トヨタとソフトバンクの提携に思う/野町 直弘
先日、トヨタとソフトバンクの提携が発表されました。今まででは考えられない組み合わせでしょう。それも従来型事業での連携ではないところに大きな意味がありそうです。
トヨタ自動車は「クルマを造る会社からモビリティサービス会社に変わる」と豊田社長は宣言しています。また、ソフトバンクは通信会社から既に事業の軸足をCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)に置き始めています。
ソフトバンクのビジョン・ファンドは10兆円規模の運用を行なっておりそれにより6000億円超の営業利益を稼いでおり、トヨタが出資をしている米ウーバーテクノロジー社などトヨタが目を付けた企業に必ずと言ってもいい程、ソフトバンクが出資している状況だったようです。
このように従来型の業種の垣根を超えた業務提携であるとということがたいへん注目を集めた一つの要因でしょう。
ソフトバンクは従来から多くのベンチャー企業に対して積極的に投資を進めてきました。このように事業会社が投資を行うというCVCという形態が昨今とてもブームになっています。これは主に大企業がスタートアップ企業に投資する活動であり、事業投資による収益を稼ぐだけでなく、外部との連携で大企業が新事業を創出したり、オープンイノベーションで必要な技術シーズをベンチャー企業から取得するということも目的にした活動です。
かつては日本の大企業は自前主義でありましたが、それを改め外部資源との連携や活用に力を入れることが推進され特にこの数年間で多くの企業が多額の投資を進めています。
私はこのCVCがブームであれ何であれ、非常に良いことであると考えます。ベンチャー企業への投資や育成、オープンイノベーションが進むことは新しい産業や企業の育成に必須だからです。
振返ってみると私が起業する少し前の2000年当時にも同様のベンチャーブームが起きていました。このブームはインターネット技術の進化・普及によってもたらされたものでヤフーの株価が1億6790万円と日本株史上最高値を記録したのは2000年2月のことでした。
しかしこのベンチャーブームはネットバブル崩壊によりあっと言う間に終焉しました。その後は企業再生系のファンド投資が投資ビジネスの中心になっていきました。
このように投資ビジネスと言っても栄枯盛衰が見られるのが日本の特徴なのかも知れません。
しかし日本の場合、今まではこれらの投資ビジネスがイノベーションにつながっているようには感じられません。
何故なら再投資につながっていないからです。2000年以降で大きく成長した日本のベンチャー企業は数えるほどしかありません。
一方で米国では2000年頃のネットベンチャー勃興期にアマゾンやGoogle、Facebookなどの企業が生まれ、それらの企業が今の米国産業の競争力を支えています。また、これらの企業が現在のCVCの資金の出し手として新しいベンチャーの育成に寄与しているようです。彼らは自分
たちも投資されて成長してきており、そこで生まれた資金を元に自社だけでなく他社に対しても再投資しています。
それによって新しい産業構造を生み出しているのです。
日本の場合はどうでしょうか。投資側から見るといくつかの草分け的なVCはともかく継続的にCVCをしているファンドはグロービスやソフトバンク程度しか思い浮かびません。
そもそも日本では銀行以外の事業者向け金融はあぶく銭の印象が強く、あまり良い印象が持たれていないこともその一つの要因ではないかと推察します。その一つの象徴的な事案がライブドア事件です。ライブドアは上場資金を元に多くの企業の買収に走りました。堀江氏は当時のベンチャー企業にとってシンボル的な存在でした。罪を犯したから罰せられるのは当然なのかも知れませんが、それによって堀江氏の事業家としての将来が(結果的に)奪われてしまったことはある意味日本的なことです。
結果的に当時優秀な若い人材がベンチャー企業にも多く集まりかけていましたが、その流れはなくなりました。一方で従来型の大企業に優秀な人材が集まるようになりました。人もお金も集まらなければ新しい企業や産業が生まれる筈もありません。政府も金融機関のソフトランディングに税金を注ぐ道を選び、新しい産業を育成し産業構造変革を促すような施策をとることは行なわなかったのです。
結果的に日本企業はほんの一部の企業や業種を除き競争力をなくしていきました。ですから私は今回のCVCが一時期のブームで終わらないことを願っています。
リーマンショック以降企業だけが内部留保を貯めています。資金の出し手の中心は事業会社にならざるを得ない状況。今のCVCが20年後に開花するのです。
そういう観点で長い目でベンチャー育成(と言うか自社シーズや事業展開として)を捉えて欲しいのです。