【井上岳久】ココイチの「客離れ」が止まらない、“値上げ”よりも致命的な原因 強気の価格戦略も限界を迎えた

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変調のきっかけとなった「値上げ」

「ちょっとトッピングしただけで、1000円の出費は痛い……」。そんな声が至る所で聞かれるようになったカレーチェーン最大手の「カレーハウスCoCo壱番屋」(以下、ココイチ)だが、ここへきて深刻な“客離れ”が現実味を帯び始めている。

運営する(株)壱番屋が2月4日に発表した『2020年1月度月次情報』によれば、全店の売上高は100.3%(前年同期比)とほぼ横ばいとなった一方、既存店の客数は98.4%(同)と減少していることが明らかになった。

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ココイチの既存店の客数減は、今に始まったことではない。期初となる2019年3月度から2020年1月度にかけての11ヵ月のうち、対前年同期比でマイナスとなった月は、実に8ヵ月にも及んでいる。

ココイチが変調をきたした契機とされているのが、2019年3月1日に行われた「値上げ」だ。

そもそも、ココイチはこれまで、食材や人件費の高騰を理由に度重なる値上げを行なってきた。たとえば、定番メニューの「ポークカレー」は2016年12月以降、地域ごとに値上げを実施。そして昨年3月に、国内店舗のうち約8割の店舗で価格を21円(税込)引き上げられた。現在、同商品は東京23区などの都心部では505円、それ以外の地域でも484円となっている。

それでは、なぜファンからの不満をよそに、ココイチは強気の値上げ戦略をとり続けるのか。実はそのウラに、同社の明暗を分けるカレーチェーン業界の動きがあるという。

その理由について、「カレー総合研究所」代表で、カレー専門のコンサルティングを行う井上岳久氏に解説してもらった。

ここまで強気の値上げができたワケ

ココイチの価格戦略は、業界では「トッピング積み上げ方式」と呼ばれるものです。これは、ベースとなるポークやビーフなどの安価なカレーに、利益率の高いトッピングを積み上げることで、カレー単価の増加を狙う方式です。

そもそも、ココイチのカレー自体の味は、特筆して美味しかったり、独自性があるわけではありません。まさに、家庭の素朴な味をイメージした日本人が食べ慣れてる普通のカレーです。

オーソドックスな「ポークカレー」(画像:CoCo壱番屋公式HPより)

つまり、変にこだわりが存在しない分、ココイチには「まずい」「食べにくい」といったマイナス要素が付きにくいという強みになったと言えるでしょう。

さらに強みとなったのが、まさにトッピング。ココイチといえば、ご飯の量やカレーソースの辛さに加え、カツやチーズ、スクランブルエッグなどの豊富なトッピングを選び、自分好みの組み合わせで食べる仕組みが人気です。

「1億通り」と呼ばれるトッピングの組み合わせを作り出したことで、他のカレーチェーンにはない個性を生み、結果として、多くのファンを獲得することにつながったのです。

加えて、カレーとトッピングとを別建てにしていることは、消費者に対する心理的なメリットもあります。なぜなら、ベースとなるカレーだけでなく、トッピングもほぼ毎年のペースで値上げが行われていますが、消費者にとって一連の値上げ幅が非常に小さく映るからです。

昨今、外食チェーンは軒並み値上げによって客離れに苦しんでいます。しかし、ココイチはこのトッピング積み上げ方式によって、他の外食チェーンよりも客離れを抑えられたと考えられます。

他の飲食業態ではありえない

また、価格戦略以外のココイチの強みとして挙げられるのが、独自の「ブルームシステム」と呼ばれる独立支援制度。これは同社の社員をランク付けし、経営スキルを身につけるなどして一定のランクに達した社員が、自身のチェーン店を持つことができるという、“暖簾分け”のような仕組みです。

つまり、ココイチの社員は土地や資金がなくても努力次第で“一国一城の主”になれるというわけです。もちろんその分、人件費は高騰しますが、社員のやる気は意外にも売り上げに寄与するもので、これがココイチの店舗拡大に一役買ったと言えるでしょう。

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「トッピング積み上げ方式」と「ブルームシステム」。この2つによって、ココイチはカレーチェーン業界でオンリーワンの存在となりました。

店舗数にしても、売上高にしても、日本のカレーチェーンはココイチ一強と言えるでしょう。ココイチの総店舗数が現在1490店舗に対し、業界2位とみられる「ゴーゴーカレー」は約70店舗と、圧倒的な大差をつけています。

