ゾゾマットの開発を陣頭指揮してきたZOZOの伊藤正裕取締役兼COO(撮影:風間仁一郎)

ファッションECサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するZOZOは3月4日、ゾゾタウン内に靴専門のECモール「ZOZOSHOES(ゾゾシューズ)」を開設した。スマートフォンで足の3Dサイズを計測できる「ZOZOMAT(ゾゾマット)」での計測データを基に、顧客一人ひとりの足の形に相性のよいサイズの靴を提案する。

現状、サイズ提案される商品はNIKEやCONVERSEなどの約100アイテムのみだが、対象商品は順次拡充する方針。洋服以上にフィット感が重視される靴は、試着のできないネットでの購入のハードルが高い。サイズ面での不安を解消することで、現在ゾゾタウンの商品取扱高の1割強を占める靴カテゴリの販売を一気に拡大させる狙いだ。

「一家に一枚ゾゾマット。ご家族みなさんで共用いただけます」――。

ZOZOの創業者・前澤友作氏が2019年6月に投稿したこのツイート。ゾゾマットの予約受付開始を知らせたものである。それから8カ月余り。ようやくゾゾマットの発送が始まり、その計測データを活用した新たなサービスが始動することとなった(ゾゾマットは無料配布)。

ゾゾスーツとPBは生産中止に

無料配布、3D計測、サイズ提案――。ゾゾマットのこれらのうたい文句を聞いて思い出されるのは、2017年末に話題を振りまいた採寸用ボディスーツ「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」だろう。自宅で瞬時に全身を採寸でき、さらにぴったりサイズの商品が届くという近未来的な販売手法は、世間で大きな注目を集めた。

だがゾゾスーツは、度重なる配送遅延が発生。採寸結果の誤差を指摘する声も相次いだ。計測データを基に生産したジーンズやビジネススーツなどのPB(プライベートブランド)商品でも、「サイズが合わない」といった事態が多発した。PBの売り上げは想定を大きく下回り、1枚約1000円のコストを掛けたゾゾスーツの無料配布費用もかさんだ結果、2018年度決算は上場以来初の営業減益に転落した。現在はPBとゾゾスーツともに、生産を中止している。

これらの失敗の記憶が新しいだけに、似たようなコンセプトであるゾゾマットの展開にも不安が残る。この点について、ゾゾマットの開発を陣頭指揮してきたZOZOの伊藤正裕取締役兼COO(最高執行責任者)は今回の東洋経済の取材に対し、「ゾゾマットは万全な状態に準備してから発送している。数年かけて、『靴はゾゾで買う』という習慣を根付かせていきたい」と強調する。

相性度を算出する仕組みを開発

ゾゾマットは紙製の簡易な仕様だ。ゾゾタウンのスマホアプリを使って、マットに乗せた足を指定された方向から複数回撮影すると、足形を3D化した画像とともに、足の長さや幅、甲の高さなどがミリ単位で表示される。


無料配布のゾゾマット(左)で計測したデータを基に、相性のよいサイズの商品が提示される(写真:ZOZO

その採寸データを基に、各商品のサイズ別の「相性度」が提案されるという流れだ。相性度が高いほど、自身の足により適したサイズということになる。実際に、記者がアプリを使用して計測したところ、5分ぐらいで両足の計測が終わり、お薦めのサイズの商品が表示された。

靴の場合、例えば「23センチ」とサイズ表記は同じでも、実物の大きさはメーカーや商品シリーズによって大きく異なる。計測データと各商品のサイズをマッチングさせるため、ZOZOは独自に集めた顧客データから、似たような足の形の人が各商品のどのサイズを過去に買って満足していたかをAIに機械学習させるなどして、相性度を算出する仕組みを開発した。

「靴のサイズとの相性度を示す仕組みの構築に検証を重ねた結果、発送に時間がかかってしまった。(数百万円で販売されている)足用の3Dレーザースキャナーの計測結果と比較して誤差を縮めるなどして、計測の精度確認も徹底した」(伊藤取締役)

