自己肯定感に密接に作用する「6つの感」を知ることで、自分の感情の変化にも対応できるようになります(写真:saki/PIXTA)

私たちの日頃の行動に大きな影響を与える「自己肯定感」。心理カウンセラーの中島輝氏によると、自己肯定感は「6つの感」によって形成されており、1つでも揺さぶられると自己肯定感は低下します。『書くだけで人生が変わる自己肯定感ノート』の著者でもある中島氏がその仕組みについて解説します。

子どもの頃から「いい子」だったというAさんは、母親に言われるがままに高校、大学の受験先を決めて進学。就職活動中にはやはり母親の勧めで簿記を習い、会計事務所に就職しました。入所後は上司の言うことを忠実に守り、所内での評判は上々でした。

ところが20代後半に差しかかると、周りの同世代が転職や結婚をし始め、それぞれが自分の人生を自分で決めていることを知り、焦りを感じ始めます。そこでAさんは自立を決意。実家を出ようと考えましたが、行動に移すことができず、いつのまにか30代に突入してしまいました――。

こうした悩みを抱えている人は少なくないのではないでしょうか。周りの意見を素直に聞く人は「いい人」と評価されがちですが、裏を返せば自分では決められないということであり、あまり褒められたことではありません。こうした特徴の人は、「自己肯定感」に問題を抱えています。

自己肯定感をつくる「6つの感」

自己肯定感とは、自分が自分であることに満足し、価値ある存在として受け入れられることであり、いわば生きるエネルギーそのものです。自分や他人、未来を信じることができるのは、自己肯定感がその思いを支えているからです。

それが低いとどうなるでしょうか。新しいことにチャレンジしようと思っても「どうせ失敗する」と、すぐに自分で行動にブレーキをかけてしまいます。自己肯定感が高ければそうしたことは起きませんが、「自己肯定感は時と場合によって、高くもなり、低くもなる」「自己肯定感は、強い人と弱い人がいる」という2つの法則がそれを阻みます。

なぜ自己肯定感は上下動するのでしょうか。その原因は、自己肯定感を支える「6つの感」にあります。すなわち「自尊感情」「自己受容感」「自己効力感」「自己信頼感」「自己決定感」「自己有用感」です。これらがどのような感情なのかを、「自己肯定感の木」にたとえて説明します。

1. 自尊感情
「自分には価値があると思える価値観」で、「根」にあたります。根っこが深くなければ、木は簡単に倒れてしまいます。

2. 自己受容感
「ありのままの自分を認める感覚」で、「幹」にあたります。しっかりしていなければ、木はまっすぐに伸びません。

3. 自己効力感
「自分にはできると思える感覚」で、「枝」にあたります。しなやかに伸びなければ、すぐにポキッと折れてしまいます。

4. 自己信頼感
「自分を信じられる感覚」で、「葉」にあたります。信頼という養分がなければ、生い茂ることはできません。

5. 自己決定感
「自分で決定できるという感覚」で、「花」にあたります。主体的に自分で決めることで、花は開きます。

6. 自己有用感
「自分は何かの役に立っているという感覚」で、「実」にあたります。誰かの役に立てること。それ自体が甘いご褒美です。

自己肯定感の木は6つの感で大きく育ち、開花し、実を結びます。逆に言えば、どれか1つでも大きく揺さぶられると、その影響で自己肯定感は下がってしまいます。それが自己肯定感が簡単に上下する要因です。

「いい人」には依存的・他責的になる危険性が

冒頭のAさんの場合、自己決定感が低下していることがわかります。自分で主体的に物事を決めることができないため、自然と周囲への依存度が増します。結果、上司や先輩、取引先の意向を優先するようになったり、パートナーや親の顔色をうかがうようになるのです。

周りからしたらなんでも言うことを聞いてくれる「いい人」でしょうが、Aさんにとっては危険な状態です。人に決めてもらったことを実行するため、失敗しても上司や先輩のせいにしたり、パートナーや家族のせいにするという、他責的な傾向が強まってしまうからです。そして依存的、他責的な態度が定着してしまうと、何かを決断しなければならない局面に向き合ったときに、足踏みを続けることになるのです。

依存の反対は自立ですが、自立と自己肯定感は相互関係にあります。自立とは、「責任感」「決定力」「行動力」を兼ね備えていなければなりません。ここでいう責任感とは、何かを与えられて果たすことではありません。自らの意思で選択する自由意志です。周りの顔色を見て物事を選択する姿勢は、責任の放棄だという心理学者もいます。

選択したことを決定して行動する。この3つが合わさって自立です。自己肯定感が高まれば依存から脱却し、自立した本当の自分で、本当の自由を感じながらそれを謳歌できるのです。

相互に作用する6つの感

6つの感はそれぞれが密接につながり、連鎖的に影響を与え合います。例えば、信頼していた友人に裏切られたり、熱心に取り組んでいた仕事のプロジェクトから外されると、自尊感情が傷つけられます。すると、自分の価値を低く見積もるようになり、その影響はほかの「5つの感」を揺さぶります。

冒頭のAさんの場合、自己決定感の低下により、人の意見に頼って依存的になることで、「自分の力で成し遂げた」という自己効力感まで得にくくなり、結果、自分に自信が持てず、自己信頼感まで低下してしまっています。


これだけ多くの感が下がってしまうと、元に戻すのが大変だと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。6つの感は、自己肯定感のマイナス面でばかり影響し合うわけではなく、お互いを支え合うプラスの影響力も発揮するからです。

自尊感情が傷ついたとしても、友人の励ましによって「自分はこのままでもいいんだ!」と思える自己受容感が満たされ、心許せる親友がいる自分は「社会とつながっている!」と自己有用感が回復し、自己肯定感も高まります。つまり、6つの感のうちの1つの「感」をいいコンディションに保つことができれば、そのいい影響はほかの感にも波及するのです。

それを実行するためには、まず自分の自己肯定感の低下がどの感によって引き起こされたのかを意識することが重要です。自己肯定感は何歳からでも高まりますし、誰でも強くすることができます。

先ほど説明した6つの感を参考に、どの感が揺らいでいるのかを自己認知し、それがなぜ起きたのかを把握することで、感情の変化に対処できるようになります。そうすることで、どのようなことに時間とエネルギーを注げばいいのかが見えてくるでしょう。