サイバーマンデーとブラックフライデーが、小売企業にとって大きな山場となって久しい。それだけでなく、近年ではパブリッシャーのサブスクリプション販売においても重要性を増しつつあり、今年大幅な割引を提供することで成功を収めたパブリッシャーも多い。

今年のサイバーマンデーでは、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal、以下WSJ)とワイアード(WIRED)が過去最高のサブスク販売を達成している。さらにブラックフライデーではバロン(Barron)も同様に過去最高のサブスク販売を、ニューヨーク・マガジン(New York Magazine)は割引を行うことで、4日間を通じた年間最高の売上を達成している。

読者としても、サブスクリプション契約を安く結べる期間となっている。ニューヨーク・マガジンは年間サブスクを6割引で提供した。WSJは2カ月デジタル版に無制限でアクセスできる商品を1ドル(約108円)で販売している。通常、同社の1カ月のデジタル版アクセスは35ドル(約3800円)だ。Quartz(クオーツ)とインフォメーション(The Information)はサブスクを5割引で提供した。

ニューヨーク・マガジンの消費者収益担当ゼネラルマネージャーを務めるジェイソン・シルバ氏は、「おそらく価格に惹かれてくる、低価値のカスタマーが集まるのではないか」と指摘する。「これは業界にとって悩ましい。この戦略に依存しすぎると、長期的にみてブランドに傷がつくのではないか、と業界の誰もが考えていると思う」。

大手ほど有利な状況

サブスクリプションに参入して間もないパブリッシャーからすれば、大幅な割引はEC業界における逆風に立ち向かうための武器にもなりうる。クリスマスのショッピングシーズンとECが切っても切れない関係となった現代において、より大きな恩恵を受けているのは大手の小売企業だ。Adobe(アドビ)のデータをもとにEC企業のクリスマスシーズンの売上増を比べてみると、年間収益が10億ドル(約1090億円)以上の企業で71%増、5000万ドル(約54億円)以下の企業では32%増と、伸び率に2倍以上の差があることがわかる。

大手ほど売上を伸ばしているなかで、ブラックフライデーやサイバーマンデーにおける割引率はかつてほど大きくなくなっている。Adobeの分析によれば、たとえば玩具やアパレル、テレビなどの割引が特に大きい分野でも、小売企業による割引は20%程度だったという。それと比べてパブリッシャーの割引率ははるかに大きい。

「新規参入している以上、なんらかの形で目立たなければはじまらない」と、シルバ氏は指摘する。「注目を集める一番の方法は、驚くほどのセールを展開することだ」。

両極な2つの割引事例

とはいえ、どのパブリッシャーもクリスマスシーズンに大幅な割引を行っているわけではない。たとえばニュース系パブリッシャーのデイリービースト(The Daily Beast)は今年、会員プログラムのビーストインサイド(Beast Inside)について大幅に価格戦略を変更し、標準的な割引以上に価格を引き下げないことを決定している。同社の会員マーケティングディレクターを務めるマリー・カレン氏は、調査の結果、割引を大きくすると解約率が高まることを発見し、これまで以上の割引を避けるようにしたという。

だが、ブラックフライデー(やサイバーマンデー)の割引はどの消費者でも利用できるもの、大半のパブリッシャーは割引の開始前にエンゲージメントの高い層へのターゲティングを行っている。また、両日に先駆けたキャンペーンによって大きな成果をあげたパブリッシャーも存在する。

ジャーナル(the Journal)の会員、サブスク、販売、マーケティング担当ゼネラルマネージャーを務めるカール・ウェルズ氏は、11月はじめにキャンペーンを行うとともに、3日間ペイウォールを解放した「オープンハウス」戦略を展開したという。

同社はこれによって大量の新規読者をサイトに呼び込み、データサイエンスチームがブラックフライデーの割引で契約しそうな潜在顧客の割り出しを実施した。「4週間で『通常価格では契約しないかもしれないが、興味はもっているオーディエンス』を大量に集めることができた」と同氏は語る。これにより「ブラックフライデーの前の水曜日の時点で、成功すると確信できた」という。

「この時期は、価格が重要」

大半のパブリッシャーがなるべくさまざまな場所で割引について宣伝したなかで、コンバージョン率が高かった場所についてはパブリッシャーごとに異なっている。ニューヨーク・マガジンでは、週末のコンバージョンがもっとも多かったのがインスタグラム(Instagram)の広告だったという。一方、ウェルズ氏によると、WSJではサイトを訪れてペイウォール表示を見たオーディエンスのコンバージョンが最多だったとのことだ。

商品価格を半分以下に下げるのはリスクが高いようにも見えるが、シルバ氏はこれを消費者心理を捉えるための方法と考えている。「オーディエンスの考えがどうであれ、価格によって心を掴むことができる」と、シルバ氏は語る。「カスタマーがたくさん買い物をしようとしている時期に重要になるのは価値よりも、価格であることが多いのだ」。

Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)