“アイスの王”スーパーカップ人気の秘密
■ケーキよりもダントツにアイスが「1番好き」
気温の高い日は、冷たい飲食物が恋しい時季となった。
日本アイスクリーム協会が発表する「アイスクリーム白書2018」では、「好きなスイーツ(お菓子)のトップはアイスクリーム」で45.4%。2位のケーキ・シュークリーム(21.8%)、3位のチョコレート(15.9%)にダブルスコア以上の差をつけた(2018年10月24日〜30日。全国10代から60代、各年代の男女各100人。合計1200人のインターネット調査)。
業界団体の数字なので、少し割り引く必要があるが、「アイスが苦手」という人にほとんど会わないのも事実だ。近年は、若い世代は「風呂上がりのビールではなくアイスを好む」という話も聞く。昨年、近畿地方のメーカー取材時に、そのことを伝えたところ「ウチの20代の息子はまさにそうだ」(50代の部長)という声も耳にした。
スーパーやコンビニで気軽に買える「家庭用アイス」の市場規模も年々拡大しており、2017年度には「5000億円」の大台を突破した。
■売れ筋1位は明治「明治 エッセルスーパーカップ」
順位 | 2017年売れ筋トップ10 | メーカー名 | 金額 | 伸長率 | 2016年売れ筋トップ10 | メーカー名 | 金額 |
1 | 明治 エッセルスーパーカップ | 明治 | 245億円 | 107% | 明治 エッセルスーパーカップ | 明治 | 250億円 |
2 | パピコ | 江崎グリコ | 172億円 | 111% | モナカジャンボシリーズ | 森永製菓 | 160億円 |
3 | パルム | 森永乳業 | 171億円 | 107% | パルム | 森永乳業 | 160億円 |
4 | モナカジャンボシリーズ | 森永製菓 | 170億円 | 106% | ガリガリ君 | 赤城乳業 | 155億円 |
5 | ガリガリ君 | 赤城乳業 | 147億円 | 95% | パピコ | 江崎グリコ | 155億円 |
6 | ピノ | 森永乳業 | 137億円 | 101% | ピノ | 森永乳業 | 135億円 |
7 | クーリッシュ | ロッテ | 108億円 | 117% | ジャイアントコーン | 江崎グリコ | 101億 |
8 | ジャイアントコーン | 江崎グリコ | 104億円 | 103% | 爽 | ロッテ | 98億円 |
9 | 爽 | ロッテ | 97億円 | 99% | クーリッシュ | ロッテ | 93億円 |
10 | 雪見だいふく | ロッテ | 86億円 | 106% | 雪見だいふく | ロッテ | 82億円 |
11 | モナ王 | ロッテ | 80億円 | 102% | モナ王 | ロッテ | 78億円 |
1515億円(103.2%) | 1467億円 |
※2017年4月〜2018年3月 アイスクリームプレス社推計。「明治 エッセルスーパーカップ」は、取引制度(決算方法)の変更を行ったことで発表値が減少。単純前年比では265億円。
単一ブランドの中で、圧倒的な人気を持つのが「明治 エッセルスーパーカップ」(明治)だ。年間売上高は200億円を超え、「パピコ」(江崎グリコ)や「パルム」(森永乳業)など2位グループ(約170億円規模)に大差をつける。しかも、この構造は長年変わらない。
■売り上げ減が続いていたが、「アイス総選挙」後に再ブレイク
2018年7月8日、「アイス総選挙」というテレビ番組が放送された(テレビ朝日系)。“国民1万人がガチで投票”とうたった上で、圧倒的1位を獲得したのが「明治 エッセルスーパーカップ」の「超バニラ」だった。獲得ポイントは5万ポイント超、2位以下に2万ポイントもの差をつけた。単なる情報番組といえばそうだが、ブランドにとっては救世主だった。
「実はそれまで、明治 エッセルスーパーカップ全体の売り上げが前年を下回る月が続きました。当部の事業で屋台骨を支えるブランドなので、危機感が漂っていたのです。それが番組放送後は注文が殺到し、それ以降、前年を大幅クリアする状況が続いています」
マーケティングを担当する松野友彦氏(株式会社明治 マーケティング本部・フローズンデザートマーケティング部 フローズンデザートグループ)は、こう明かす。番組のスタジオ収録に参加した松野氏にとっても、勝利の美酒を注がれたような瞬間だった。
■ラクトアイスなのに「バニラの王道」
「明治 エッセルスーパーカップ」が発売されたのは1994年で、まもなく誕生25年を迎える。商品パッケージには、白いバニラアイスに青の波(ブルーウェーブ)を配置。圧倒的に強いブランドなので、一目見て「エッセル」と分かる視覚性だが、実は昭和の高度成長期に大人気だった「雪印バニラブルーアイス」以来、白と青はバニラアイスの伝統配色といえる。
それとともに、筆者が興味を持ったのは「バニラの王道」の6文字だ。2005年から掲げているそうだが、「ラクトアイス」のスーパーカップが主張するのが面白い。
実は“アイス”商品は、日本では乳固形分や乳脂肪分によって以下の4種類に分けられる。
