「これで“終わった”と思いましたよ」と、マニー・バンフォは言う。空き部屋の賃貸プラットフォームを展開するスタートアップであるGlobeの最高経営責任者(CEO)を務める彼は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まったばかりのころ、会社存続の危機を経験したのだ。

「新型コロナウイルスの影響でレンタル業界に明暗、そこには「質的な変化」が起きている」の写真・リンク付きの記事はこちら

Globeでは時間単位で部屋を借りることができ、旅行者やビジネス客の利用が多い。ところが、新型コロナウイルスの影響に旅行が禁止され、仕事をしている人の多くが在宅勤務になった。また、見知らぬ人と同じ空間を共有することに衛生面での問題を感じる人が増えている。バンフォは「部屋を貸す側も、赤の他人が家に来ることを敬遠するようになっています」と言う。

物の「貸し借り」に大きな影響

新型コロナウイルスは部屋だけでなく、さまざまなものの「貸し借り」に大きな影響を及ぼす可能性がある。レンタルやシェアなどのサーヴィスを提供する企業の多くは、実際にユーザーを失っている。一部の企業は、各地で外出制限が緩和される前に業績が大きく悪化したのだ。

例えば、ファッションレンタルのRent the Runwayは、Zoomで従業員に解雇通知をしなければならなかった。Airbnbも全スタッフの4分の1近くを整理している。特に大きな打撃を受けたのはレンタカー業界で、 Enterpriseが2,000人以上の人員削減に踏み切ったほか、大手のハーツは5月に経営破綻した。

Globeに話を戻すと、当面の課題は新しい規制にどう対応していくかだという。サンフランシスコ市当局は、同社が市の一時避難勧告、短期賃貸および住宅関連の法律に違反している疑いがあるとして、警告書を送付している。市法律顧問デニス・ヘレーラの広報担当者のジョン・コートは、Globeが市が定めた公衆衛生のルールに準拠していない可能性があるとの見解を示している。

コートはUberやLyft、Cashpadzなどのシェアリングエコノミー企業が規則を順守していると指摘した上で、「Globeは市の調査に協力しておらず、扱う物件のデータや感染面でのリスクを最小限に抑える対策についての基本情報を提出していません」と説明する。「この状況が続くようであれば、市民の安全を守るために必要な措置を講じます。法律を無視し公衆衛生への脅威となるビジネスに対して、当局は常に同じ対応をとってきました。Globeと同社のCEOは、公衆衛生と法よりも利益を重視しているのです」

なお、Globeは「市当局とは緊密に連絡をとっており、今回の警告にもすぐに回答するつもりです。わたしたちの基準はサンフランシスコで展開するほかの賃貸プラットフォームと同等か、それを上回っています」とのコメントを出している。

景気後退による消費者心理の変化

こうした状況にもかかわらず、バンフォはGlobeの事業について「非常にうまくっています」と言う。プラットフォームを離れるユーザーがいる一方で、新規利用が増えているというのだ。

特に在宅勤務の隔離されたような気分をなんとかしたい、自宅ではうるさくて仕事ができない、子どもの世話から一時的に解放されたいといった人が、Globeのプラットフォームを試すことが多いという。バンフォは「誰でもある程度のプライヴァシーは必要です」と言う。

パンデミックによるロックダウン(都市封鎖)により、いわばニッチな市場を見つけたのはGlobeだけではない。市場調査会社ミンテルによれば、レンタル市場の見通しはかなり良好だ。同社でトレンドおよびソーシャルメディア関連部門のディレクターを務めるガブリエル・リーバーマンは、先行き不透明感が強い現在のような状況では、レンタルというサーヴィスは「非常に有利な位置」を占めていると指摘する。

経済が止まったことで失業者が増え、消費者は支出を抑えようとする傾向にある。これがレンタル市場を活性化させているのだ。ニューヨーク大学教授で消費者行動を専門にするトム・メイヴィスも、この見方を支持する。

景気後退が起きると、消費者は大きな支出を避けるために物やサーヴィスを購入するよりも、「借りる」という方法を好むようになる。メイヴィスは「金銭的に可能であっても、先行投資することに消極的になるかもしれません」と言う。

