18日、日本陸連は来たる世界陸上ドーハ大会の代表に「内定」していた右代啓祐選手が、大会に出場できない見込みであることを記者会見にて報告し、謝罪しました。

これはアジア選手権王者として出場資格を得られるはずの右代選手に日本代表としての「内定」を出したものの、右代選手が世界陸上の参加標準記録を突破していないという状態だったことによって生じた事態でした。

多くの種目では、地域王者になった選手は「参加標準記録を突破したものとみなす」ことになっていましたが、右代選手の取り組む十種競技などいくつかの種目では「地域王者は選手のレベルに基づいて資格の有無を判断する」という但し書きが存在しており、右代選手はそれによって「資格なし」と判断されてしまったのです。

参加標準記録を突破できていなかったことで、日本代表には「内定」したものの世界陸上には出場できない見込みとなった右代選手。本人の持つ記録が大会出場に不十分なものであったためとは言え、そうした事態があり得ることを伝えられなかったのは日本陸連の落ち度でした。

そのような日本陸連ではありますが、並行してひとつのファインプレーを見せ、新たな「誤内定」の発生を防いでもいました。

15日に行なわれたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)でのこと。男子の2位でゴールした服部勇馬選手は見事に「内定」を獲得しましたが、実はこのときのゴールタイム2時間11分36秒は、東京五輪の参加標準記録である2時間11分30秒に6秒及ばないものでした。

日本代表としての「内定」は獲得したものの、このタイムでは東京五輪への出場資格は得られないため、本来であれば来年5月までに再度レースに出場し、参加標準記録を突破するか世界ランキングをあげるかして、参加資格を得る必要があったのです。

本大会へ向けた準備の時間を確保するために1年近く前に「内定」を出しているというのに、参加資格を得るために1レース余計に走らなければいけないのでは、何のための「内定」かわからなくなっていたところ。

しかし、日本陸連はあらかじめ国際陸連に働きかけ、このMGCを東京マラソンなど国内ではいくつかの主要大会だけが認定されている「IAAFゴールドラベル」相当の大会として取り扱わせることに成功していたのです。これにより、記録の如何を問わず、MGCの5位までに入った選手は、その時点で東京五輪の参加標準記録を突破したものとみなされることになりました。

まだ暑さの残るなか、ペースメーカーをつけず順位争いに注力するMGCでは、どうしてもタイムが出づらくなるもの。出場選手たちの自己ベストは参加標準記録を大きく上回るものでありましたが、実際には参加標準記録付近での争いとなりました。

もし、日本陸連の働きかけがなければ、服部選手は「誤内定」の状態であったかもしれませんし、待っていれば代表になれるかもしれないMGC3位の選手たちも参加標準記録のためにもう1レース走らなければいけなかったかもしれません。それが5位までの選手は参加標準記録のことを気にする必要がなくなった。万全を期した準備による、まさに「ファインプレー」と言える働きかけでした。

右代選手の件では批判も高まっている日本陸連ですが、選手と連盟は敵同士ではなく協力しあう仲間です。東京五輪へ向けて、一丸となった取り組みで、さらなる「ファインプレー」を見せてもらいたいものですね。

文=フモフモ編集長