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農業をする不思議なアリは、アリ語を喋る

村上さんの専門、行動生態学というのは、生きている生物を観察することで、社会の仕組みなどを解明する学問だ。

その中でも、今力を入れているテーマがある、その内容を聞いてタケは耳を疑った。

なんと、ハキリアリが喋るというのだ。村上さんは門外不出のアリ語の音声をタケに披露した。

注意深く聞いていると、数種類の音がする、それぞれに意味がありそうな気がしてくる。

「例えば『いい葉っぱを切っているよ』とか『この葉っぱはあんまり好きじゃない』など、アリの状況によって出す音が違います。良い葉の情報では、アリが集合し、いまいちだと別のところに移動する、保育係が出す音、攻撃されているときの警戒音など、明らかにコミュニケーションに利用されているんです。

アリがどういう行動でどういう音を出すか、15種類ほどの音をサンプリングして、辞書を作っています。特に女王アリの声は他と全く違う音質です。女王の『止まれ!』を聞くと働きアリは『やばいぞ』という感じで凍り付き、動きを止めてしまいます。他にも『埋まったから助けて』という音は、あまりよろしくないですが(笑)アリを埋めて確かめました。これは、真面目な研究なんですよ」

女王アリが発するアリが動きを止める音など、アリの言葉を解析できたら、アリと人間の関係性を変える可能性があるそうだ。

農地にアリが入らないようにするなど、音が防虫に使えるかもしれない。そのためにも、研究を進めていきたいと語った。

「昨年は苦しい一年でした。ヒアリは好きで日本に上陸したのではなく、人間が連れてきたのですが、害虫となれば駆除するしかない。でも薬で殺すのではなく、他にも排除する方法があるんじゃないでしょうか。例えば昆虫が反応する音や匂いを使って、平和的に解決できることを願っています」

持続可能な社会のための決断科学

ところで村上さんは、今九州大学の決断科学部という学部に所属している。

耳慣れない学問だが、どんなことをするのだろうか?

「科学が発展することが、社会にどう役立つのか、持続性はあるのかを考える学問です。人間はまだ20万年しか生きていないけれど、ハキリアリの研究も、農業を軸にした社会を5000万年も維持しているのかを解明することで、そういった生態学の研究成果を世の中に還元することを目指しています」

自然科学だけではなく、文理を問わずに医学・工学、社会学などの研究者が集まり、どんな決断をすると、どういう結果になるのかなどの事例を積み上げ、よりよい未来を決断するためにどうするかを研究している、総合的で新しいアプローチの学問なのだそうだ。アリの組織にももちろん学ぶところが大きい。

「例えば、アリは利他行動をとる生物です。他の個体のために自分の行動を選ぶ、3か月で死んでしまう働きアリが飲まず食わずで働き続けるのも、そういうことです。その行動も強いリーダーに統率されているのではない。

女王はいますが、規律は各個体がもっていて、それぞれの働きアリが自分の軸で自発的に動いている。命令されて動いているわけではないんです。アリに倣うと、持続性がある組織を作るには、トップダウンではなく、個々が規範を高めて動くことが重要、個々の教育が大事だということかもしれませんね」

ハキリアリは日本人にはなじみがない虫だ。しかし生態を知ると、なんだかかわいく思えてくる。

しかも、アリの研究は人間との親和性が高く、人間社会に還元できる事例が数多くあるそうだ。

タケは、最後にもう一度女王アリの「止まれ!」を聞かせてもらった。

またいつか、村上さんのユニークなアリ語研究、先々の成果を聞くのが楽しみだと思った。


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