フランスの警察官(Rama/Wikimedia Commons)

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 アメリカのジョージ・フロイド氏の死をきっかけに広がった「#Black Lives Matter」は、フランスにとっても他人事ではありません。黒人差別や警察の横暴に対するデモが全土で行われています。

 フランスでも2016年、黒人のアダマ・トラオレ氏が、3人の白人警察官に職務質問され連行される途中に死亡するという、フロイド氏と同じような事件が起きています。健康だった若い男性の突然死に、家族は死因の再調査を求めたところ、「圧死の疑い」という結果が出て、白人警察官による暴行死ではないかとされているのです。

 コロナ禍の影響で10人以上の集会が禁止されているにも関わらず、若者を中心にフランス各地で計約2万3千人が集まるなど、フロイド氏の事件をきっかけに4年前の抗議活動が再燃しています。

フランスの警察官(Rama/Wikimedia Commons)

 とはいえ、警察はトラオレ氏の死の責任が自分たちにあるとは認めていません。国家警察委員組合も「警察による人種差別と暴力に関する議論は、政治的、イデオロギー的な少数派によって行われている。彼らは選挙や裁判において勝てないために暴動を起こしている」という声明を出しています。

ゼロトレランスが招いた警察からの反発

 一方、警察を管轄するクリストフ・カスタネール内務大臣は、フロイド氏の事件を受けて、「フランスは警察、憲兵隊による人種差別に対してはゼロトレランス(一切許容しない)」、また「フランスでは(フロイド氏の事件のような)首を絞める拘束の仕方が今後行われないようにする」と発言し、警察からの反発を招いています。大臣のこの発言後、フランス全土で警察官が大臣への怒りの表明として「手錠を地面に捨てる」という抗議活動をしています。

 警察と人種差別へ抗議する人達との溝が深まるばかりか、大臣と警察も内輪もめを始めてしまいました。

 そもそも日本とフランスの警察は、同じ治安維持を目的としている組織でもイメージはかなり違います。日本の場合は交番の存在もあり、犯罪に関することだけでなく、落とし物を届けたり、道を聞いたり、迷子を捜してもらったりするので、一般市民にとって身近な存在です。

 それに比べ、フランスには交番はなく、パリ市内は基本的に1つの区に1つずつ、市町村にもそれぞれ1つの警察署があるだけです。日本の「おまわりさん」のような親しみのある呼び名もありません。

 昨年、ガソリン税の値上げをきっかけにフランス全土に広がったデモ「黄色いベスト」などでも、警察官やパトカーが襲われたりするなど、一般市民との衝突や争いが多く見受けられます。

 また、フランスで起こるデモや抗議活動では、「みんな警察を嫌っている」という文言がたびたび使われます。

 フランスの警察というと、高圧的で、デモや暴動を鎮圧する役割というイメージが強く、少なくとも日本のような「市民を助けてくれる」という印象はないようです。

 とはいえ、白人のフランス人に単刀直入に警察についてフランス人は警察が嫌いなのかと聞くと、「いや、嫌いということはない」「時と場合によるのでは?」と、あいまいな返事が多いのです。

 ある50代の白人男性が「僕は嫌いじゃないよ、だって僕は白人だから」とはっきり言ったのを聞いた時は、ブラックジョークかと思いました。

 少なくとも警察官から不快な思いをさせられた経験のある白人は、私の周囲にはいません。

 これは、フランスの警察には圧倒的に白人が多いことと深く関係していると思います。フランス人に「フランスで黒人の警察官を見た記憶がない」と言うと、「…いないことはないと思う」「少ないかもしれないけど、黒人警察官もいるはず」と言われました。人種別の人口統計はありませんが、少なくともパリ市内を歩けば黒人はたくさんいます。その一方で、白人警察官は街中で見かけるのに、黒人警察官を見かけたことはありません。

 例えば、「フランス 警察」とインターネットで画像検索してみても、黒人の警察官はまず見つかりません。

 また警察官全員ではないでしょうが、警察官の中に人種差別主義的な人が多いのは事実のようです。

 例えば、6月5日に「StreetPress」というウェブメディアによって、フェイスブック上にある「TN Rabiot Police Officiel」という警察官のプライベートグループで、人種差別的、或いは外国人を揶揄・嘲笑する会話が数多くされていると暴露されました。このグループのメンバーになるには警察官のIDなどが必要で、警察関係者約8000人登録していると報じられています。

 このグループの目的は「公安・警察の仕事と使命に関する情報、討論」だったようですが、報じられたスクリーンショットは衝撃的なものでした。黒人に対する悪口(汚い言葉遣い)が散見され、「このような黒人を野放しにしているのがこの国だ」、「反白人主義の人間たち(=黒人)め」といったコメントがいくつもありました。

「フランスでは警察に遭遇すると危険を感じる人達が多く、私もその一人です」とテレビで話した黒人女性歌手の容姿を侮辱したり売春婦呼ばわりしたり、「この女の顔に排泄して顔じゅうに広げて変なことを言えないようにしてやりたい」などと、気分が悪くなるコメントもありました。警察による暴行への抗議デモを中心になって行っているトラオレ氏の家族への中傷など、読むに堪えないような内容が少なくありませんでした。

