久保建英(18) 173cm、67kg。マジョルカ所属。 2011年8月にFCバルセロナの下部組織入団。その後、2015年に帰国し、FC東京の下部組織とトップチームで活躍。卓越した足元の技術とボールを運ぶ際のバランスの良さが持ち味 photo/Getty Images

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世界屈指のメガクラブの目に止まった久保建英

 空前の売り手市場である。

 これほど多くの日本人選手が、同時期にヨーロッパへ移籍したことはかつてなかった。それも、日本人が優良銘柄として評価されているドイツばかりでないのである。

 アジア人のヨーロッパ進出は、代表チームの影響を受けるものだ。昨夏のロシアW杯でアジア勢唯一のベスト16入りを果たし、ベルギーをギリギリまで追い詰めた日本サッカーは、ここから相場が上昇していった。

 ロシアW杯と前後して、17年にはU−17W杯とU−20W杯に出場した。U−20W杯には5月末開幕の今回も出場し、ベスト16入りした。10月末開幕のU−17W杯には、アジア王者として登場する。ショーケースとなる大会にこれだけ出場していれば、日本人の若手がヨーロッパのクラブのスカウト網に引っ掛かるのも当然である。

 今夏の移籍でもっとも話題を集めたのは、久保建英のレアル・マドリード入りだろう。

 ジネディーヌ・ジダン率いる世界屈指のメガクラブが、18歳になったばかりの日本人選手をなぜ獲得したのか? 即戦力として考えるのは、さすがに無理がある。

 久保は加入直後の北米ツアーに帯同したが、その後はスペイン3部で戦うB相当のレアル・マドリード・カスティージャに軸足を置くこととなった。他クラブへのレンタルも噂されるが、ここまでの評価は悪くない。

 バルサの育成組織で揉まれ、スペイン語を自在に操り、今シーズンのFC東京で出色の出来を見せていたことは、R・マドリードの関係者も分かっていたはずである。ただ、日本からやってきた少年は、クラブの想定をはるかに上回るレベルを示していると考えられる。

 技術的に優れているのは、言うまでもない。そのうえで彼は、ゲームの流れを読むビジョンに優れている。その時々で必要なプレイを、慌てることなく、無理なく、正しく選択することができている。換言すれば、自分が責任を持つべき局面──仕掛けたり、シュートしたりするべきなのか、それともチームメイトを使うべきなのか、のチョイスに間違いがないということである。

 自分で責任を取る覚悟があり、周囲と協調することもできる。世界のトップ・オブ・トップで戦っていくうえで必要な、健康的なエゴイズムを身に付けているのだ。久保が見せるプレイ選択のバランスは、R・マドリードというチームの一員にふさわしい。もちろん、左利きであることも魅力だ。

 忘れてはならないのは、まだ加入1カ月強しか経っていないことだ。久保はチームメイトのすべてを理解していないだろうし、チームメイトも久保の特徴をつかみ切れていないはずだ。選手同士の理解は、実戦を通してこそ深まっていく。

 そう考えると、彼はまだ助走期間にいる、ということができる。ラウール・ゴンサレスが指揮するカスティージャが主戦場となっても、1部の他クラブへレンタルされるとしても、右肩上がりに成長していくだろう(編注:その後1部のマジョルカへローン移籍)。

海外初挑戦のアタッカー2人。期待のCBはステップアップへ

 レアル・マドリードの仇敵FCバルセロナにも、日本人選手が誕生した。安部裕葵だ。久保と同じように彼も、トップチームではなくバルセロナBからスタートを切る。

 バルサ側は「以前から追跡していた」と説明した。安部を追いかけるきっかけは確かにあった。

 たとえば、17年7月の鹿島対セビージャ戦である。当時プロ入り1年目の安部は後半途中から出場し、得意のドリブル突破でゴールをおぜん立てした。翌18年にはクラブW杯準決勝で、R・マドリードと対戦した。バルサからすれば評価をしやすい試合で、持ち味とする仕掛けの姿勢をアピールしていたのである。

 日本代表として出場したコパ・アメリカでも、気持ちの矢印を前へ、前へと向けていた。うまいだけの選手は通用しないのが国際舞台であり、ブラジルで見せたパフォーマンスはバルサの評価をさらに押し上げるものになったのだろう。

 鹿島でサイドアタッカーを務めてきたこれまでは、攻撃の切り込み役として評価を高めてきた。バルサBの一員となった今後は、自ら決め切ることも必要になってくる。外国人アタッカーの評価基準として、ゴール数は何よりもわかりやすい。

 サイドアタッカーではなくストライカーとなれば、得点は目標ではなくノルマである。ポルトガル1部のマリティモに期限付き移籍した前田大然も、求められるのはゴールだ。

 松本山雅FCでの彼は、国内屈指のスピードスターとして存在感を発揮してきた。ディフェンスラインの背後を狙うランニングが攻撃に奥行きをもたらし、守備でもハードワークする献身性が松本山雅を、U−22日本代表を助けてきた。コパ・アメリカで2列目右サイドで起用されたのも、運動量と守備力を買われてのものだった。

 マリティモでの前田に求められるのは、チャンスメイクだけではなくゴールだ。その意味で、8月11日のリーグ開幕戦は好印象を抱かせた。

 後半途中から出場すると、クロスバー直撃のヘディングシュートを放った。ゴールへの意欲を結果へ結びつけていくことで、自身の未来は切り開かれていく。

 欧州で最初のシーズンを過ごす3人とは対照的に、冨安はステップアップを果たした。ベルギー1部のシント・トロイデンから、イタリア・セリエAのボローニャへ移籍したのだ。

 身体能力に恵まれた伸び盛りのセンターバックには、最高の移籍と言っていい。イタリアのサッカーには、守備の文化が隅々まで行き届いている。財政基盤を整えてリーグ内の中堅から上位へ躍り出ようとしているクラブで、対人プレイの強さをさらに磨き上げることができるはずだ。

 同時に、アタッカー陣を充実させたクラブでは、マイボールの局面での組み立ても求められていくだろう。攻撃のスイッチとなる縦パスにも特長のある冨安は、攻守両面でレベルアップできる環境だ。

 外国人選手としてプレイする彼らは、勝敗に影響を及ぼすプレイを求められる。飛躍へのスタート地点に立った4人の成長は、来夏の東京五輪と22年のカタールW杯に直結する。

文/戸塚 啓

※電子マガジンtheWORLD No.236、8月15日発売号の記事より転載

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