氷川きよし 撮影/廣瀬靖士

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ついに2019年4月末で平成の時代が終わる。平成の世を彩り、輝きを放ったスターはそのとき何を思い、感じていたのか? 当時と今、そしてこれからについてインタビューで迫っていくこの連載。8回目は演歌歌手の氷川きよしさん(41)です。

Vol.8 氷川きよし

 ’19年4月30日をもって、31年にわたる“平成”が幕を閉じる。平成が生んだ国民的演歌歌手は、時代の岐路に何を思い、どんな展望を抱いているのか?去りゆく時代を振り返る。

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平成18年『一剣』でレコード大賞

 きよしくんはデビュー以来、年に2枚のシングルをリリースしていたが、デビュー7年目の平成18(’06)年は『一剣』のみ。

「ファンのみなさんが“年末にいい結果になるように”と応援してくださり、スタッフの方も頑張ってくださって」

 オリコンのランキングには、50週以上も入り続けた。そして12月30日、きよしくんは『第48回日本レコード大賞』の大賞に輝いた。いうまでもなく歌謡界最高峰の賞であり、さらに演歌歌手の受賞は13年ぶりだった。

「夢のようなすごい結果となりました。うれしさ以上に、“これから、どうしよう”という気持ちのほうが大きかったです。

 “レコ大とってすごいだろう”って威張りたくなるものかと思ったけど、浮かれる気持ちなんて全然なかった。むしろ、もっともっと謙虚でなくちゃいけないと思いました。そう思える経験をさせていただいて、本当にありがたいです。

 受賞はやっぱり、ファンのみなさんが作品を応援してくださったおかげですから」

 このときのきよしくん以降、大賞を受賞した演歌歌手はまだ現れていない。

平成20年『NHK紅白歌合戦』で大トリ

「すごいプレッシャーでしたね。本番1週間くらい前に、スポーツ紙に“氷川きよし、大トリ”って書かれているのを、事務所のスタッフから手渡されて。“ええっ!”って仰天しましたね」

 その後、本番までそのスポーツ紙を自分の部屋に貼っていたという。

「責任感と緊張感を持たないと。風邪をひいたりして、穴なんてあけたら大変なことになるから。ずーっと寝られなかったですね。どれだけのパフォーマンスが自分にできるのか、と考えるとドキドキして……」

 挑んだ本番も、やはり緊張でガチガチだったという。

「数多くいらっしゃるスターの方々が歌ったあとに、自分が歌って、そこを(みなさんに)囲んでいただくことは、すごいプレッシャーでした。でも、本当にいい経験をさせていただきました」

 31歳のきよしくんが涙ながらに歌った『きよしのズンドコ節』。日本中がもらい泣きをした平成20(’08)年の大みそかだった。

平成の始まりは美空ひばりさん

 平成の始まりは、’89年1月9日。きよしくんは、福岡市の小学校に通う5年生だった。

「平成元年に美空ひばりさんが亡くなられて、大々的に報じられていたのをよく覚えています。ひばりさん、福岡の病院に入院されていたんですよね。当時は、まだ演歌のことがわからなかったんですが、“すごい方が福岡に来られていて、そして、お亡くなりになったんだな”と、子ども心に感じたのをすごくよく覚えています」

 きよしくんの小学校の卒業アルバムには、新元号“平成”を掲げる小渕恵三官房長官(当時)の写真も掲載されているという。

「どんな子だったか? 今となっては笑い話ですけど、ものすご〜く内気で。中学までは友達がほとんどいなかったんです。でも高校に入って、本格的に歌をやるようになってから友達ができたんです。

 歌の仲間と、歌の話ができるようになって。僕は、歌によって本当に支えられ、救われ、人生を引き上げてもらった。歌が、自分の悲しみや苦しみを喜びに変えてくれたんです」

運命の出会いを果たした平成5年

 きよしくんと演歌。その運命的な出会いは、平成5年。16歳のときだった。

「高校の芸能講座で、歌の先生……おじいちゃん先生なんですけど、“演歌を歌ってくれんかね?”って言われて。“演歌、わからないんですけど”って断ったら、とても悲しそうな顔をされて。乗り気じゃなかったけど、気の毒に思えて“勉強して、覚えてみます”と言ったのが始まりだったんですね」

 おじいちゃん先生の気持ちに応えたい……。持ち前の優しさと素直さが、もしなかったら、“演歌歌手・氷川きよし”の誕生もなかったかもしれない。

やっぱり時代と自分の人生を
歌っていきたい

「平成という時代に育ち、平成の中で歌と出会って、演歌と出会って。そして、自分の人生の道を拓いてくれたのが、やっぱり平成だと思っています」

 平成から令和へ。新元号が発表された4月1日、仕事の打ち合わせをしていたきよしくんはテレビの報道で知ったという。

「まだなじみがありませんけど、平成を迎えたときと同じように、きっとこの元号に慣れるんでしょうね」

 と、穏やかな微笑みを浮かべた。

「これからやってくる令和の時代に、どんな自分を見つけられるのか楽しみです。やっぱり時代と自分の人生を歌っていきたい。喜び、悲しみ、苦しいこと、悩んだこと……自分が歩んできた人生の経験も全部、歌に変換していきたい。

 そして、聴いてくださる方々を励ませたらいいなと思うんです。誰にでも自分らしく生きる権利がある。そんな思いを発信し、伝えていける歌い手でありたいです」

 新たなる覚悟をもって、前に進むきよしくん。その歌声は令和の世も席巻し続ける……。

『氷川きよし特別公演』
【場所】新歌舞伎座
【期間】5月18日(土)〜27日(月)
【演目】第一部『母をたずねて珍道中 お役者恋之介旅日記』
    第二部『氷川きよしコンサート2019 in新歌舞伎座』
【料金】S席1万6000円、A席1万円、B席8000円
    特別席1万8000円、きよシート2万円(税込み)