就活「超売り手市場」の終焉 〜先輩からのフェイクニュースに気をつけろ!/増沢 隆太
・超売り手市場で余裕の学生
私が大学教員として、学生のキャリア支援に関与し始めた15年ほど前、やはり人手不足が言われる環境でした。しかしその後世界を襲ったリーマンショックは、超氷河期と呼ばれる破壊的衝撃を就活に与えたのでした。
ひるがえって今、2020就活と呼ばれる、現学部3年・修士1年の大学生、大学院生の就活状況を一言で言えば、やはり超売り手市場。圧倒的優位な立場にある学生本意の就活といえるのは確かです。ではすべての学生はラクラク就活をやっつけているのでしょうか?
私が行っている大学のキャリア相談は、年明けとともにほぼ毎回全枠が予約で満杯状態となっています。その他個人指導の依頼など含め、多くの大学のキャリアセンター相談は、たくさんの学生で埋まっています。また3/1が始まったばかりですが、悲痛な面持ちで相談に訪れる学生は引きも切らない状態。エントリーシート(ES)が通らず、志望先を早くもあきらめようという学生もいます。
超売り手市場なのになぜでしょう?
・ガラガラの就活セミナーや説明会
大学や就活情報会社が主催する就活セミナーや企業説明会は、経団連指針はあるものの、実はすでに3/1の解禁日前に全国で行われています。一応「就活説明会」ではなく、「指針」が禁じていないキャリア勉強会やキャリアセミナーという名目で行われているものですが。
ただ、こうしたセミナーや説明会の参加状況は、私が知る限り決して芳しくはないようです。中には昨年に比べて参加学生が半減してしまったというセミナーや、学内開催なのに用意された席の6割程度しか埋まらないものも珍しくないという声を聞きます。程度に差はあれこうした事象は全国の大学で起こっているようです。
セミナーに来る来ないは全く持って学生の自由ではありますが、大学キャリアセンターも例年に比べて動員が落ちていると感じるのは全国的状況のようです。深刻なのは就活情報会社の主催する合同説明会で、大学のような母数が確保できない分、当日の動員状況は水物。3月でも雪が降るようなことがあれば一気に来場者は激減します。
結論からすると、シーズン前半の1月辺りはかなり来場者が少なかったものの、尻上がりに増えて、3月の合同説明会はかなり回復したといえる気がします。それでも従来に比べれば、動員は下がっている印象です。これは大学主催、情報会社主催を問わずです。
・すでに絞り込み始まる!?
超人手不足!といわれながらも、実は製造業、流通サービス業や接客、飲食など、一部の業界が主で、学生の多くか志望する名の通った大企業などでは、昨年も今年も決して売り手どころか、超有名大の学生であってもガンガン落としていました。一流企業・有名企業は売り手市場で無いことは明白です。
私が大学勤務を始めた15年前、リーマンショックが始まるまでは超売り手市場でしたが、2008年にリーマン破綻となる前から予兆は出ていました。これまでなら採用されるであろう学生が苦戦する例が出始め、採用への手ごたえが変わり始めたのです。まあしかしあくまで採否は個人がベースなので、まさかその後「超」氷河期と呼ばれるほどの事態になるとは思いませんでした。
今の採用環境はまだまだ圧倒的人手不足です。ただしそれは小売業や接客サービス、製造現場などに集中しており、学生から人気のある一般事務職や企画職などは、偏差値序列の高い大学でもきわめて限られており、むしろ大企業では派遣やアウトソースできる単純労働で正社員を雇う方が例外的となりつつあります。
・先輩からのフェイクニュース「就活は楽だった」
この手の「楽勝」情報はかなりまん延している可能性があります。リテラシーのない学生は、そうしたウソ情報を鵜呑みにしてしまい、勉強する内容も専門性も個性も違うにもかかわらず、「自分の就活も楽に違いない」という恐ろしい誤解をしてしまいます。
ちなみに楽勝だった先輩は必ずしもウソを言っているのではなく、単に自分の苦労を矮小化し、楽だった部分だけを強調しているのかも知れません。あるいは自分を大きく見せたいがために実際に悩んだ部分を見せない、良いとこどりの話をしているのかも知れません。いずれにしても、自らの進路への責任は自分にしかありません。フェイクニュースを信じてしまう程度のリテラシーは自己責任です。
私は戦略的コミュニケーションの講座も行っていますが、上手くしゃべることよりいかに情報を聞き取ることができるかを重視ししています。実際面接練習でも自分が言いたい事ばかりセリフを丸暗記して臨み、質問の主旨やニュアンスが違っても全く対応できない、棒読みプレゼンになってしまう学生はたくさんいます。
採用環境が厳しくなれば、状況を読み違える学生からそのツケは回るでしょう。ぜひ油断せず、成果目指して頑張ってほしいと思います。