男性不妊の原因の4割にも。「精索静脈瘤」手術体験談
妊活をしている夫婦で、意外に多い男性起因の不妊。今回は、精巣の周りに瘤ができる「精索静脈瘤」が発覚し、手術を受けた男性Aさん(40歳)を取材しました。精索静脈瘤を発見するまでの経緯や手術にかかった日数、費用など実際の負担をくわしく伺います。
※写真はイメージです(以下同じ)
東京都在住のAさんご夫婦(妻・34歳、夫・40歳)は、2年前から妊活を開始。
「妻が希望して女性の医師が対応してくれる、近所のクリニックに行って夫婦で検査しました。女性に比べると男性の検査項目が少なくて驚きました」というAさん。
幸いにも2人とも大きな問題は見つからなかったのですが、タイミング法を1年続けても結果には繋がらず。
いよいよ医師から「顕微授精や人工授精に向けてステップアップを考えてみるタイミングではないか」と提案されました。
しかし、妻がホルモン剤を打つことを怖がったこともあり「念のため話を聞こう」と、都内の大きな病院へセカンドオピニオンを伺いに行ったそうです。
そこの病院には男性不妊の専門医が2人もいて、診察の初日にAさん自身に精索静脈瘤があることが分かりました。
●男性不妊の専門医が少ないらしい
担当の男性医師から“研修医でも見落とさないレベル”という精索静脈瘤が見つかったAさん。
「治療をステップアップをする前に気がつけてよかったなと思いました。あのまま男性側の検査をあまり行わないクリニックに通い続けていたら、ずっと知らずに過ごしていたかもしれません」
検査は血液検査、精液検査のほかに精巣の検査で触診や超音波検査をしたのですが、最初に通院していたクリニックには血液検査と精液検査しかなかったそう。
「精巣の検査」が行われていなかったことを医師に聞いてみると、「全国に男性不妊の専門医は60名程度しかいないんです。ここはたまたま2人いますが、男性不妊症患者の4割くらいは精索静脈瘤がネックになっているかもしれないと言われているのに、Aさんのように検査されずに気がつけないご夫婦もまだまだ多いのが実態ではないでしょうか」と言われました。
●精索静脈瘤の手術をするべきか?
しかし精索静脈瘤が分かったところで、手術を受けるのかAさん夫婦は悩みました。もともと精液検査による精子の成績が極端に悪かったわけでもないからです。医師から「手術を希望しますか?」と聞かれたときも、当初はそこまで深刻には考えていなかったので戸惑いました。
しかし、医師から「まだ精子の研究は、未知なことが多いんです。男性不妊症患者の4割に精索静脈瘤があるということは、我々の研究が進んでいない、なにか目には見えないレベルで、精子が精索静脈瘤による損傷を受けている可能性もあるんです」と言われて、手術を決断。
当時は「一大決心をしたような心境でした」とAさんは振り返りますが、実際に手術を受けてみると、予想に反して本人たちの負担が軽かったそう。
病院によっては、日帰りで対応しているところもあるという精索静脈瘤の手術。Aさんの病院では感染症などの経過観察もしっかりしたいということで1泊2日の入院を推奨されました。
●1か月前から出張制限があったものの…
手術前は「風邪などを引かないようにしてほしいので、念のため1か月くらいは出張などを控えるようにしてください」と医師から説明がありました。
幸い仕事も繁忙期ではなかったので、普段通りの生活をしながら、1か月間体調を万全に整えて手術に臨んだそうです。
●手術の日程は休日の1泊2日
手術日は自分で選ぶことができて、会社がもともと休みである土日で調整できました。
「有給休暇を使うことなく対応できたので、仕事への影響もまったくありませんでした」とAさん。
●手術自体は3時間。当日の夜から普通に食事も!
朝食抜きで病院に行って午前中に入院手続きをし、午後から手術開始のスケジュールでした。
「全身麻酔の手術ということで、家族も付き添ってくれました。でもドラマのように手を握りしめられながら手術室へ運ばれていくのかと想像していたら、自分で歩いて移動することに。手術室の前で妻と『じゃ』と、手を振り合いながらお互いちょっと拍子抜けした苦笑いがこぼれたほどでした」
手術時間は約3時間でした。
「目が覚めると、先生に『よく頑張りました』と褒められましたが、眠っていただけなのでまったく実感がわきませんでした」というAさん。
太もものつけ根のあたり1.5cm程度の切り傷も、夕方2回ほどバンドをはり替えながら、痛みが出たら薬を飲む程度。当日の夜には、普通の食事をとることもできました。
●手術費用は保険適用。医療保険も役に立った
不妊治療というと、自己負担でとても高額になるイメージでしたが、今回の精索静脈瘤は保険適用だったので窓口での支払いは8万円程度(個室代などは別)でした。
しかも加入していた医療保険から手術費用が全額出たので、家計への影響はほとんどなかったといいます。
「術後は、傷口は残るものの痛みはなく、デスクワークのときも長時間座り続けないように気をつけています。まだ妊娠という結果には繋がっていませんが、今後、妻がステップアップしていくときにも、お互い納得しながら進めていけるのでよかったです」とAさん。
精液検査の運動率が以前よりもアップしたそうです。
一方で男性側の不妊に関する知識や理解は、まだまだあまり知られていないことも多いのが現状。
Aさんの妻は「もしあのまま女医さんのクリニックにこだわって、後から夫の病気を知ることになったらすごく後悔したかも」というように、医師から提案された治療が本当に最善なのか、患者本人たちに委ねられている側面もあります。
