人と会うためには、今までの人たちとより濃くコミュニケーションした方が、なぜか新しい人と会うっていう不思議な感覚が、僕は人生に於いてありますね。

ー例えば最近は、どんな新しい方との出会いがありましたか。

YO-KING:ここ2、3年で言うと、又吉(直樹)君とか、あいみょんとかね。もし神様がいるんだとしたら、神様ってちょっとひねくれてて。新しい人と会いたいって言うと会わせてくれなくて、もう知り合ってる素敵な人たちと、「この人たちだけで一生遊べるわ」って遊んでいたらなんか新しい人と出会えるとか。そのSM感というか(笑)。そういうのは、これだけ生きてると感じますね。

ーあいみょんさんに感化されたりすることもあるわけですか。

YO-KING:あると思いますよ。もう、いろんな良いところを真似したい(笑)。

ー前に、YO-KINGさんが「クリエイターにとって飽きることはすごく大事なことだ」って言ってるのをどこかで読んだんですけど。

YO-KING:ああ〜、言ってましたね、それは。

ー飽きるからこそ、良い曲が生まれるのかなと。いろんな人から刺激を受けてそっちの方向に行ってみるとか。

YO-KING:そうですね。飽きたら次、飽きたら次、というのは、僕は普段の生活でも心がけているので。やるべきこととやりたいことをとにかくガンガンやっていこうというのは、日常で思っているんだけど、例えば本を読むとかレコードを聴くとかヨガをやるとか、家の周りを800mだけ走るとか、いろいろあるんですよ。

桜井:せめて1kmまで行けばいいのに(笑)。あと200m。

YO-KING:いや、800mって決めてるわけじゃなくて(笑)、結果的に800mぐらいじゃないかな? みたいな。家の周りを3ブロックぐらい、歩くと走るの間の、やや走り気味ぐらいの感じで(笑)。

桜井:”ちょっと急いでる人”みたいな。

ー自分に負荷をかけない程度にやる、と。

YO-KING:そうそう。その日いろいろやることに影響が出ない程度に走ってます。それもやっぱり、3kmも走っちゃうともう飽きちゃって「明日はいいや」って思っちゃうタイプだから。自分のタイプをよくわかってるんですよ。ちょっとずついろいろやるのが好きで、そのちょっとずつのサイズが自分に合っていたら、10年、20年、30年、40年、やり続けるの。ず〜っと泳いでるし。だから、「自分が楽しいと思える量」を見極めるって大事ですよね。

ーじゃあ、音楽も自分が楽しいと思える量でやってきたということですか?

YO-KING:その通りですね。音楽はそんなに過剰にのめり込むこともなく、ずっと離れてしまうこともなく。さっき達成感があんまりないって言ったのは、俺は感情のふり幅がそんなにないんですよ。常に「ちょい機嫌がいい」がずっと続いてるだけで、めちゃめちゃ落ち込んだりとか、めちゃめちゃ最高! っていうことがあんまりなくて。そういう意味ではつまんないといえばつまんない人生なんだけど(笑)。でも常に機嫌よく、楽しくやっているので、そこがみんな仕事がしやすいと思うし、お客さんもそこの安定性がわかってると思うんだよね。俺が出てきて、機嫌が悪くて途中で帰っちゃいましたとかいうことは、まずないから(笑)。若い頃はステージで悪態をつくことはあったけど、なんか突然泣き出しちゃうとかはないからね。

ー先日行われた生配信ライブ「Cheer up!002」は短い時間ながらギュッと凝縮されていて素晴らしいライブでしたし、おふたりともすごくご機嫌にライブを楽しんでいる様子でした。

桜井:ははははは。楽しかったですよ。

YO-KING:うん、楽しかったね。

ーニューアルバムから全曲を演奏するセットリストというのは初めての試みだったんですか?

