新型コロナウイルス感染症対策について、さまざまな言説が飛び交っています。
「マスクは効果がない」とも言われていますが、実際はどうなのでしょうか。

長年に渡って一般住宅、大学病院、老人介護施設など異なる環境に存在する「真菌・細菌・ダニ・微小昆虫」などを総合的に調査・研究してきた博士(農学)の川上裕司さんは、「マスク着用は一定の効果が期待できます。のどを保湿することがマスクの最大の予防効果です」と話します。以下、詳細を寄稿していただきました。


コロナウイルス対策、マスクの効果は?

マスクに感染症予防の効果あり。通勤電車内などハイリスクな場所では必ず着用を



現在、新型コロナウイルスの感染形態として、もっとも注意しなければならないのが飛沫感染と接触感染であることには異論ないでしょう。空気感染(飛沫核感染=水分が抜けて単体になって空気中に浮遊)については、インフルエンザウイルスと同様に可能性は示唆されていますが、主たる感染形態ではありません。

ウイルスの粒子は、咳から10万、くしゃみから100万も外部へ飛散するといわれており、新型コロナウイルスの飛沫感染はウイルスに水分やホコリが付着した形状で空気中に飛散することから始まります。
水分をまとった飛沫のサイズは5μm以上で、マスクのメッシュのサイズよりは小さいですが、ウイルス本体のサイズよりは遥かに大きく、マスクでトラップできる確率は、マスクなしで直接吸引するよりも高いと思います。

とくに、感染リスクが高い電車内などで近くにいる方がマスクをせずに咳やくしゃみをした場合のことを想定すると、予防としてマスクをしておく方が直接吸い込むよりもリスクを軽減できると思います。

●ウイルスは湿気に弱い。のどを保湿することがマスクの最大の予防効果

読者の皆さんの自宅には「加湿器」を置いているかもしれません。冬場、なぜ加湿器を使うのですかと質問したら、「喉や鼻の乾燥を防ぎ、風邪やインフルエンザに罹らないため」とお答えになるのではないでしょうか?
その答えは正解です。その考え方をマスクに置き換えれば、私がいちばん啓発したいマスクの予防効果について、よくご理解いただけると思います。

私たちの身体には、吸い込んだウイルスを排出しようとする機能が備わっており、その機能を働かせることが大切です。マスクをすることで、呼気に含まれる湿気を口元に閉じ込めて、喉を保湿する効果があり、それが感染予防に繋がります。

ヒトの鼻から上気道、肺へと続く粘膜には、線毛という細かい毛がびっしりと生えていて、線毛と線毛の間には、サラサラした「線毛間液」と、その上に乗っている「粘液」が層になっています。これが外部から侵入して来る異物を排出する大切な役目をしています。
線毛は1秒間に15〜17回という速さで小刻みに動いて、喉に向かって一定の流れをつくっていることから、口から入ってきたウイルスは、粘膜上の粘液にからめ取られ、線毛の流れに乗ってのどへと集められ、咳や痰と一緒に体外へ排出されるメカニズムになっています。

●こまめな水分補給で喉を潤すことも大事


冬季に風邪やインフルエンザに罹りやすくなるのは、気温の低下に伴う乾燥から喉や鼻の線毛間液が減少し、粘液の粘度が増すことによって線毛運動が鈍くなり、異物の排出機能が低下するからです。ウイルスは主に粘膜細胞で増殖することがわかっていますが、吸い込んだウイルスが粘膜へ侵入しないように線毛が水際で守っています。

つまり、感染予防には、線毛の働きを正常に保つことが大切です。線毛がもっとも活発に働くのは37〜38℃と言われており、気温の低下で身体が冷えると、線毛の動きが鈍くなります。

そこで、もう一つ心がけたいことはこまめな水分補給で喉を潤すこと。できればあまり冷たい飲料ではなく、適度に温かい飲み物がいいでしょう。

●四六時中マスクを着用することはNG

さて、マスクの感染予防効果について述べてきましたが、四六時中マスクを着用することはけっして推奨しません。マスクを着用し続けると、新鮮な空気を取り込むことが阻害されて頭痛や吐き気、頭が重くなるとの報告もあります。

筆者は、今回の新型コロナウイルス感染症が出現する以前(10年以上前)から、毎年12月から3月末までの期間、「風邪・インフルエンザ予防」とそれに続く「スギ花粉症予防」のために、マスクを着用してきました。その効果も手伝って、これまで1度もインフルエンザに罹患したことがなく、ここ3年ほど風邪症候群にも罹患していません。

ただし、自宅や、他人とのスペースが十分にある職場の中ではマスクを着用しません。また、スギ花粉が飛散しない夕方以降は、マスクを外して駅からの道を新鮮な空気を吸って歩きます。新型コロナウイルス感染症予防で心がけていることは、他人と接近する場面で必ずマスクを着用することです。

「マスクがまったくの無効である」と情報を流す裏には、マスク不足に拍車をかけるから、特定の方の買い占めを抑制するため、医療従事者のマスク不足が深刻であるといった意図が少なからず働いているように思います。その反面、異業種の企業がマスク生産開始して軌道に乗せたり、街中のリフォーム店や飲食店が手づくりマスクを制作して販売するニュースは「新型コロナウイルス感染症対策」への前向きな姿勢の現われだと思います。

こまめなうがいと手洗い、手指の消毒剤散布が対策の基本中の基本ですが、加えて、人混みの中では必ずマスクを着用することを筆者は強くおすすめします。

●教えてくれた人
【川上裕司さん】


博士(農学)。(株)エフシージー総合研究所暮らしの科学部(フジテレビ商品研究所)取締役・部長。環境微生物を専門とする。エフシージー総合研究所公式サイト内で「新型コロナウイルス感染症対策〜IPM研究室〜環境微生物学の研究者〜の立場から〜
」のコラムを掲載中