ゾゾスーツを無料配布した際との最大の違いは、ZOZOはあくまでサイズを提案することに徹し、靴のPBを作らないということ。伊藤取締役は「特定のブランドとの共同開発ならあるかもしれないが、完全に自社で靴を作るのはZOZOにとって“専門外”過ぎるので、ハードルが高い」と話す。

計測データを基に独自でオーダー靴を作る構想も当初はあったようだが、ZOZOには大赤字を出したアパレルPBやゾゾスーツの苦い教訓がある。PB事業の責任者でもあった伊藤取締役は、ゾゾスーツの配布を焦り過ぎたことに加え、ZOZOブランドの魅力を訴求しきれなかったことが、一連の失敗の要因だったとみる。

「ストリート系ブランドやサーファーズブランドにはブランドの世界観があって、特定の人が集まるのに対し、ZOZOというブランドの商品には、サイズ以外に欲しくなる要素を作れなかった。売り上げ計画もものすごく高かったから、事前にたくさん作ってしまい、それが思うように売れず在庫評価損もボンボンとかさんでしまった」(伊藤取締役)。

この教訓を基に、靴ではPBには手を出さないことを決断。ゾゾシューズでは、ゾゾマットを活用したサイズ提案のほか、撥水・防水やクッション性など靴ならではの検索機能を充実させ、より顧客が靴を選びやすいサービスの展開に注力するという。

世間の反響は減少

ゾゾスーツ時の多くの反省を生かして、手堅い経営姿勢が垣間見えるZOZO。ゾゾスーツほどの製造コストや送料もかからないゾゾマットは、無料配布に伴う費用が会社の利益を大きく圧迫することもないだろう。


3月4日の発表会に登壇したZOZOの伊藤取締役(中央)とタレントのMattさん(右)(写真:ZOZO

気になるのは世間の反響の乏しさだ。3月4日時点でのゾゾマットの予約数は約71万件。予約開始から半年足らずで100万件以上の注文が殺到したゾゾスーツと比較すると、消費者の多くは当時ほどZOZOの動きや新サービスに関心を抱いていないように映る。

「昨年6月のリリース以降、今日(3月4日)までほとんど宣伝をせず、こちらからあえて話題を作ろうとしなかった。急いで煽って、一度にゾゾマットを何百万人にもらっていただく必要はない。欲しい人に早いタイミングで届けて、まずは計測を増やしていく。PBの教訓もあり、配り方、盛り上げ方は考えている」と、伊藤取締役は言う。

ただ、1月末に発表したゾゾタウンの商品取扱高は、前年同期比0.3%増の約942億円(2019年10〜12月期)にとどまった。これまで商品取扱高は2ケタ成長を続けてきたが、新規会員の獲得数の伸びが明らかに鈍化している。

つれて、ZOZOの2020年3月期第3四半期(2019年4月〜12月期)決算は、売上高918億円(前年同期比2.4%増)、営業利益193億円(同6%減)と減益に。通期では売上高1360億円(前期比14.9%増)、営業利益320億円(同24.7%増)と増収増益を見込むものの、このままでは会社の計画数値は未達となる可能性が高い。

株価はピーク時から3分の1に下落

昨年9月に前澤氏が社長を退任し、ヤフー(現・Zホールディングス)傘下になった後、複数の出店ブランドからは「ZOZOの露出が減り、新規客が入ってこない。一般的なECモールのひとつになってしまった」との声も聞こえてくる。

ここ最近は株式市場での評価も厳しく、直近の株価は1500円前後と、ピークを記録した2018年7月の4875円からはおよそ3分の1に下落している。

こうした状況について、伊藤取締役は「新体制になってエンジンがかかるまでには時間を要するが、さまざまなことに挑戦するDNAは会社に濃く残っている。つまらない会社と思われるのは一番ショックなので、『やっぱりZOZOはやってくれるね』と思われる面白い会社にしていきたい」と力を込める。

手堅い経営姿勢へと転換したZOZOは、目新しさと利便性を兼ね備えたサービスを投入し続けられるか。まずは今回のゾゾシューズが、今後の展開を占う試金石となる。