アメリカでは、ゲームソフトの価格は2005年頃から60ドル(約6400円)と設定されていました。しかし、2020年末に発売される予定のPlayStation 5やXbox Series X向けにリリースされるゲームソフトの価格はこれまでのものより高くなると報じられており、ゲーム系メディアのPolygonがその原因と影響について解説しています。

The $70 video game is inevitable, but it’s not all bad news - Polygon

https://www.polygon.com/2020/7/7/21314545/console-video-game-price-increase-70-video-game-ps5-xbox-series-x

ゲームパブリッシャーの2K Sportsは、NBA 2K21のPlayStation 5版とXbox Series X版の価格を59.99ドル(約6400円)から69.99ドル(約7500円)に引き上げると発表しました。Polygonは、「次世代機向けゲームの制作コストはほぼ間違いなく高くなっています」と指摘しています。

実際、ゲームデザイナーのRaph Koster氏の調査では、ゲームの制作コストは年々増加の傾向にあることが示されています。



一方でPolygonは「次世代機向けゲームの制作コストが高くなってしまうことはそれほど悪いことばかりではありません」と語っています。

そもそもゲームはクリアまで遊べば数時間、あるいは数十時間も楽しむことができるコンテンツ。60ドル(約6400円)で20時間遊ぶことができるゲームは、時間あたりのコストで考えれば映画よりもお得であり、60ドルが70ドル(約7500円)に値上げしたところで経済性はほとんど変わらないとPolygonは指摘しています。

また、ゲームのグラフィックやオンラインで遊べるマルチプレイヤーモードなど、機能と密度は過去15年で格段に上がっていることから、結果として消費者にとってゲームは安価になっているとPolygonは主張しています。



ゲーム関連の調査企業・IDC Consultingのヨシオ・オオサキCEOによれば、2005年におけるAAAタイトルの開発費は2500万ドル(約27億円)〜3500万ドル(約38億円)だったのが、2020年では7500万ドル(約80億円)〜1億ドル(約107億円)にまでコストが膨らんでいるとのこと。さらにスタジオの規模、ジャンル、IPの内容によっては、1億ドルから1億5000万ドル(約160億円)もの制作コストをかけられることもあるそうです。

制作コストが高騰している理由の1つとして、オオサキCEOは人件費の高騰を挙げています。アメリカ・カリフォルニア州など、ソフトウェア開発が盛んな地域では近年物価上昇によって人件費が高騰する傾向にあるため、ゲームの開発予算が膨れ上がっているとのこと。また、開発量が増えて残業が増えると、会社が支払うべき給料も増えるため、必然的に制作コストも上がっていくというわけです。

経済規模としては、家庭用ゲーム市場はすでにモバイルゲームやPCゲームよりも小さくなっており、高騰する制作コストを回収するためにはどうしてもソフトの単価が高くなってしまうのは仕方のない話。そんな中で、パブリッシャーは、ゲームの制作コストを回収するために、さまざまな方法を試みてきました。

1つは「コレクターズエディション」や「デジタルデラックスエディション」など、通常価格よりも高いバージョンをリリースするという方法。2つ目が、マイクロトランザクションや月額有料サービスなど、ユーザーエクスペリエンスに課金をする方法です。

オオサキCEOは「多くの家庭用ゲーム機ユーザーは、ゲームを年にたくさん購入しません。多くても年間で3〜4本のゲームしか買わない一方で、ゲーム体験そのものにより多くのお金と時間を費やしているのです」と指摘しています。



また、オオサキCEOは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって家庭用ゲーム機のユーザーが今後増える可能性を指摘。「ゲームに対する反社会的な偏見は、COVID-19の影響もあって消えつつあります。COVID-19のパンデミックは、数年前に予測されていた多くのトレンドを加速させました。ワクチンが完成して、皆が再び外に出られるようになった後でも、ゲーム自体はポップカルチャーのメインストリームとして、社会全体に受け入れられるものとなると思います」とコメントし、家庭用ゲーム市場が再び拡大する可能性を示唆しています。

Polygonは「次世代家庭用ゲーム機は、レイトレーシングや4Kゲーミングなど、多くの技術革新が特徴となっています。経済的なイノベーションも今後出てくるでしょうし、そのイノベーションがユーザーの財布に影響することもありえます」「いずれにしても、リリースされたゲームをプレイするかどうかは市場次第なのです」と述べました。