桜井:そうですね。やっぱり、「「サマーヌード」やらなくていいのかなあ?」って思っちゃうんですよね(笑)。

ーすでにアレンジも若干変わっている曲もあったようですが。

桜井:まあ、そこまでは変わっているわけではないですけど、「この曲はCDの感じとは違う方へ動こうとしてるな」っていうのは、いろいろ感じながらやってました。「不良」とかは、CDだとイントロが短いですけど、配信ライブのときはイントロがCDより8小節長くて。リハではもっと長くてなかなか歌いださなくて、ギターソロとか弾き始めちゃって。これは映像スタッフが「聞いてるサイズと違うぞ?」って思わないかなって(笑)。でも、そういう気分で尺やノリが変わったりしそうだぞっていうのは、「不良」に感じました。

ー「不良」は ”ぼくらはもっと正しくなくていいよ”という歌詞にあるように、今のご時世を反映した内容が印象的です。

YO-KING:今の時期だからこそできた曲というのは間違いないですね。みんなそれぞれ考えたとは思うけど。俺は自分の外、取り巻く世界のことも考えたけど、「あ、自分はこういう人間なんだ」というのが改めてわかったというか。人のことをあんまり気にしないんだけど、何かをやるなと言われるとすごく嫌なんだなあって(笑)。やっぱり自由が好きなんだなって。

ー最近は少しずつ行われるようになりましたけど、ライブをやってはならぬ、という状況だったわけじゃないですか? それに関してお2人はどんな感情を抱いていたんですか。

桜井:まあ、事ここに至っては、致し方がないという感じで。それは、「けしからん音楽はやってはいかん」って御上が押し付けるというわけでもないから、つまんないといえばつまんないけど仕方ないというか。

ーそういう事柄に対するメッセージを、激しい曲で訴えるんじゃなくて、「不良」みたいに抒情的な曲調とアレンジで伝えるところが真心ブラザーズの真骨頂という気がします。だからこそ胸に響くというか。

桜井:うん、そこですよね。

YO-KING:そうね。あと、耳にツーンと来るギターの音が、もう耳年齢的にきつくなってきていて(笑)。カーテンのようにストロークで埋めるようなギターの音はもう、どんなに曲が良くても「うわっ」と思ってすぐ飛ばしちゃうようになっちゃった。

ー音数をどんどん少なくしていこう、という感じになっている?

YO-KING:それが今の好みなんですよね。たぶん、そこに関しては変わらないんじゃいかなあ。耳の体力の問題だから。

ー身体的に無理(笑)。

YO-KING:そう(笑)たまにレコード屋に行って、そっち系の音がかかってると「うわーきつい!」って思う。

桜井:Aメロがやたら静かでさ、サビになったらすごいことになるんだろうなって思ってると「うわ〜きた!」みたいな(笑)。もうやめてよ〜って。

ーそうなったのはここ数年の話なんですか?

YO-KING:いや、もう10年以上は経ってるかなあ。俺の中で最後にそういう音楽を聴いたのはRage Against the Machineだと思うから、97、8年ぐらい?

桜井:全盛期だね。

YO-KING:あと、Beastie Boysのバンドサウンドの「Sabotage」とか、The Jon Spencer Blues Explosionとかね。

桜井:でもあの辺の人たちはローファイだから、そんなにハイがきつくないでしょ。今は性能が良いギターとアンプでビョーンってデジタルでくるからさ。

YO-KING:「キリキリキリー!」ってくるもんね(笑)。

ーそれもあって、アナログの質感で音を作っていたということなんですね。

YO-KING:そうだと思いますよ。自分の耳に優しい音、ずっと聴ける音にしたいというか。

ー7月にリリースした「天空パレード」もかなり音数が少ないなと思いました。よい意味でスカスカというか。

YO-KING:そうだった?(笑) そういうのを聴いているから、自分の中でそれが普通になっちゃってるんですよね。Bob Dylanの『John Wesley Harding』(1967年)とか『Nashville Skyline』(1969年)を最初に聴いたときはびっくりしましたけどね。でも、好きで何度も聴いていてあれが基準になっちゃうと、スカスカになっていって、その音楽のスカスカの部分から匂いがしてくる。

ー行間を読む、みたいなことでしょうか?

