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幻の高性能モデル オリジナルパーツで

ベントレーの特別製作部門であるミュリナーが、1939年に1台だけ試作されたものの、爆撃に遭って焼失してしまった高性能サルーン「コーニッシュ」を完璧に再現した車両を完成させた。

フランスの湾岸道路から名付けられたコーニッシュは、当時のベントレーMKVサルーンをベースに、ドライバーのための高性能バージョンとして1939年に製作された。

1939年に1台のみが製作されたベントレー・コーニッシュ

MKVからの主な変更点は、軽量鋼を使った軽量シャシーに架装された流線型のボディパネル、オーバードライブ付きギアボックス、そしてチューンアップされた4.5L直列6気筒エンジンなどが含まれる。

1939年5月に完成したコーニッシュは、ブルックランズ・サーキットで行われた速度試験で100mph(約161km/h)を超える速度を達成したが、フランスの公道でクラッシュして大破。フランスでボディを修復し、ディエップ港で英国に輸送されるのを待っている間にドイツ軍から爆撃を受けて焼失してしまった。

1台しか製造されなかったコーニッシュが消滅してしまったにもかかわらず、予備のパーツはそのまま将来のモデルのために保管され続けていた。そのため、ベントレーはこれらのオリジナル・パーツを使って、コーニッシュを復元することができたのだ。

多くの従業員がプライベートな時間を割いた

このプロジェクトの開始は2001年。かつてベントレーでディレクターを務めていたこともあるケン・レアとエンスージアストたちは、残されたオリジナル・パーツや設計図を使ってコーニッシュの再現を計画する。

資金難に陥ったこのプロジェクトは、2008年にベントレーから資金援助を受ける。それでもなかなか進展せず、同社の会長兼CEOに就任したエイドリアン・ホールマークの要請で、このプロジェクトはベントレーの社内で引き継ぐことになった。

オリジナルのパーツと図面を使用

ミュリナーが中心となって作業を進めたものの、ベントレーによれば他部門を含む多くの従業員がプライベートな時間を費やしてコーニッシュの復元に取り組んだという。

オリジナルの図面から手作業で復元

シャシーは英国クルー工場に残されていた1939年製のオリジナルがベースになっているが、アッシュ製のフレームやインテリア、アルミニウム製のボディは新たに製作されたという。

ボディパネルは、オリジナルのデザイナーだったジョージ・ポーリンの家族から提供された図面を基に、現行モデルのミュルザンヌのボディワークを手作業で形成しているチームが、その技術を活かして作り上げた。

特徴的なフロントグリル

インテリアは同時代に使われていたコノリー製レザーや生地を使用。ウインドウ周りの木材を曲げるために専用のスチームブースが考案され、その中で1時間以上もかけて作業が行われた。

特徴的なフロントグリルは、熟練の金属加工職人が3カ月かけて完成させたという。そのスラットはエアフローを計算しながらCADを使って設計された。

オリジナルと同様、エンジンはMKVから流用した4.5L直列6気筒をベースに、圧縮比を高め、大径キャブレターや改良されたインレット・マニフォールドを組み合わせるなどのチューンが施されている。

レストア技術の証明 世界各国で展示

ベントレーの広報担当者は、コーニッシュの復元が「われわれに複雑なレストレーションを行う技術があることを証明するもの」であると語り、今後も同じようなプロジェクトに取り組む可能性を示唆した。

2019年に創立100周年を迎えたベントレーはこれを祝い、数々の特別限定モデルを発表したり、記念イベントを主催している。

ベントレー レストア技術の象徴

再生産されたコーニッシュは、9月に英国のブレンハイム城で開催される「サロン・プリヴェ」で初公開される。その後はバーキン卿のブロワーやW.O.ベントレーの8.0Lレーサーなどの歴史的モデルとともに、世界各国のイベントで展示される予定だ。