「コロナ不況」で真っ先にリストラされる人の条件
■リモートワークでバレる「ほんとうに必要な社員いらない社員」
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、社員の在宅勤務に踏み切る企業が増えている。
パーソル総合研究所の「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(3月9日〜15日調査、正社員2万1448人)によると、「在宅勤務を命じられている」3.2%、「推奨されている」は18.9%で計22.1%。「命令・推奨」の割合は大企業ほど高く、従業員1000〜1万人の企業は35.1%、1万人以上は42.9%と半数近くに上っている。
実際に在宅勤務を実施している人の割合は13.2%。そのうち現在の会社で初めて実施した人は約半分の47.8%もいる。
国勢調査に基づく推計では約360万人の正社員が在宅勤務をしていることになり、これにその47.8%を当てはめると、約170万人が今回のコロナ騒動をきっかけに“にわか在宅勤務者”となったということになる。
在宅勤務といえば、これまで「通勤地獄から解放され、自由な時間も増える」「子育てとの両立ができる」といったメリットが強調されてきた。
■在宅勤務は通勤地獄から解放されるが緊張感を維持するのが大変
だが当然、在宅であっても仕事の成果が問われる。最初は張り切って仕事をしようとするが、1週間も続けば、同僚や先輩もいない中で緊張感を維持するのが大変になる。
しかも、自宅に書斎や自分の部屋がない人も多い。以前、在宅勤務をトライアル実施した大手電機メーカーでは、自宅に独立した部屋を持つ人は3分の1しかいなかったそうだ。
子どもには部屋はあるが、夫婦の寝室はベッドが占領しているという家庭では、パソコンを開いて仕事できるのはリビングデーブルだけとなる。
朝食を取りながらテレビを見たり、新聞を読んだりするプライベート空間の中で、仕事モードにスイッチを切り替えるのは容易ではない。
ダラダラと仕事をすることになりかねず、仕事のモチベーションを維持するには厳しい自己管理が問われる。“にわか在宅”ともなれば日を追うごとにさまざまな困難にも遭遇するにちがいない。
■在宅勤務のデメリット「運動不足、精神的負担、意思疎通が難しい…」
新型コロナ対策として1月27日から約4000人の社員の在宅勤務に踏み切ったGMOインターネットグループは1カ月以上経過した3月4〜5日に実施したアンケート調査を公表している(3月16日)。
それによると、通勤負担の軽減などのメリットも多くあったものの、デメリットや課題が浮かびあがっている。
たとえば「腰痛など身体的負担、運動不足、精神的な負担」や「業務効率が低下、時間管理が難しい」という声が上がっている。また「同僚・他部署パートナーとの意思疎通が難しい」といった在宅ゆえのコミュニケーション不足も指摘されている。
実際に長期の在宅勤務を続けると、どんな弊害が発生するのか。
数年前にIT企業が営業部門のセールスエンジニア職などを対象にテレワーク参加者を募集した。
会社に行くのは週1回のミーティングのみで、あとはテレビ会議を通じて必要な打ち合わせ行う。人事評価の基準は「顧客との成約」などの目に見える成果が中心になる。当初、20代後半から30代の多数の社員が手を挙げた。
その一人の30代のA氏は「結局、仕事のコントロールなど自己管理が難しく、3カ月もたたずに挫折しました」と語る。自己管理ができないだけではなく、仕事や会社に対する意識にも大きな影響を及ぼすようになったと言う。
■「会社を辞めたい」「別の部署に異動したい」社員続出、組織は崩壊
「チームを離れて仕事をしているうちに、『この仕事は自分がいなくても誰でもできるんじゃないか』と思う人が増えました。また、チャット上でのやりとりばかりで、結果的に個人のパフォーマンスが目立つようになり、マネジャーは『君の数字が足りていないね、誰がカバーしますか』というチャットばかり。前向きの議論はしなくなりました。その結果、かなりの人が『会社を辞めたい』『別の部署に異動したい』と声を上げるようになり、組織は崩壊しました」
在宅での仕事を続けていくうちに顧客との関係でつまずくこともある。同じオフィスにいれば、誰かがサポートすることも可能だが、在宅勤務では自分で悩みを抱え込んでしまい、その失敗を引きずってしまうことがあった。
■通信環境が整備されてもチームや職場の一体感が失われる
一方で成果を求められる中で、自分がこの会社に存在する意味があるのかという根源的な疑問も頭をもたげ、考えた末に退職してしまうケースも多かったという。
通信環境がどんなに整備されてもチームや職場の一体感が失われてしまう。在宅勤務にはそんなリスクも隠されているのだ。
ただ、とはいえ、今回のコロナ対策を契機に在宅勤務は広がっていくことになるだろう。
会社にとって最大のメリットは「管理職の資質・能力」や「社員の評価」が労働時間の長さではなく、成果という数字によって可視化されるからだ。
数年前から在宅勤務および、コアタイムのないフレックスタイムを推奨しているIT企業の人事部長はこう語る。
「従来は朝早く出社して仕事の準備をしている社員を管理職は『彼は真面目で偉い、それに比べて始業時間ギリギリに駆け込んできたあいつはダメだ』と勝手に評価したつもりになっていました。しかし本当に測るべきなのは成果です。だからこそ会社としては社員を時間と場所から解放し、自律的な働き方を推進しているのです」
■コロナ不況で「ダメ上司&社員」が降格・降給される日
この人事部長は、在宅勤務も含めた「働き方の変化」でより重要視されるようになるのは、やはり管理職の能力と社員の成果だと言い切る。
「在宅勤務になると多くの管理職は目の前にいる部下がいなくなることに苦慮します。メンバー一人ひとりとどのようにコミュニケーションを取り、明確な仕事の指示ができるのか、そして課全体のパフォーマンスを達成できるかが問われます。マネジメントスタイルががらりと変わる中で独自のスタイルを築くことができず、チームの成績が落ちれば、管理職不適格者と見なされても仕方ないですし、降格することになるでしょう」
同社ではすでに降格された管理職も少なくない。ある部署ではこの2年間で実に10人の管理職が入れ替わっているという。
また、このIT企業では賃金制度も年功的制度を廃止し、役割と成果に基づく年俸制に変えている。
その結果、年齢に関係なく年俸が毎年増減するようになった。同社の社員は通常勤務と同じように成果を出さなければ給与が減るという緊張感の中で仕事をしている。
離れて働くからこそわかる「本当の実力」で「昇進・降格」「昇給・減給」するような仕組みの導入はコロナ対策の在宅勤務でも加速していく可能性がある。
現在、感染拡大が事業活動にも深刻な影響を与えている。
東京商工リサーチの調査(3月19日)によると、新型コロナウィルスの影響を受けているとした422社の上場企業のうち151社(35.7%)が売上高や利益の減少など業績悪化を挙げている。
すでに“コロナ不況”の足音も聞こえ始めている。不況になれば、当然、リストラに踏み切る企業も出てくるだろう。在宅勤務によってあぶりだされた「社員をマネージできない管理職」と「自己管理できずに成果を出せない社員」が、そのターゲットになるかもしれない。
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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)