【ワシントン岡信吾】茂木敏充経済再生担当相と米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は当地で13日(日本時間14日)、貿易協定交渉に臨んだ。農産品、工業製品の事務レベル協議を増やすことで一致。課題を絞り込み、政治判断の場となる閣僚協議につなげる。今後、個別の品目の交渉が本格化する見通しだ。茂木担当相は「参院選後に早期に成果を挙げたいことでは一致をしている」と述べた。成果を示す時期を参院選後と言及したのは初めてとみられ、今後議論を呼ぶ可能性がある。

 通訳だけを交えた一対一の会談を含め、約3時間協議した。環太平洋連携協定(TPP)の水準を念頭に、米国は牛肉や豚肉など農産品の市場の早期開放を迫り、日本側は自動車・同部品など工業製品の関税削減・撤廃を求め、従来からの平行線の議論が続いた。茂木担当相は協議後の会見で、両国の立場の違いについて、「理解は深まった」と述べるにとどめた。

 今回は、双方の主張の溝をどう埋めるかが焦点だった。10、11の両日開いた事務レベル協議を今後も続け、閣僚協議に委ねる論点を絞り込むことで一致した。今後、農産品の重要品目や自動車・同部品などを互いの閣僚レベルで協議する見通しだ。

 ライトハイザー氏は、これまで米国側の交渉を自身が一手に引き受ける方針だったため、事務レベルでの協議に難色を示していた。だが、早期の成果に向けて一定程度歩み寄った格好だ。

 トランプ米大統領は、今月末に大阪市で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議のために来日し、安倍晋三首相と会談する予定。茂木、ライトハイザー両氏はその前に閣僚協議を開き、両首脳が確認する内容を話し合う。閣僚協議に先立ち、農水省、経済産業省が参加する事務レベル協議を再度開く方向で調整している。

 合意時期を巡っては、トランプ氏が5月末の日米首脳会談時、参院選後の8月に「両国にとって良い内容が発表できると思う」と発言した際、野党は「期限ありきだ」などと反発していた。

 茂木担当相の「参院選後」の発言を巡り、与党農林幹部は「選挙は関係ない」と苦言を呈す。野党農林幹部は「選挙前に出せない内容があるとしか考えられない」と批判しており今後議論になる可能性がある。

<解説> 急ぐ理由見当たらず


 日米貿易協定交渉は、事務レベル協議を深める方向で一致した。互いの主張の応酬にとどまっていた段階から新たな局面に進む。個別品目の交渉が具体化し、早期合意を目指す米国側の思惑で交渉が急加速する可能性もある。今月末に予定される首脳会談に向けて両国の協議は加速度を増す。安易な譲歩を招かないよう、日本政府は毅然(きぜん)とした対応を取る必要がある。

 貿易交渉は事務レベルで論点を絞り込み、政治判断に委ねる項目を閣僚で協議するのが一般的。だが、日米交渉がそうした形になっていなかったのは、USTRを率いるライトハイザー代表が閣僚協議に固執していたためだ。最後まで閣僚でせめぎ合った上で、有利な合意に導いた北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉などの成功体験が背景にある。

 米国を“常道”に引き入れたことに日本側は手応えを示すが、引き続き難しいかじ取りを迫られている。急ぐ理由のない日本には慎重な交渉が求められるが、トランプ大統領が業を煮やせばどんな強硬措置を用意するかは予測不能だ。工業分野で米国がかたくなな姿勢を見せる中、日本が勝ち取れる成果はあるのか。不透明となっている。

 6月末に予定される首脳会談は、異例の3カ月連続となった会談の締めくくりとなる。交渉の成果を「7月の選挙後」として、安倍政権に配慮したトランプ氏にとって、大統領選本格化に向けた見せ場ともいえる。会談までに再び開く事務レベルと閣僚の協議で、日米の神経戦はなお続くことになる。