状況によっては膨大な費用や途方もない負担がかかることもある不妊治療。夫婦で話し合い、ときにはAさん夫婦のようにセカンドオピニオンも検討しながら、納得のいく治療法をチョイスしていけるといいですね。
<取材・文/烏丸莉也>
男性不妊患者の4割も!?精索静脈瘤の発見が遅れた理由
※写真はイメージです(以下同じ)
東京都在住のAさんご夫婦(妻・34歳、夫・40歳)は、2年前から妊活を開始。
「妻が希望して女性の医師が対応してくれる、近所のクリニックに行って夫婦で検査しました。女性に比べると男性の検査項目が少なくて驚きました」というAさん。
いよいよ医師から「顕微授精や人工授精に向けてステップアップを考えてみるタイミングではないか」と提案されました。
しかし、妻がホルモン剤を打つことを怖がったこともあり「念のため話を聞こう」と、都内の大きな病院へセカンドオピニオンを伺いに行ったそうです。
そこの病院には男性不妊の専門医が2人もいて、診察の初日にAさん自身に精索静脈瘤があることが分かりました。
●男性不妊の専門医が少ないらしい
担当の男性医師から“研修医でも見落とさないレベル”という精索静脈瘤が見つかったAさん。
「治療をステップアップをする前に気がつけてよかったなと思いました。あのまま男性側の検査をあまり行わないクリニックに通い続けていたら、ずっと知らずに過ごしていたかもしれません」
検査は血液検査、精液検査のほかに精巣の検査で触診や超音波検査をしたのですが、最初に通院していたクリニックには血液検査と精液検査しかなかったそう。
「精巣の検査」が行われていなかったことを医師に聞いてみると、「全国に男性不妊の専門医は60名程度しかいないんです。ここはたまたま2人いますが、男性不妊症患者の4割くらいは精索静脈瘤がネックになっているかもしれないと言われているのに、Aさんのように検査されずに気がつけないご夫婦もまだまだ多いのが実態ではないでしょうか」と言われました。
●精索静脈瘤の手術をするべきか?
しかし精索静脈瘤が分かったところで、手術を受けるのかAさん夫婦は悩みました。もともと精液検査による精子の成績が極端に悪かったわけでもないからです。医師から「手術を希望しますか?」と聞かれたときも、当初はそこまで深刻には考えていなかったので戸惑いました。
しかし、医師から「まだ精子の研究は、未知なことが多いんです。男性不妊症患者の4割に精索静脈瘤があるということは、我々の研究が進んでいない、なにか目には見えないレベルで、精子が精索静脈瘤による損傷を受けている可能性もあるんです」と言われて、手術を決断。
当時は「一大決心をしたような心境でした」とAさんは振り返りますが、実際に手術を受けてみると、予想に反して本人たちの負担が軽かったそう。
保険適用!精索静脈瘤の手術は会社も休まずに受けることができた
病院によっては、日帰りで対応しているところもあるという精索静脈瘤の手術。Aさんの病院では感染症などの経過観察もしっかりしたいということで1泊2日の入院を推奨されました。
●1か月前から出張制限があったものの…
手術前は「風邪などを引かないようにしてほしいので、念のため1か月くらいは出張などを控えるようにしてください」と医師から説明がありました。
幸い仕事も繁忙期ではなかったので、普段通りの生活をしながら、1か月間体調を万全に整えて手術に臨んだそうです。
●手術の日程は休日の1泊2日
手術日は自分で選ぶことができて、会社がもともと休みである土日で調整できました。
「有給休暇を使うことなく対応できたので、仕事への影響もまったくありませんでした」とAさん。
●手術自体は3時間。当日の夜から普通に食事も!
朝食抜きで病院に行って午前中に入院手続きをし、午後から手術開始のスケジュールでした。
「全身麻酔の手術ということで、家族も付き添ってくれました。でもドラマのように手を握りしめられながら手術室へ運ばれていくのかと想像していたら、自分で歩いて移動することに。手術室の前で妻と『じゃ』と、手を振り合いながらお互いちょっと拍子抜けした苦笑いがこぼれたほどでした」
手術時間は約3時間でした。
「目が覚めると、先生に『よく頑張りました』と褒められましたが、眠っていただけなのでまったく実感がわきませんでした」というAさん。
太もものつけ根のあたり1.5cm程度の切り傷も、夕方2回ほどバンドをはり替えながら、痛みが出たら薬を飲む程度。当日の夜には、普通の食事をとることもできました。
●手術費用は保険適用。医療保険も役に立った
不妊治療というと、自己負担でとても高額になるイメージでしたが、今回の精索静脈瘤は保険適用だったので窓口での支払いは8万円程度(個室代などは別)でした。
しかも加入していた医療保険から手術費用が全額出たので、家計への影響はほとんどなかったといいます。
「術後は、傷口は残るものの痛みはなく、デスクワークのときも長時間座り続けないように気をつけています。まだ妊娠という結果には繋がっていませんが、今後、妻がステップアップしていくときにも、お互い納得しながら進めていけるのでよかったです」とAさん。
精液検査の運動率が以前よりもアップしたそうです。
一方で男性側の不妊に関する知識や理解は、まだまだあまり知られていないことも多いのが現状。
Aさんの妻は「もしあのまま女医さんのクリニックにこだわって、後から夫の病気を知ることになったらすごく後悔したかも」というように、医師から提案された治療が本当に最善なのか、患者本人たちに委ねられている側面もあります。
状況によっては膨大な費用や途方もない負担がかかることもある不妊治療。夫婦で話し合い、ときにはAさん夫婦のようにセカンドオピニオンも検討しながら、納得のいく治療法をチョイスしていけるといいですね。
<取材・文/烏丸莉也>