すべての空き情報が1秒でわかる世界へ “人生を豊かにするサービス”にかけるIT社長の想い/LEADERS online
「そこが空いているか?」が1秒でわかるやさしい世界をつくりたい
タケの質問は社名である「VACAN(バカン)」の意味を問うことから始まった。
河野さんが考えた造語ということだが、実はこれは英語で「空いている」の意味を持つ「Vacant」から来ている。
「我々が目指しているのは、ありとあらゆる場所の空き情報が1秒でわかる世界です」
たとえばレストランやカフェ、デパートや駅ビルのトイレ。それらが「今空いているかどうか」の情報をリアルタイムで提供する。
原点には、子どもが生まれたという個人的な体験があった。「時間というものがとても大切なものだと気づいたんです。忙しく働いている日常の中で、ほんのちょっとした時間でもすごく貴重だな」と。
そう思うようになったきっかけとして、たとえばこんなことがあったという。
「週末に家族で大型のショッピングセンターに遊びに行ったときのことです。帰る前に何か食べて帰ろうと思ったのにどの店もとても混んでいる。空いている店を探し回っているうちに子どもがぐずり出して泣きだしてしまったんです。じゃあ、もうあきらめて帰ろうか...となって、せっかくそれまで楽しく過ごしていたのに最後に少しイヤな気持ちになっちゃったんですよね」
このとき、「空き情報がすんなり分かるようなサービスがあれば、イヤな気持にならずに済む。過ごす時間のすべてをよい体験に変えられるんじゃないか」と現在につながるバカンの事業の根幹となるアイデアがひらめいたのだ。
世の中に夢を与えられる存在になりたい
「もともと起業志向だったんです」という河野さん。
大学2年生くらいからいつかは自分自身で会社を興そうと思っていた。その理由は「僕は宮崎の出身なんですが、田舎からどんどん人が減って過疎化していくのを見ていて、地方を盛り上げるためにはスタートアップと呼ばれる企業が頑張っていくしかない」と強く感じていたからだ。
地元が大好きだから、一緒に経済を盛り上げていきたい。そのためには自ら起業することは必然だった。
「ただ、自分が本当にやりたいものを見つける必要があった。情熱をもってがんばれることじゃないと長続きしない。そういう対象が見つかったら必ず起業すると決めていました」すでに起業している人たちに会いに行ってたくさんの話も聞いた。
彼らから、世の中をもっとより良くしたいという強い想いを感じたことも、河野さんの背中を押してくれた。「本気で世の中を変えようとしている人たちがいる。自分自身も、そうなりたい。世の中に夢を与えられる存在になりたいと思ったんです」
冷静に着々と準備を進めていった。
「大学院はMOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)を選びました」技術を元に経営することを学び、「0(ゼロ)→1」の勉強を深めることができたという。就職先に三菱総研というシンクタンクを選んだのも「日本全体を俯瞰したかったから」という明快な理由があったからだ。
「ちょうど民間企業に対してのコンサルティングを始めるというタイミングだったのも幸いでした」ただ、当時はまだビジネスの核を見つけてはいなかった。
「自分自身が特に何も困っていなかったから、解決したい課題が無かったんです」もう少しキャリアを積もうと、グリーに転職したのは事業会社で意思決定をする経験をしておきたかったからだという。
「グリーでも非常に面白い経験をさせてもらいました。ただ、大きな会社での事業の立ち上げは、他の事業とのシナジーを考える必要がある。自分がやりたいことだけを貫けるというのが、起業する最大のメリットだと思いました」起業すれば、自分たちが本当にやりたいことをストレートに世の中に問うことができる。
河野さんがその「本当にやりたいこと」を見つけて起業したのは2016年、33歳の時だった。
「ニーズはある!あとは検証だ」
「これまで世の中に存在していなかった空室情報の提供に特化したサービス。これがビジネスになるという確信はあったんですか?」と尋ねるタケに、河野さんは笑って「確信はなかったですね」と答えた後にこう続けた。
「でも、絶対にニーズはあると思っていた。僕自身が欲しいサービスだったというのが大きいです」
空室情報を提供するということは、単なる便利さや効率の提供ではない。限られた時間をほんの少しも無駄にしないことへの挑戦なのだ。
「時間に対する価値は普遍的で、今後ますます増していくと思っています。現代は物を買うだけでは満足できない時代だから、限られた時間をいかに充実させられるかということが人生を豊かにするための大きなファクターになるはずです」
ニーズはある。どんなふうにサービスを提供するかという課題はあるものの、それは一つずつ試しながら検証していけばいい。学生時代から起業を意識して動いてきたから「もともと覚悟はあったし、2年間分のキャッシュフローも考えて資金も貯めていました」。
初めて売り上げが立つまでに、半年かかった。「想定内ですから不安はなかったです」と、河野さん。
「僕たちのサービスは完成品を納品するのではなく、お客様の声に基づいて個別にチューニングしていくことが大事なんです」
とにかく手探りでやっていくしかない。「機器の設置も自分でやるしかなくて、脚立をもっていざ取り付けようと思ったら落として壊しちゃったなんてこともありました。すみません。また持ってきます!って慌てて戻って出直したなんてことも...」と当時の失敗談も今は笑い話だ。
納品期日の前日になっても製品が完成できなくて、社員みんなで泣きながら徹夜でがんばって間に合わせたという、聞いている方がヒヤッとする話も「下町ロケット風です」と笑いとばせる強さと明るさを持つ河野社長のもと、「今も全員が毎日ギリギリまでチャレンジを重ねています。まるで文化祭のようなテンションですよ」という日々が続いている。
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パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:西川文野(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月〜金 8:40頃〜)
【転載元】
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