YO-KING:ああ〜そうですね。それはもしかしたら、ジャケットの匂いかもしれないし、ピックの匂い、弦の匂い、スタジオの匂いかもしれないけど。もちろんそれは幻想なんだけども、”幻の匂い”がしてくるというか。耳で聴くんだけど、鼻でも聴くようになってくるというか(笑)。

ー鼻で聴くようになるってすごい境地ですね(笑)。

YO-KING:だから、レコードだとその魔法がかかるんです。やっぱりカビ臭くて匂うんですよね。あれが好きで。その匂いを嗅いだ状態で『Nashville Skyline』を聴く。それであれだけスカスカだと、そのスペースが匂いで満たされていくというか。いろいろと楽器が入ってみっちみちに音楽が入っちゃうと、その匂いが忍び込む余地がない。

ーだから敢えて空間を空けているわけですね。

YO-KING:そうです。あと、その分スペースがあるから、1つ1つの楽器の音が大きく録れるというか。サッカーで言うと、スペースがあると前にボールを出して、うわ〜って走らせることができるじゃないですか?ないとそういうルーズボールが出せないから。

ー配信ライブでは、アルバムで桜井さん唯一の歌唱曲「こんぷろマインズ」を”問題作”とおっしゃってましたね。

桜井:ああ、あれはバイオリンが下手だっていうことなんですけど(笑)。あの曲には、歌の内容もそうなんですけど、普通にかっこよく演奏することを許さない何かがあって。得意なことで体裁を立てたら成り立たなくなっちゃうような曲なんですよね。どこかでズッコケてないといけないというか。

ーそこが、”ハロー妥協 愛の度量”っていう歌詞と結びついてるということですか。

桜井:そうかもしれないですね。妥協ゼロの音源をこの曲で作ってどうするんだっていう(笑)。ただ、この曲を書こうとした動機の部分に関しては、YO-KINGさんが書いた「不良」に近いものがあったと思うんです。「そんなにちゃんとしようとしなくても。正しいけどさ、それって面白い?」みたいな思いが、僕の場合はこういう風に出たという感じですね。

ーきっと、SNSで目にしたようなことからインスパイアされることもありますよね。

桜井:それももちろん1つの要素ではありますけど。なんとなく、学校のクラスで言うと委員長の力が強い時代な気がして。でも言ってることは正論だから、「あ、そうですよね」って。「先生に言うよ?」って言われたら嫌だし、「はーい」っていう。でも前に戻りゃあしないし、さあどうやって遊ぼうかっていう。答えは示していないですけど、「そんな気持ちで始めない?」という提案は曲でしたということかな。

ー今作のそうした表現の仕方を聴いていて個人的に感じたことなんですけど、僕は1999年のアルバム『GOOD TIMES』を聴いて当時すごく感化されまして。シングルでもリリースされた「サティスファクション」で歌われている ”不満はダサイ” という歌詞に衝撃を受けたんですよ。「ロックって不平不満を歌うものじゃなかったのか!?」って。

桜井:ははははは(笑)。

YO-KING:うれしいなあ〜、それは。そこに衝撃を受けさせたかったんだけど、いまいち響かずに終わったと思ってたから(笑)。

ーめちゃくちゃ響いてますよ。それで今回『Cheer』を聴いていて感じたのが、真心ブラザーズの根底には ”不満はダサイ” がず〜っとあるんだろうなっていうことなんです。

YO-KING:うん、それはそう思ってますよ、いまだに、”不満はダサイ”って。どこにフォーカスするかっていうのはすごく大事なことで、不満なAという出来事に対してずっと考えるか、すごく満足で楽しかったBという出来事のことを考え続けるかで、その後がだいぶ変わってきちゃうんですよ。もちろん俺も人間だから、1から100まで不満がないわけじゃないんだけど、そっちに大事な人生の資産という時間とかお金を注ぎ込んでも本当に無駄じゃないかと思っていて。だったら楽しかったこと、うれしかったこと、幸せだったことの方を考えたり、これからもそういう気持ちになりたい予定を立てるとか。せっかく生まれてきたのなら、そっちで満たしていく方が得だなと思ってるんですよね。だから、俺はもはや”不満はダサイ”は越えてます。当然のことで。

ー桜井さんはいかがですか? 「こんぷろマインズ」もそういう思いがベースにあるからこそできているんじゃないかと思うのですが。不平不満に対する音楽表現の向かい方ってどう考えていますか。

桜井:それはすごくむずかしいですけど、やっぱり子どものわがままとかオヤジの愚痴になっちゃうと、エンターテイメント、表現にならないですよね。亡きナンシー関の文章とか、時空を超えて他の追随を許さない面白さで。ああいうことができたら最高ですよね。できない件に関しては、不満に関する曲は書かない方が。だ〜れも得しないから(笑)。「ちょっとストレスっすよね〜、どうしたもんかな」ぐらいのことは話題にしたいんだけど、後味はスカッとしたいという思いはあるので。