レンタル家具の需要が急増している理由

家具レンタルを展開するニューヨークのスタートアップFeatherも、ロックダウンにもかかわらずビジネスを展開する都市の大半で業績を伸ばしている。同社は高級家具を中心に扱うが、CEOのジェイ・レノは「在宅勤務のために家庭向けの家具の需要が急拡大しています」と説明する。「特に西海岸では家の広さに余裕があることから、この傾向が顕著なのです」

唯一、業績が落ち込んでいるのは足元のニューヨークである。これはまだパンデミックの影響が続いているほか、同市を離れて地方に移住する人が増えているという理由がある。レノは自社サーヴィスの人気が高まっていることについて、経済危機の影響ではないかと考えている。

「景気後退や不況といった局面では家賃負担が増加します。家具についても同じことが言えるのではないでしょうか。多くの人が柔軟性を求めていますし、いまのような状況で購入しないことは経済的に賢明な選択です」

やはりニューヨークに拠点を置く家具レンタルのスタートアップのEverestは、マンハッタンに引っ越してくる学生といった従来の顧客を失う一方で、ビジネスそのものは好調だという。市の中心部から郊外に移り住み、新しい家具を手軽に揃えたいと思っている中間層が同社のサーヴィスを使うようになっており、事業拡大のために増員もした。

EverestのCEOギャビン・スタインバーグは、「ニューヨークの中心部を離れて、ウエストチェスターやニュージャージー、ロングアイランド、コネティカットといった郊外に家を借りる人が増えています」と話す。「こうしたグループからの大きな需要があり、結果としてわたしたちのビジネスも質的に少し変化しています」

クルマのシェアも好調

一方、従来型のレンタカーサーヴィスが苦戦するなか、クルマを貸したい所有者と借り手をつなぐプラットフォームを運営するTuroは、旅行者の激減という苦境をなんとか乗り越えようとしている。短距離の移動に公共交通機関ではなく、クルマを利用する人が増えているからだ。

サンディエゴ在住のジョン・ウィルソンは、パンデミック以前からTuroでクルマを貸していた。現在も需要はそれほど落ち込んでいないが、借り手の中身はまったく変わったという。ウィルソンは「以前はクルマを貸す相手の65〜75パーセントは旅行者でしたが、パンデミック以降は90パーセントが地元の人になりました」と言う。

これは局地的な傾向ではなく、Turoが展開するどの地域でも起きている変化だ。広報部門を率いるスティーヴ・ウェブは、「以前は旅行者中心のプラットフォームでしたが、地元での移動のための利用が大半になりました。大きな変化が起きています」と説明する。

さらに最近のアンケート調査で、ユーザーの13パーセントはクルマを“仕事場”として使っていることも明らかになった。ウェブは「これほど高い割合だとは思っていませんでした」と言う。また、25パーセントはクルマを借りた理由として「自分だけの場所が欲しかった」と回答している。

合理的な選択肢

ただ、より広い意味で消費行動の見直しが進むなか、レンタルの難点が克服されたわけではない。ボストンカレッジの社会学教授で消費文化を研究するジュリエット・ショアは、ロックダウンが解除された中国で自動車販売が急増している点を指摘する。ショアは「公共交通機関に対する忌避感に加え、ものを借りることへの不安も大きいのだと思います」と言う。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』は自動車の購買意欲が米国でも高まっていると報じているが、それでもパンデミックが引き起こした経済的な不透明感は障害になるだろう。実質的な問題として、大きな買い物をすることが金銭的に不可能になっている消費者も多い。

一方、レンタルを現時点では購入できない物やサーヴィスにアクセスするための現実的な手段と捉える人もいる。ジョージア州アトランタ在住のアンドリーヌ・ロビンソンがTuroを使っているのは、価格が手ごろだからだ。ロビンソンは「ちょっとだけ散財するという選択です。少ない予算で贅沢を手にすることができますから」と言う。

何もかもが不確実ないま、人々は所有と安定を求めており、レンタルの「一時的」な感覚は弱点になるかもしれない。だが、この分野で業績を伸ばしている企業は、それを逆手に取ることに成功した。明日がどうなるかわからない状況で「今日という日」を少しでも楽しく生きるために、レンタルは合理的な選択肢に見えるようになっている。