(1)「アイスクリーム」(乳固形分15%以上、うち乳脂肪分8%以上)
(2)「アイスミルク」(乳固形分10%以上、乳脂肪分3%以上)
(3)「ラクトアイス」(乳固形分3%以上、乳脂肪分は問わず)
(4)「氷菓」(上記以外)
「明治 エッセルスーパーカップ」や「パピコ」は、(3)のラクトアイス。3位「パルム」は、(1)のアイスクリームに属する。4位「モナカジャンボシリーズ」(森永製菓)は、(2)のアイスミルクだ。商品単価は低いが、年間販売本数は圧倒的に多い「ガリガリ君」(赤城乳業)は、(4)の氷菓となる。
近年の調査データでは(1)〜(4)それぞれが伸長傾向にある。つまり、消費者は種類別を気にせず“アイス”を楽しんでいるのだ。
■四半世紀続く人気の秘密は「お得感」
25年前の発売間もなくトップブランドとなり、以後、一時的に2位となった時期を除き、エッセルは、ほとんどトップの座を譲らない。なぜ人気が落ちないのだろう。
「発売以来、ブランドの軸足を変えないのも大きいと思います。たとえば内容量は『超バニラ』など定番品はずっと200ml。これだけの容量だと、乳脂肪分が多いと食べ飽きるかもしれませんが、ラクトアイスなのでコクやキレがある。時代性や消費者の嗜好の変化とも向き合い、リニューアル時に成分を微調整する時もありますが、壁板1枚を慎重に取り払うような思いで変更します」(松野氏)
発売時は、当時の「150mlで100円」のアイスの常識を破ろうと「200mlで100円」にした。濃厚で量も多い商品にするため、「乳脂肪ではなく植物性脂肪13%と卵黄脂肪でうまみを出した」。そうした基本設計を変えないことで、「安い・デカイ・ウマイ」を訴求し続けている。現在のメーカー希望小売価格は140円(税別)だが、消費者に割高感はないようだ。
当時も今もコアターゲットは中学生、高校生だ。筆者の仕事仲間の男性カメラマン(30代)は、「発売時は中学生で、野球部の部活後にみんなで食べていた」と話す。現在はスーパーなど量販店の売り上げが6〜7割、残りの3〜4割がコンビニだという。
■「超バニラ」が圧倒的に売れる理由
「定番の『超バニラ』『抹茶』『チョコクッキー』の3品に、シーズンフレーバーを加えて展開してきました。中でも『クッキーバニラ』、『チョコミント』は特に人気となっています」
こう松野氏は説明するが、定番の人気も大きくは変わらない。人気ベスト3は「超バニラ」「チョコクッキー」「抹茶」の順で、大まかに言って2位の4倍、「超バニラ」が売れるという。なぜ、ここまで日本の消費者は「バニラアイス」が好きなのか。
「日本では『アイス=バニラ』のイメージが強いのと、バニラアイスは単体で味わうだけでなく、何かのアレンジを加えて食べられるからではないでしょうか」(松野氏)
「チョコミント」は、明治のお客さま相談室にも『ぜひ出してほしい』と要望が多い商品で、清涼感もあり夏向きの商品だという。また「クッキーバニラ」は、同ブランドのシーズンフレーバーで歴代最高の売り上げを記録した。以来、時期になると登場することが多い。
ちなみに松野氏のおススメの食べ方は、ウイスキーなど洋酒を少しかけること。「高級スイーツ感が増す」という。
■“プチぜいたく”のトレンドも意識
2019年3月25日、「明治 エッセルスーパーカップSweet's フルーツタルト」を発売した。
「一番下にクリームチーズ風アイスを敷き詰め、その上にバタークッキー、ヨーグルト味のアイス、そして一番上に5種類の果実を使用したフルーツソースを乗せました」(同)
「フルーツタルトの味わい」と層状アイスならではの「味わいの変化が楽しめる」商品だという。分量は172ml、メーカー希望小売価格は220円(税別)とした。
取材前、近くの小売店で198円(税別)で売られていたので購入。仕事仲間と食べてみた。「エッセルの先入観とは違うおいしさ」という声が上がった。筆者は「色白がウリだった人が、トロピカルなウェアをまとった」感を持った。
同シリーズの定番フレーバー「苺ショートケーキ」も、同時期にリニューアル発売されたが、シリーズ名のとおり「スイーツ」を意識した商品だ。松野氏の視線もアイス市場を見ながら、スイーツ市場を意識しているようだ。
エッセルは、2015年に「メーカー希望小売価格を120円から130円に改定しても数量が落ちなかった」。同年は多くの競合他社が値上げに踏み切ったが、消費量は落ちず、業界では「消費者に値上げが認められた」と受け止められた。今回の200円を超えるアイスは、家庭用アイスとしては高級品だが、ケーキなどのスイーツとしては割安感もある。
定番品(既存事業)が好調なうちに、新商品(新規事業)で上乗せを図るのはビジネスの王道だ。春夏らしい商品と価格帯を、消費者がどう受け入れるかも見続けたい。
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経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト 高井 尚之 写真提供=株式会社明治 写真=iStock.com)