日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

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前回の記事で「日銀政策への疑問(1)消費者物価指数2%アップ目標は適切なのか」という疑問を指摘した。そこでは、企業の戦略・政策を定める際に掲げる目標設定における「SMARTの法則」に当てはめて、R=Relevant(ズレていない)という観点でみておかしい、ということを申し上げた。

今回は同じSMARTの法則におけるM=Measurable(測定可能)という観点から突っ込んでみたい。

なるほど、CPI(消費者物価指数)で見た年平均インフレ率ということから、公式的にはこの目標は「測定可能」であることに議論の余地はないように一見思える。つまり「毎年のCPIという指数の上昇率だから客観的で正確な測定ができる」というのがこの目標を掲げた(そして支持している)人たちの主張だろう。しかし実はこの「公式見解」には2つの側面で突っ込み処が隠されている。

1.「モノ」から「サービス」への移行に追いついていない

1つは、CPIの対象になっているものが適正なのか、という点だ。つまり消費者にとっての標準的な物価の指標となるべく、CPIは本当に代表的な物価を採り上げて網羅しているのか、ということに素朴な疑問があるのだ。

CPIの対象になっているものはあまりに「モノ」に偏っており、「サービス」が少ないのではないか。そういう指摘は随分以前からあった。長い期間を経て少しずつ指標に含む対象は修正されてはいるが、それでも昨今のバンドル化(組み合わせてのまとめ売り)やサブスクリプション(継続課金方式)ビジネスの進展に追いつかず、あまりに旧来の傾向を引きずっていると言わざるを得ない。

例えば、クルマ関連ではクルマ本体ではなく、修理サービスや保険サービスに消費者はかなりの金額を使うようになっている。また、昨今では企業だけでなく消費者もリースでクルマを買い替えるようになっていたり、カーシェアリング会員になったりしている。

住宅でもリフォームや保証サービスが販売側の重点メニューになっており、家電でも同様に保証サービスを加えるケースが増えている。IT関係だとさらに進んでおり、年間契約での通信からデータ保管、機器貸し出しや保証等々、サブスクリプションづくしだ。

衣服・バッグなどのファッション品でさえ、「月額で何着まで交換できます」といった貸出サービスが若い人の間では市民権を獲得しており、雑誌も電子化されて定額読み放題のサービスが人気だ。ワインだけでなく、青汁やジュース、そして野菜・総菜や弁当までもが定期的に宅配されるようになっている。

つまり元々CPIで想定していた、単品購入が圧倒的多数を占めていた消費者の消費項目と金額の割合はどんどんバンドル化・サブスクリプション化されているのだ。

従来の区分の物品での消費額は激減しているが、実は別のサブスクリプション・サービスに組み込まれて消費されている、しかもそれをCPIでは見逃しているという実態があるのだ。

2.「隠れた値上げ」を見逃している

もう一つのCPIに関し提起しなければいけない疑問点は、「隠れた値上げ」を反映していないことだ。つまり表面上は値段据え置きだが、容量やサイズ・本数などを減らしてしまうやり方が、平成大不況後の試行錯誤を経て、消費者向けの商品ではかなり広範に行われているのだ。

CPIの対象の中でも、生鮮食品などでは重量当たりの値段などを見るケースも少なくないが、加工品では基本的にパッケージ毎、つまり「ひと箱」「1本」という単位での値段で比べているようだ。消費者の実感には近いだろうが、これだとメーカーが「隠れた値上げ」をいくらやってもCPIには反映しない。

多くの方が気づいていると思うが、例えばビールなどは同じ350ml缶なのに、以前なら大き目のグラスに十分に2杯分あったのが、今では約1杯半分しかない(小生の家庭では毎日夫婦でこの差を実感している)。源氏パイなどは昔に比べれば随分縮んでしまったし、ポテトチップスは袋だけ膨らんでいるが中身はスカスカになってしまった。

こういうセコイ「実質値上げ」以外に、堂々とした「お色直し」値上げというのもある。儲からない商品・サービスを廃止し、パッケージやネーミングまでもリニューアルした上に少し付加価値を上乗せした後釜商品(でも本質的には先代と同じ商品)を出して実質値上げをするケースだ(こちらは弊社でもコンサルティングさせていただいたことがある)。これもまたCPIには反映しないケースが多かろう。

以上見てきたように、「CPIの上昇率だから客観的で正確な測定ができる」という主張にはまやかしが結構含まれていることがよく分かるだろう。