 StreetPressの報道を受けてTN Rabiot Police Officielには多くの非難の声が上がり、検察による捜査も行われているようです。このほか、WhatsAppというメッセージアプリで人種差別的なコメントをした6人の警察官に懲戒処分が行われたという報道もありました。

 実際、黒人は街を歩いていると、よく職務質問されます。フランスのTF1というテレビ局では、「フランスの移民系の若者たちは、他の若者に比べて職務質問に合う可能性が20倍高い」という調査を紹介していました。またDIJONCTER.infoいうウェブメディアは「警察に殺された人の内90%は移民である」と述べています。

「フランス語話せる?」

 実をいうと、私自身もフランスの警察に嫌な思いさせられた経験があります。あるオーガニックスーパーで自分のスマホをポケットに入れたのを万引きと疑われ、店員が警察に通報したのです。

 買い物を済ませて店外に出ると、3人の白人警察官に囲まれ、まず「こんにちは、フランス語話せる?」と言われました。「話せます」と答えると、「地面にバッグを置いてこっちに来なさい」と言うのです。

 私はまったく状況が呑み込めずにいると、「あなたに選択の余地はない」と凄まれました。そして「ポケットのものを出せ」などと言われ、女性警察官から身体検査のようなことをされました。その時、ようやく万引きを疑われていることに気づき「どういうことか説明してください」と言いました。しかし、彼は面倒くさそうな顔をするだけで、何も言いません。

「私が万引きしたと疑っているんですか?」と聞くと、「そうだ」と一言。そこで自分のスマホを見せると、警察官は肩透かしをくらったような顔をして「もう行っていい」と言うのです。もちろん、謝罪もありませんでした。

 その時は、とにかくその場を離れたかったのですが、女性警官官から「ショックを受けないでね」と、言われました。それに対し、私が「ショックです」と答えたら、男性警察官は「ちょっと待て、今何て言ったんだ??」と止められました。ここで口答えをしたら、連行されるかもしれないと、本当に怖い思いをしました。

 私はこの件があってからしばらくは悔しくて夜も眠れなかったり、思い出して泣いてしまうこともありました。今でもフランスで警察官を見ると嫌な気分になります。

 この話を何人かのフランス人にしたら、「警察は白人にそんなことしない、どこに行っても黒人をそうやって問い詰める」と言われました。もちろん私は日本人ですが、黒人だけでなく、アジア系にも高圧的な態度を取るということなのでしょう。白人にはしない酷い扱いを有色人種にだけするなら、それは人種差別と言わざるをえません。

警察官の差別意識

 でも、よく考えれば、警察官が高圧的な態度を取ることと、人種差別をすることは別の問題のはずです。本来なら、切り分けて考えるべきものでしょう。

 高圧的な態度を取るのは、デモで暴徒を鎮圧するなど、いわゆる取り締まりにおいて必要とされているのでしょう。ですから、警察だからと親切さや優しさを期待することがそもそも間違っているのかもしれません。

 では、なぜフランスの警察官には差別意識を持つ人がいるのでしょうか。

 人種差別に関しては、元々の思想の問題でもあります。フランスの警察官は半数以上が右派を支持していて、左派を支持する割合は10%以下という調査もあります。そして右派は「反移民」をスローガンに掲げています。

 フランスに移民として住む外国人にそもそも良い感情を抱いておらず、しかも移民の中にはオーバーステイ(ビザの期限が切れているのに帰国しない)など不法滞在者がいるのも事実です。そういった取り締まりも警察が行っているわけで、白人を職務質問しても自国民のフランス人である可能性が高く、自然と「外国人」の可能性の高い黒人やアジア人に目が行くのかもしれません。

 加えてフランスの近代警察の発祥は、植民地からの移民や貧民の統制、抑え込みであったと言われています。一般的に、移民は貧困層の地区に住んでいる人も多く、そのような地区は犯罪率が高いというイメージもあり、差別意識を持つ根底には移民問題や犯罪率などが複雑に関係しているのでしょう。

 しかし、肌の色だけで黒人やアジア人を何かと疑ってかかり、相手をはなから犯罪者扱いして威圧したり、ケガをさせたりすることは許されません。

 先日、パリで行われたトラオレ氏のデモに対し、「反白人主義に抗議する」と書いた幕を掲げる白人のグループが現れました。つまり、黒人が自分たちは白人に差別されている、というのは逆差別。白人を貶めている、というわけです。トラオレ氏のデモ参加者が、その幕を掲げた人たちに抗議し、殴り合いになっている様子がテレビで流れていました。

 人種差別へ抗議する人々と、それが逆差別だと主張する人々。市民に高圧的な警察と、警察の横暴に抗議する人々。それぞれが、自分は正当に扱われていないという不満を持ち、それを行動にうつすことが互いへの不信感や嫌悪感をさらに強めているように思えます。こうした状況を見る限り、人種間の溝も、警察と有色人種の市民との溝もなかなか埋まらないのでないでしょうか。

ヴェイサードゆうこ
翻訳家・ジャーナリスト。青山学院大学国際政治経済学部卒。ITベンチャーから転身し、女性向けweb媒体のライター、飲食専門誌の編集記者として執筆。2016年よりフランスに移住し、現在はYouTubeで現地情報を発信中(http://bit.ly/2uQlngQ)。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月6日 掲載