ドイツの大手パブリッシャー4社が、テック系プラットフォームへの対抗策として提携を進めている。

独メディアコングロマリット企業のアクセル・シュプリンガー(Axel Springer)とフンケ・メディエングルッペ(Funke Mediengruppe)の共同販売組織、メディアインパクト(Media Impact)は、同じく超大手のRTLグループ(RTL Group)とグルーナー+ヤール(Gruner+Jahr)と提携した。これにより4社のインベントリーを合わせて販売する、強固な連盟関係が誕生することになる。

RTLグループとグルーナー+ヤールのポートフォリオには、ビルト(Bild)やベルト(Welt)、Business Insider(ビジネスインサイダー)といった大手のニュースタイトルに加えてディー・アクチュエレ(Die Aktuelle)などの雑誌も名を連ねる。独オンライン測定団体AGOFによると、メディアインパクトのオンラインのリーチは、この2社が加わったことで月間ユニーク訪問者数で5000万に達するという。統計調査企業のスタティスタ(Statista)によると、Facebookのドイツにおける月間ユニーク訪問者数は4000万人だ。

フンケ・メディエングルッペは8カ国で500以上のタイトルを発行している。さらに、ニュース週刊誌であるデア・シュピーゲル(Der Spiegel)を発行するシュピーゲル・メディア(Spiegel Media)も、ステークホルダーではないものの、同連盟に参加している。グルーナー+ヤールはシュターン(Stern)やジオ(Geo)など、主力となる週刊誌を抱えている。

メディアインパクトの目標



メディアインパクトの目標は、メディアエージェンシーや広告主が、プラットフォームではなく同団体へ投資するよう積極的に促すことだ。今後メディアインパクトの参加各社は、パブリッシャーとの直接取引を望むメディアエージェンシーや広告主と交渉し、それに基づく年間契約を結んでいく見通しとなっている。

メディアインパクトの取締役会長を務めるカーステン・シュベッケ氏は、「(販売企業間における)ここまで大規模な提携はこれまで考えられなかった」と語る。同氏は、プラットフォームに奪われたデジタル広告予算のシェアを取り戻すには、パブリッシャー大手間で提携するのが最良の方法だと強調する。

「GoogleやYouTube、Facebookはこれからも成長が予想される。今回の協力的枠組みによってシェアを取り戻したい。独市場ではAmazonも成長を続けており無視できない存在だ。メディアインパクトは我々の将来的な成長の礎として、適切なリーチと関係性、サービス、最高の広告品質を適切に組み合わせて、広告主とエージェンシーに提供していく」。

同団体はいまのところメディアエージェンシーと広告主に新たなチャンスとして売り込み、年間契約料の交渉を進める予定だという。実際にエージェンシーが参加すれば、パブリッシャー各社が技術インフラ計画にゴーサインを出すと見られている。メディアインパクトは9月に開催されるデジタル業界カンファレンス「dmexco(ドメキシコ)」で商品を披露する予定だ。シュベッケ氏は、2020年までに高精度なターゲティングに求められるデータ、そして技術面を市場投入できるレベルにするとしている。

他国の競合団体との違い



たとえば、英パブリッシャーとテック系連盟のオゾン(Ozone)は、ガーディアン(Guardian)やテレグラフ(Telegraph)などのパートナー全体に広告を行き渡らせるための技術プラットフォームを有しているが、メディアインパクトはこの取り組みでこうした競合団体とも一線を画す存在になる。ドイツにはほかにも、アクセル・シュプリンガーのベリミ(Verimi)やRTLグループとプロジーベンザット1(ProSiebenSat.1)が率いる放送局連盟(broadcaster alliance)などの連盟が存在する。だが、両連盟とも参加企業の全ユーザー向けにシングルサインオンの提供、データ保護法、GoogleやFacebookのログインデータベースへの対抗を目的としており、メディアインパクトとは大きく異なっている。

メディアインパクトの目的はどちらかといえば、技術的な大規模ジョイントベンチャーにリソースと資金を投じる前に市場に需要があるか、そして特定の需要があるかを確認することにある。そして次の段階として、メディアインパクトのデジタル部門は20から50人の社員に連盟関係の業務を割り当てる予定だ。

GoogleとFacebookがここまでデジタル広告資金を集めているのは非常に優れた広告ターゲティング能力によるもので、パブリッシャーはこれまでこうした面で遅れをとってきた。シュベッケ氏はジョイントベンチャーによってデータのターゲティングという面ではプラットフォームと競える位置にまで達するのは間違いないとしている。だが、メディアインパクトが売りにしているのは高レベルのブランドセーフティと広告の中身に沿ったターゲティングとなっている。いずれも、FacebookやYouTubeなどのプラットフォームのブランドセーフティやフェイクニューススキャンダルに苦しめられてきた広告主が求めているものだ。

RTLグループとグルーナー+ヤールは3年前にパブリッシャー連盟の基礎を築いており、そこでの成功はメディアインパクトにとっても追い風だろう。両社がほかのパブリッシャーに門戸を開き、アクセル・シュプリンガーとフンケ・メディエングルッペが参入したのはごく最近のことだ。

かつてないほど密な協力関係



使い勝手がよくリーチでも優位に立つプラットフォームにドイツのパブリッシャーが対抗するためには、協力関係は不可欠となっている。グルーナー+ヤールの元役員で、現在ハンブルグを拠点とするパブリッシャーコンサルタントのオリバー・フォン・バーシュ氏は、「ドイツでは、パブリッシャーの販売組織がかつてないほど密に協力関係を築いている。市場シェアがFacebook、Google、Amazonに集中し、広告資金の流入が増え続けているためだ」と語る。

続けて同氏は、現在ドイツのパブリッシャー業界にはおよそ20の販売組織があるが、プラットフォームの圧力が強まっていくなかで小規模な組織は市場で押しやられて消滅していくおそれがあると指摘し、次のように述べた。

「今回の連盟が画期的なのは、ドイツの販売組織上位5社のうち4社が密に連携しているという点で、これによってドイツで最大の販売プラットフォームになった」。

アクセル・シュプリンガーとフンケ・メディエングルッペのデジタルインベントリーは一括購入できるほか、プログラマティック購入も直接購入も可能となっている。また、RTLグループとグルーナー+ヤールは、テレビCMおよび印刷媒体のインベントリーを提供している。

Jessica Davies(原文 / 訳:SI Japan)