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タント、Nボックスの背中が遠い

text:Kenji Momota(桃田健史)

このところ、ダイハツ・タントの販売が安定しない。

現行タントは、フルモデルチェンジから約1年が経つ。

ダイハツ・タント    佐藤正勝

発売開始時点での月間販売目標台数は1万2500台だった。これに対して、発売後約1か月時点で累計受注台数は約3万7000台と順調な滑り出しだった。

2019年7月から月を追って、タントの販売台数を見ると、7月(1万4520台)、8月(1万6838台)、9月(2万1858台)、10月(1万1071台)、11月(2万1096台)、12月(8081台)、20年1月(1万2332台)、2月(1万4496台)、3月(1万7370台)、4月(8295台)、5月(2497台)、6月(7263台)と続く。

19年9月〜11月は、10月の消費税アップによる駆け込み需要とその反動。

続く12月はライバルNボックスの半分程度まで落ち込み。

年が明けて、販売店も奮起して年度末商戦を闘い、月販目標越えを維持した。

4月〜5月は新型コロナウイルス感染拡大による製造と販売現場への影響が出ることは致し方ないが、6月に入っても売上げの戻りが鈍いのが少し気になる。

タントといえば軽の定番商品

タントといえば、スーパーハイトワゴンという分野を切り開いた、軽の定番商品である。

筆者の親族が歴代タントを乗り継いでいたこともあり、ダイハツ販売店を通じてタントを身近なクルマとして接してきたのだが……。

タントはこれから、どうなっていくのだろうか?

軽の販売実績 年度単位で俯瞰してみる

タントのいまを考える上で、軽の販売推移の年度単位で振り返ってみよう。

以下、年度別にモデル別トップ3と、タントが4位になった(11年、12年、17年)の各モデル販売台数だ。

2007年度

ワゴンR(22万台)、ムーヴ(20万台)、▼タント(11万台)

2008年度

ワゴンR(21万台)、ムーヴ(19万台)、▼タント(16万台)

2009年度

ワゴンR(19万台)、ムーヴ(16万台)、▼タント(16万台)

2010年度

ワゴンR(18万台)、▼タント(17万台)、ムーヴ(14万台)

2011年度

ワゴンR(17万台)、ミラ(17万台)、ムーヴ(14万台)、▼タント(14万台)

2012年度

Nボックス(24万台)、ワゴンR(20万台)、ミラ(19万台)、▼タント(16万台)

2013年度

Nボックス(23万台)、ムーヴ(19万台)、▼タント(18万台)

2014年度

▼タント(21万台)、Nボックス(19万台)、デイズ(17万台)

2015年度

Nボックス(17万台)、▼タント(16万台)、デイズ(14万台)

2016年度

Nボックス(19万台)、▼タント(15万台)、ムーヴ(12万台)

2017年度

Nボックス(22万台)、ムーヴ(15万台)、デイズ(14万台)、▼タント(13万台)

2018年度

Nボックス(24万台)、スペーシア(16万台)、▼タント(14万台)

2019年度

Nボックス(25万台)、▼タント(17万台)、スペーシア(16万台)

こうした軽全体の販売実績を俯瞰すると、改めて軽のトレンドの移り変わりがわかる。

詳しく見ていこう。

ワゴンR→ムーヴ 軽のトレンド変化

タントが誕生したのは、2000年代前半。

この頃、軽市場はワゴンRやムーヴが軽の定番だった。これらは、トールワゴンと呼ばれた。

スズキ・ワゴンR(1993年)    スズキ

そのワゴンRが生まれたのは、タントの10年前の90年代前半だ。

当時スズキのデザイン担当部署に所属していた人物に、後年になって話を聞いたが「ワゴンRは男性客を強く意識して企画した」という。

その背景にあるのが、ワゴンRが生まれる、14年前に登場したアルトの影響だ。

アルトは、軽自動車=商用車のイメージを刷新するため、当時女性の社会進出が進んできたことから、女性も気軽に乗れる低価格車として企画され大成功となる。

そうした女性ユーザー優先イメージを打破しようとしたのがワゴンRだった。

ワゴンRを追って登場したムーヴ。両車はモデルチェンジを進め成熟していく。

その中で、今度はダイハツがトレンドメーカーとなるべる打ち出した企画が、トールワゴンよりさらに車高が高く車内空間を一気に広げた、軽ミニバンのようなタントだった。

それでも、前出の年度別売上げでわかるように、2000年代後半までの軽の主流はあくまでもトールワゴン。

タントは、スズキがライバルとしてスズキが送り込んだパレットに比べて良く売れる、トールワゴンの派生車というイメージが残っていた。

そこに、Nボックスが登場する。

ホンダと違い、ダイハツは総力戦体制

2020年度1〜6月で、Nボックス(10万1454台)、スペーシア(6万5323台)、そしてタント(6万2253万台)という結果だ。

こうした状況について、軽自動車業界の一般論としては「ホンダはモデルラインナップが少なく、需要がNボックスに集中している」という指摘がある。

ホンダNボックス

確かに、ホンダの乗用軽は、Nボックス、Nワン、Nワゴン、S660の4モデルのみ。2020年度1〜6月合計は13万7967台。Nボックスは乗用軽の73%を占める。

一方のダイハツは、ミラ、コペン、ムーヴ、タント、アトレー、ウェイク、キャスト、そして新加入のタフトを含めて8モデルとホンダの2倍。

2020年1〜6月合計は、17万5649台で、このうちタントは35%にとどまる。

さらに、商用軽トラックでは、ダイハツがハイゼットでシェアトップを安定して維持。一方のホンダは、アクティの2021年モデル廃止が確定しているが、後継モデルについて具体的な計画は未発表である。

こうした、ダイハツの軽に対する総力戦体制のなかで、タントはしっかりと役目を果たしているといえる。

とはいえ、軽市場での中核であるスーパーハイトワゴンにおいて、Nボックスはタントにとってガチンコライバルであることは間違いない。

今後、タントの個性を生かした特別仕様車の登場や、マイナーチェンジに期待したい。