■派遣分野で続く慢性的人手不足

新型コロナウイルスの感染拡大で経済活動が停滞し、人材業界も急激な落ち込みを見せました。日本生産技能労務協会の発表する調査結果によると、人材の不足感を示す指数が23となっており、2019年末調査時の数値78と比べ、大幅に低下しています。コロナショック以前の水準に戻るのは早くても2021年初旬になるでしょう。

写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

今回特に落ち込みが顕著だったのは広告求人、人材紹介を行うリクルーティングの分野です。求人広告の掲載の取りやめや、仲介手数料を企業側が絞ったことで案件獲得が難しくなっているのが主な要因です。

それに比べて、落ち込み幅が少なかったのが人材派遣、スタッフィングの分野です。大きく落ち込んだリーマンショック時の市場変化を見ても、翌年には製造派遣はいち早く回復を見せており、今回も早期回復が見込めます。

ですが人材派遣の分野では、コロナショック前からの慢性的な人材不足が続いています。

■多くの業種では人手不足は続く

リーマンショック前の07年は有効求人倍率が1.04倍でしたが、09年には0.47倍まで下がりました。しかし、今回のコロナショックの前は人材市場が活況を呈しており、有効求人倍率は過去最高の1.6倍前後を推移しています。それを鑑みると、今回のコロナショックで小売りや外食など直接的な打撃を受けている企業は多いものの、ほかの多くの業種では人手不足は続くため、まだまだ堅調に伸びると見ています。特にエンジニア派遣に関しては、多くの業種でデジタル化を急ぐ機運が高まっており、ほぼコロナの影響を受けずに推移しています。

もう1つ人材派遣の分野で注目しているのが、働き方改革への対応です。労働派遣法の改正や、同一労働同一賃金などの一連の働き方改革への対応が求められており、クライアントの企業側は派遣元企業への対応を強めています。コンプライアンスリスクの観点から委託企業先を絞り、派遣事業者の集約化が進むことが推定されます。もともと人材派遣の分野は、トップの企業でも市場シェアが5%前後と参入企業が多い分野ですが、今後は製造派遣に強いUTグループやエンジニア派遣のテクノプロ、メイテックなどの上位企業に集約が進むと見ています。

コロナショックの影響で20年4月に解禁予定だった新卒採用の分野にも大きな変化が起こっており、20年は就活のオンライン化が進むなど、採用活動の手法に大きな変化が起こっています。企業側の採用人数も減少傾向にあり、市場全体への悪影響は避けられません。

一方で、今回のコロナショックは新卒一括採用から、新卒の通年採用への大きな変化の契機になるともいえます。経団連の中西宏明会長が「新卒一括採用の見直し」について言及したり、トヨタ自動車の豊田章男社長が「今後終身雇用の継続は難しい」と発言するなど、懸念を示していた採用・雇用の在り方が一気に前進するかもしれません。

また若手・20代の就職・転職市場で注目を集めているのが、学情が運営する「Re就活」です。同社は新卒採用向けのイベントを中心に売り上げを拡大し、大きな注目を集めています。

人材市場においてコロナショックの影響は、よい変化へのスタート地点になるかもしれません。

(三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト 新井 勝己 構成=プレジデント編集部)