つまり、ココイチがこれまで強気の値上げ戦略をとり続けても顧客を維持できたのは、ひとえに、他の飲食業態ではありえない、ライバル不在の一強状態にあったからなのです。

ところが、ココイチ躍進の立役者である「トッピング」が、カレー業界の大きな変化によって一転、ここへきて“弱点”になりつつあります。

時代に取り残されるココイチ

ココイチのトッピングといえば、代表的なものが「ロースカツ」などの揚げ物です。特に、家庭で揚げ物もやらない若い男性にとっては、揚げたてのボリュームあるカツが気軽に食べられるとあって、これまでは人気を博していました。

しかし、今の若者は健康志向の広まりによって、カロリーの高い揚げ物を避ける傾向にあります。そもそも糖質制限食のブームなどから、カロリーを気にする人が増えた今日において、単純にカロリーアップとなるトッピングそのものが倦厭されがちです。

また、トッピングを見越して簡素化されたココイチのカレーは、飲食業界における「野菜を摂る」大きな流れに取り残されている印象も受けます。

野菜の素揚げがトッピングされたスープカレー。都心部を中心に展開する「野菜を食べるカレーCamp」に代表される炒めカレー。そして、色とりどりの野菜を敷き詰めたスリランカカレー。ここ数年でトレンドになったカレーを見ても分かる通り、カレー業界では今、“野菜”というのが一つのキーワードになっています。

スリランカカレー(Photo by iStock)

一方、ココイチのカレーは、具材が溶けてしまっているために、ご飯とカレーソースという見た目になっています。そのため、野菜感のない、栄養バランス的に物足りない印象を与えてしまっている、というのがマイナス要因の一つと言えるでしょう。

さらにここ最近、新たにココイチの立場を脅かす存在が現れました。それが「スパイスカレー」を提供する新・カレー専門店の急増です。

新たな敵「スパイスカレー」の登場

スパイスカレーとは、一言でいえば、「スパイス感を全面に強調した日本人向け創作カレー」です。そもそもは大阪からブレイクし、2017年頃には東京に進出。その後も、大阪や北海道など全国に波及し、第2次といえるカレー専門店ブームを巻き起こしています。

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スパイスカレーの特徴は以下の通りです。

1)直接、大量のスパイスを振りかけるなど、独特のスパイス使いで、スパイスの刺激がダイレクトに味わえる
2)店ごとに異なる独創性のあるカレーで、日替わりで違うカレーを提供する店が多い
3)甘・辛・酸・苦・旨味の五味を意識した、日本人の味覚に合う
4)サラダやピクルスなど副菜と一緒にワンプレートで提供、2種以上のカレーを合い盛りにすることが多い

なぜ、スパイスカレーが日本の老若男女に好まれているか。それは、スパイスを強調しつつも、お茶や山椒といった和の要素が多く取り入れられていて食べやすく、しかも見た目が華やかで「インスタ映え」もすること。さらに、栄養バランスが良いことなどが理由として挙げられます。

このスパイスカレーのブームは、結果として日本人のカレー消費に大きな影響を及ぼしました。つまり、スパイスの多様性によって、もはやカレー専門店はラーメン店並みに急増したことで、外食でカレーを食べる人は、チェーンではなく専門店を選ぶ時代に来てしまったということです。

生き残るのは「本格」か「簡便」だけ

カレー専門店の台頭によって、ココイチのビジネスモデルが限界を迎えていることは、業界の構造の変化から見て明らかです。

カレー業界はこれまで特殊なものでした。チェーンとしては決して安くなく、味も画一的なココイチがそれでも強かったのは、そもそもカレー専門店が少なく、また味を求めるにも、ホテルで提供される極端に高品質・高価格のカレーぐらいしかなかったからです。

ところがここ数年で、ファミレスや吉野家といったカレーチェーン以外の業態でカレーを安く提供する店が増えてきたことで、「安くカレーを食べたい」客層がそちらに奪われつつあります。さらに「美味しいカレーを食べたい」客層は、ココイチで1000円を出すならと、カレー専門店を選ぶようになります。

さらに、脅威は外食店に限りません。レトルトカレーや冷凍カレーのクオリティが劇的に向上し、家でも美味しいカレーが作れてしまうようになりました。すでにレトルトカレー市場は500億円規模にまで成長しています。

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こうなると、カレーの外食は2極化していくと筆者は考えます。すなわち、「本格」か「簡便」か、です。家で食べることのできないプロの味を求める人はカレー専門店に行き、手早く安価にカレーを食べたい人には、提供の早い牛丼チェーンなどやカレースタンドに行く、という流れに今後なっていくかもしれません。

明確なポジショニングをとらなかったため、中途半端な存在になりつつあるココイチ。将来、生き残るための分かれ目は、「本格」か「簡便」か、そのどちらを選ぶかにかかっているでしょう。