ー不満というか、誰かに猛烈にジェラシーを感じて苦しむ、みたいな経験ってこれまでなかったですか?エンターテイメントの世界にはつきものな気がしますけど。

YO-KING:俺はないです。

桜井:俺もないです、それは。

ーこちらも「ないだろうなあ」と思って聞いてはいるんですけど(笑)。

YO-KING:「そうだろうなあ」と思って答えたんだよね、俺も(笑)。

桜井:「もっと持て!」って怒られるぐらい、たぶんないと思う(笑)。

YO-KING:すごいなあ、いいなあと思う人はいくらでもいるんだけど、「ああなりたい」という人はいないんですよね。その人に負けないぐらい楽しく生きているという自信があるんですよね。その人がどのぐらい楽しいかわからないから、勝ってるかはわからないけど、ただ俺の方が楽しいんじゃないかなって(笑)。

ーあの人は楽しそうだけど、それに比べて自分は…… みたいにならないという。

YO-KING:ならない。作品を聴いて「かっこいいなあ」と思ったとしても、「でもこの人より俺の方が楽しいんだろうな」とか、変換しちゃってるのかもね。いくらそういう音楽を作りたいと思っても自分にできないものはできないし、あちらも俺のような音楽はできないと思うし。あとは売れてるか売れてないかの違いはあると思うし、そういう羨ましさとかはあるけど。本当の、表現者としてのジェラシーというのはないですね。

ーそれは、良い作品を作り続けてきた自信があるからですよね。

桜井:はい、それはもちろん。

YO-KING:自信はあるなあ、なぜか。

ー配信ライブでも、後半の「炎」でステージのせり出しで桜井さんがギターソロを延々と弾いている姿は自信に満ち溢れたロックスター然としていてかっこよかったです。

YO-KING:ははははは(笑)。

桜井:ありがとうございます(笑)。

ー弾きまくっていてKeith Richardsっぽいフレーズが出てきたり、今はそういうロックギタリストなモードでもあるのかなって。

桜井:キースのフレーズも入れてるんですけど、自粛期間中に暇だったからギターをよく弾いたんですよ。それでEric Claptonとか色んなギタリストをコピーして。その期間に気に入った数々の名ギタリストのフレーズが大集合の40小節になってるんです。

ー「悪魔を憐れむ歌」(The Rolling Stones)のフレーズとかが出てきますよね。

桜井:ああ〜、そうそう。ほかにも、ド頭の”キャ〜ン”はJeff Beckの「哀しみの恋人達」から持ってきてます(笑)。

ー「サンセットハンター」でアルバムが終わるのがとても余韻があっていいなと思いました。今回、夕日の曲「サンセットハンター」をYO-KINGさんが書いていて、桜井さんが「朝日の坂を」を書いてますよね。これは偶然なんですか?

桜井:これは偶然です。全部作り終わって、オフィシャルインタビューをしてくれたライターの人に指摘されて、そこで初めて気付きました。

YO-KING:本当にたまたま。あと、「炎」と「水」(「緑に水」)もあるでしょ? これも後で気付いた(笑)。

桜井:「朝日」「夕日」に気付いて、そう言われるとこれもあるぞって。

ーなるほど、そう考えると「ビギン!」と「パッチワーク」も新品と中古みたいな関係に思えてきました。

YO-KING:なるほど〜。

桜井:それ、どっかで言っていいですか(笑)。

ーお願いします(笑)。ところで、初回限定盤付属DVDには、「本作に惜しくも漏れてしまった、それぞれお気に入り楽曲の弾き語り演奏と、制作ポイントを楽しく解説した『Out of Cheer』を収録」とありますが、これはどういうことでしょうか。

桜井:ボツ曲は2兆曲ぐらいあるんですけど(笑)、その中で各々1曲ずつ惜しくも漏れた曲の動画を撮ってDVDに入れてます。

ー新作が出るときに同時にそういう曲を出すアーティストも珍しいですよね(笑)。

YO-KING:ははははは(笑)。

桜井:僕は個人的に、「もうすぐトップテン」とか「今週のスポットライト」のコーナーって好きだったんですよね。「良い曲なんだけど、これベストテンには入らないんだ?」って子ども心に思うのがすごく好きなんです。敢えて完成形にせずアルバムに入れていない理由は実際にDVDをご覧ください。

ー「炎」のMVショートバージョンが公開されていますが、この時点でおふたりはダンスを見ているだけですが、あれはその後踊りだすのでしょうか?

桜井:踊らないです。じっと見守るだけで。

YO-KING:無理無理、あんなの踊れないですよ。

ーああ、そうなんですか。これから踊るからショートバージョンで終わってるものだと思って見てました。

YO-KING:ああ〜、なるほどね。

桜井:そうか、じゃあ「踊らんのか〜い!」って突っ込みが聞こえてきそう(笑)。

ーYO-KINGさんが自転車をバーッと放り出して……。

桜井:ははははは(笑)。

YO-KING:踊りだすの(笑) ? いやあ俺ね、カーリングシトーンズで踊る曲があって、人にものを習うのが苦手だっていうのがすごくわかったんだよね。だから、練習とかしないでその場で(「炎」で踊ってる)目の前のあの子たちが踊ってるのを真似してくださいって言われたらやるけど、あの動きを今日明日2時間ずつ練習しますって言われたら、「勘弁してください!」って言う(笑)。人に教わってもまったく覚えられないし入ってこない。そこは「ああ、俺ってこんな人間だったんだ」ってだんだんわかりますよね。結局自分で学んだことしか入ってこないんだなって。

ー11月1日(日)に東京・品川インターシティホールでワンマンライブ「Cheer up! 003」が11ヶ月ぶりの有観客ワンマンとして開催されますね。着席での弾き語りスタイルとのことですが、どんなライブを考えてますか。

桜井:弾き語りをして楽しくしゃべって、まあいつも通りですね(笑)。

ーでは最後に、このアルバムを『Cheer』と名付けた理由を教えてください。

YO-KING:この特別な2020年前半のいろんな措置でちょっと社会がギスギスイライラしている感じがあったので、「機嫌よく」というのを英語でなんて言うんだろう? って調べたら『Cheer』がヒットして。「応援する」「頑張れ」とかって意味も含めて、良いかなと思って『Cheer』というタイトルにしました。

ーなるほど。今日は自分が長年想像していた真心ブラザーズ像と一致したというか、「やっぱりこうなんだ」と思える部分が多かったです。

YO-KING・桜井:ははははは(笑)。

YO-KING:ステージとか、まるっきりギアチェンジしてやってるわけではないので。あくまでも、日常の延長でちょっとキャラもアンプを通しているぐらいな感じだから。まあ、だから長くやれているというのはあるんでしょうね。

<リリース情報>



真心ブラザーズ
アルバム『Cheer』

発売日:2020年10月14日(水)リリース
【初回限定盤】(CD+DVD+GOODS):5000円(税抜)
【通常盤】CDのみ:3000円(税抜)

=収録内容(全形態共通)=※【】内は参加ミュージシャン
1. パッチワーク【岡部晴彦、伊藤大地、首藤晃志】
2. 炎【岡部晴彦、伊藤大地、奥野真哉、うつみようこ】
3. かっこいいだろ【グレートマエカワ(FLOWER COMPANYZ)、サンコンJr.(ウルフルズ)】
4. 不良【グレートマエカワ(FLOWER COMPANYZ)、サンコンJr.(ウルフルズ)】
5. こんぷろマインズ【岡部晴彦、伊藤大地】
6. ビギン!【川上つよし、茂木欣一、沖 祐市(東京スカパラダイスオーケストラ)】】
7. 朝日の坂を【岡部晴彦、伊藤大地】
8. 妄想力【岡部晴彦、伊藤大地】
9. 緑に水【岡部晴彦、伊藤大地、奥野真哉】
10. サンセットハンター【岡部晴彦、伊藤大地】

=初回限定盤付属 VD収録内容=
1. 炎(MV)
2. 天空パレード(MV)

1. 妄想力(スタジオライブ)
2. パッチワーク(スタジオライブ)
3. 炎(スタジオライブ)

3 Talk & Acoustic Live『Out of Cheer』
*惜しくもアルバムに収録されなかった、それぞれの楽曲の弾き語り演奏と、
推しポイントを楽しくトークします。

・初回限定盤付属 GOODS
オリジナル・キャラクター「チア子さん」特製グッズ